帰納的推論に関する理論(グルーのパラドックスと投影可能性)
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「ネルソン・グッドマン」の記事における「帰納的推論に関する理論(グルーのパラドックスと投影可能性)」の解説
詳細は「帰納」および「グルーのパラドックス」を参照 グルーのパラドックスは帰納にまつわるパラドックスの一つで、グッドマンによって「帰納の新しい謎」(new riddle of induction)というタイトルの論文の中で発案された。 このパラドックスはヒュームの古典的な帰納法の問題を継承したものである。 グッドマンはヒュームの帰納的推論に関する説をまずは受け入れる。ヒュームによれば過去の経験は未来の出来事に干渉する。また帰納的推論は人間の習慣や社会生活に基づくものであり、日常生活における事物によって日々調整されている。 グッドマンはしかし、ヒュームがいくつかの調整は習慣をつくるものであり(たとえば所与の銅貨が電気を伝導すると、銅貨が電気を伝導するという諸説・主張の信頼性が増す)、そうでない調整もある(例えば三人の男が部屋にいることは、部屋にいるのは三人の男であるという確証・主張の信頼性を増やしはしない)ということを見落としていると批判する。このような調整と、偶発的な一般性から戒律的な主張を構成する諸仮説とをいかに見分けることができるだろうか。 カール・ヘンペルの確言理論での解決は、あるクラスにおけるすべての事物に適用される仮説と、一つの事だけを指し示す証拠的な主張とを区別するというものであった。 グッドマンはこれらへの反論として、「グルー」について議論する。 グルー(grue)とは、たとえば、「2050年までに初めて観察されたものについては緑(green)を指し、2050年以降に初めて観察されたものについては青(blue)を指す」と定義される。グルーは、緑と青の切れ目にどの時点をとるかで無数の定義がありうる。 「エメラルドは緑である」という命題について2000年の段階でわれわれが持つ証拠はすべて、「エメラルドはグルーである」という命題の証拠にもなるため、この2つの命題は同じくらい強く検証されている。しかし、2050年以降に初めて観察されるエメラルドがどういう色を持つかについてはこの2つの命題はまったく異なる予測をすることになる。 ヒューム的な懐疑を避けるために斉一性原理(すでに観察したものはまだ観察していないものと似ている)を認めたとしても、どういう斉一性を想定するか(エメラルドは緑だという斉一性か、エメラルドはグルーだという斉一性か)によって、事実上あらゆる予測が斉一性原理と両立してしまう、ということを示している。われわれは、無意識に投影可能 (projectible)な述語(緑はこちらに分類される)とそうでない述語(グルーはこちらに分類される)を分け、projectibleな述語のみを帰納に使う。しかし、投影可能性を正確に定義することも投影可能な述語だけが帰納に使えると考える根拠を示すことも非常に困難である。
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