夏の融解
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/16 10:18 UTC 版)
北極海では、海氷の上部を覆う雪の層が6月の中旬から7月近くの間に融け始める。雪から融解した水は水路を作りながら集まり、氷の表面に池を多数作る(メルトウォーター・プール=パドル、puddle)。冬の終わり、ぶつかり合って氷脈になっているものを別にすれば一年目の氷は表面が滑らかで、初期のパドルは氷の上にできた小さなくぼみや、単純に半解けの水(雪泥)が層となって残った浅いものである。しかし夏になると、この最初の構造は固定されて窪みが深くなってゆく。これは水の反射量が15 - 40%で、普通の何も無い氷(はだか氷)の40 - 70%と比べて太陽の放射を優先的に吸収するので周囲より氷が融けやすいためである。 このパドルが深く成長し拡大するにつれ、氷原の縁やひび割れを通して融解水が海面に排出される。また、氷が最も薄い地点やパドルの最も深い場所で融解してできた孔(底なしパドルthaw holes)を通して排出されることもある。底なしパドルが開いた時、融解水は一気に流れ出る。定着氷のように水平な氷の上では、氷板表面の大部分の水が一つの底なしパドルから排出されることがある。このような孔は上空から見ると巨大な蜘蛛(パドルが体で、そこに向って流れる融解水の水路が足)のように見える。 氷の下部も表面の融解の影響を受ける。パドルの直下では氷が薄くなっており、日射の吸収率が高くなっているからである。これが底面の融解を促進し、氷の底面は上部のパドルの分布を反映して地形的なくぼみが発達する。このように、最初は滑らかだった一年氷の氷原は、夏の終わりには上面と底面ともに地形的に凹凸が発達するようになる。排出された融解水が氷の窪みの下に集まって融解水のプールを作ることがある。この水は秋に再び凍って、氷の下底部は部分的に滑らかになり、窪みではなく瘤を作ったりする。 融解水の最も重要な役割は、氷の結晶内に残っていたブライン(濃い塩分水)を、微細な孔や割れ目や水路を通して大量に放出させることにある。 フラッシング(flushing)と呼ばれるこの過程は、最も効果的で急激なブライン排出メカニズムで、一年目の氷に残ったほとんど全てのブラインを除去する。 表層の融解水の流体静力学的な状態が、ブライン除去の最初のきっかけになるが、ブラインは氷の結晶同士の隙間に貯蔵されていた濃縮した塩分水であるが、その隙間は互いに密接な孔のネットワークを作っており、それもフラッシングの過程で重要である。ブラインの量によって海氷の強度が決まるため、フラッシングのメカニズムを経て2年目の冬まで融け残った氷板は最初の冬の氷板より強度が高い。
※この「夏の融解」の解説は、「海氷」の解説の一部です。
「夏の融解」を含む「海氷」の記事については、「海氷」の概要を参照ください。
- 夏の融解のページへのリンク