多量体化と凝集
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/10 08:12 UTC 版)
ドメイン交換によるセルピンの多量体形成 ドメイン交換により生じたセルピン二量体。 (PDB 2ZNH) ドメイン交換により生じたセルピン三量体。各単量体のRCLは自身の分子内に取り込まれる(緑色の単量体の赤色で示された部分)。 (PDB 3T1P) ほとんどのセルピン疾患はタンパク質の凝集によるもので、「セルピン病」と呼ばれる。本質的に不安的な構造のため、セルピンは折りたたみ異常を促進する疾患起因変異に対し脆弱である。よく研究されているセルピン病に、家族性の肺気腫や時に肝硬変を引き起こすα1アンチトリプシン欠損症、アンチトロンビン欠損症関連の家族性血栓症、C1阻害剤欠損症による1型および2型の遺伝性血管性浮腫 (HAE)、およびニューロセルピンの封入対形成を伴う家族性脳症(FENIB; ニューロセルピンの多量体形成に起因する稀な認知症)などが含まれる。 セルピン単量体の凝集は不活性の弛緩型立体構造(RCLがAシートに取り込まれた状態)をとる。それゆえ多量体は温度に対し極めて安定で、プロテアーゼを阻害できない。そのためセルピン病は2つの主要原理によって他のタンパク質病(プロテオパチー、例:プリオン病)と似た病理を示す。まず、活性化セルピンの欠失はプロテアーゼの暴走と組織破壊を起こす。次に、超安定多量体自身もセルピンを代謝する小胞体を妨害し、結果的に細胞死と組織損傷を起こす。アンチトリプシン欠損症ではアンチトリプシンの多量体が肝細胞の細胞死を引き起こし、肝臓の破壊と肝硬変の原因となる。細胞内でセルピン多量体は小胞体における分解を受けて徐々に除去される。しかし、セルピン多量体が細胞死を起こす詳細な機構はいまだ完全には理解されていない。 セルピン多量体は、生理的にはドメイン交換現象によって生じると考えられている。この現象においてはセルピン分子の一部分が他のセルピン分子に取り込まれる。ドメイン交換は変異や環境因子がセルピンが天然状態の構造へと折りたたまれる行程における最終段階を妨害し、高エネルギー中間体の折りたたみ異常を起こす事で発生する。これまでに二量体と三量体の両者についてドメイン交換構造が解かれてきた。まず、(アンチトロンビンの)二量体においてはRCLとAシートの一部が他方のセルピン分子に組み込まれる。一方、(アンチトリプシンの)ドメイン交換型三量体は二量体とは全く異なり、Bシートの交換によって多量体が形成され、各分子中のRCLは自身のAシートに取り込まれる。また、セルピンがRCLを他方のAシートに挿入することでドメイン交換構造を形成する可能性(Aシート多量体化)も提案されている。以上のようなドメイン交換により生じる二量体構造や三量体構造は疾患関連多量体凝集の塊を作ると考えられているが、正確な原理は未だ明らかでない。
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