妻争い
★1.複数の男が、一人の女を得ようとして争う。女は男たちの内の一人と結婚する。
『うつほ物語』「藤原の君」~「あて宮」 源正頼の九女あて宮は絶世の美女で、12歳で成人すると、仲忠・忠こそ・涼をはじめとする数多くの男たちから求婚される。しかし彼女は東宮に嫁したため、求婚者たちは悲嘆し、中でも同母兄の仲澄は悶死、源仲頼は出家、滋野真菅は発狂して流罪、三春高基は自邸に放火して遁世、という結果に終わった。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第10章 絶世の美女ヘレネに求婚すべく、ギリシアの王たち30人ほどがスパルタに赴く。父王テュンダレオスは、「1人を選べば、他の者たちが争いを起こしはせぬか?」と心配する。オデュッセウスの案で、求婚者たちは「選ばれた婿が何か害をこうむったら、皆で婿を助ける」と誓言をし、テュンダレオスはメネラオスを婿に選ぶ。
『古事記』上巻 八十神(やそかみ)たちが皆、ヤガミヒメを妻にしたいと望んで因幡国まで出かける。彼らの兄弟であるオホナムヂ(=大国主命)が袋を負い、従者となってついて行く。ヤガミヒメは八十神たちの求婚を退け、オホナムヂを夫とする。
『古事記』中巻 八十神たちがイヅシヲトメを得ようとして、皆失敗する。秋山の下氷壯夫・春山の霞壯夫兄弟が求婚するが、兄の下氷壯夫は失敗する。弟の霞壯夫が母の援助を得て、イヅシヲトメと結婚する。
『日本書紀』巻16武烈天皇即位前紀 武烈天皇が皇太子時代のこと。太子が海柘榴市(つばきち)の歌垣で、影媛の袖をとらえて誘いかける。そこへ大臣平群真鳥の子・鮪(しび)が来て、太子と影媛の間をおしのける。太子と鮪が影媛を争って歌をうたい合ううち、太子は、鮪がすでに影媛と通じていたことを知る。太子は怒り、その夜、多くの兵を集めて鮪を殺す〔*『古事記』下巻では、袁祁命と志毘臣が、菟田の長の娘大魚を争う〕。
★2.複数の男が、一人の女を得ようとして争う。女は誰とも結婚せずに、遠い世界へ去る。
『竹取物語』 多くの男がかぐや姫を得ようと昼も夜も訪れ、石作の皇子ら5人がとりわけ熱心であったが、かぐや姫は難題を出して彼らをすべて退けた。かぐや姫は帝の求愛にも応ぜず、地上の男の誰とも関係を持たぬまま月世界へ去った。
★3.大勢の男が、一人の女に求婚して争う。女は誰とも結婚せずに死に、男たちは諦める。
寅御石(高木敏雄『日本伝説集』第14) 弘安(1278~88)の頃。長者の娘お寅は絶世の美女だったので、近郷近在の大勢の男が求婚した。誰を婿に選んでも、他の求婚者たちから恨まれる。長者は思い悩み、ある決心をして、求婚者たちを家へ招く。酒宴の席で、血の滴る生肉を盛り上げた大皿が出る。それはお寅の腿肉だった。求婚者たちはお寅の死を知り、生肉を食べ尽くして涙ながらに引き上げた。彼らが申し合わせて供養塔を建立したのが、今の寅御石の起こりである(埼玉県南埼玉郡河合村馬込)。
*夫が、死んだ愛妻の肉を食べる→〔人肉食〕6bの『遠野物語拾遺』296。
*大勢の男たちが、夫の留守を守る1人の人妻を得ようとして争う。人妻は男たちをすべてしりぞけ、帰還した夫と再び結ばれる→〔帰還〕1の『オデッュセイア』。
*大勢の男たちが、大富豪の1人娘を得ようと、さまざまな試験を受ける。試験を受けず求婚競争に加わらなかった青年が、その娘と結婚する→〔婿選び〕1の『露団々(つゆだんだん)』(幸田露伴)。
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