師部輸送(師部転流)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/21 15:14 UTC 版)
光合成によってつくられた糖は、師部の師要素からなる師管や師細胞組織を通して植物体全体に輸送される。この輸送は、師部輸送 (篩部輸送、phloem transport) とよばれる。師部輸送によって運ばれる水溶液には大量の糖 (主にスクロース、ときにオリゴ糖または糖アルコール) が含まれ、またアミノ酸や無機養分も含まれている。さらに植物ホルモンや伝令RNA (mRNA) も輸送され、植物体全体の情報交換の通路ともなっている。このような師部輸送によって運ばれる液は、師管液 (篩管液、phloem sap) とよばれる。師部輸送では、師管断面積 1 cm2 あたり1時間に数グラムの物質が輸送され、また輸送速度は時速 1 m に達することがある。 木部による水や無機養分の輸送 (木部輸送) が根から気孔がある部分へ向けての一方通行の輸送であるのに対して、師部輸送の方向は時期や植物の状態によって変動する。このような師部輸送において、師管液を供給する側をソース (source)、師管液を受け取る側をシンク (sink) という。同一の器官が時期によってソースとなったりシンクとなることがあり、例えば貯蔵器官は光合成が活発に行われている時期にはシンクとなり、早春など活発な活動を開始する前にはソースとなる。シンクとソースの間の師部輸送の仕組みは、基本的にシンクよりソースの方が浸透圧が高いことによって生じる水の流れであると考えられている。この仮説は圧流説 (pressure flow theory) とよばれ、エルンスト・ミュンヒ (1930) によって提唱された。ただし被子植物以外の師部輸送 (師管ではなく師細胞組織が用いられる) が、圧流説で説明できるか否かは明らかではない。 ソースから師部に物質が移動することは積み込み (ローディング、phloem loading) とよばれ、師部からシンクに物質が移動することは積み降ろし (アンローディング、phloem unloading) とよばれる。いずれの場合も、シンプラスト経路 (原形質連絡を通した経路) とアポプラスト経路 (細胞壁など細胞膜外を通した経路) が存在する。例えば原形質連絡を通じて運ばれたスクロースが中継細胞 (intermediate cell) においてオリゴ糖に変換され、オリゴ糖は大きいため葉肉細胞へは戻れず、師管方向への輸送が促進される植物もある (ポリマートラッピング polymer trapping)。また積み込みの際には、糖の濃度が低いところから高いところへ輸送されることがあり、このような場合は能動輸送も用いられる。例えばスクロースが能動輸送によって輸送細胞 (transfer cell) に取り込まれ、これが師管へ輸送されるものもある。積み降ろしの場合は、シンク側で糖が消費またはデンプンなどの不溶性物質に変換されているため、ふつうシンク側の方が糖濃度が低くなっている。 師部を通した電気的なシグナルの伝達も知られている。植物体のある部分で生じた電気刺激が師部を通して伝達され、遺伝子発現や呼吸、光合成、植物ホルモンの量、師部での積み降ろし (上記) などに変化を引き起こすことが報告されている。
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