変形によるエネルギー損失
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/04/23 04:27 UTC 版)
「転がり抵抗」の記事における「変形によるエネルギー損失」の解説
タイヤの転がり抵抗は、タイヤを構成しているゴムが繰り返し変形する際に起きるエネルギー損失(ヒステリシス・ロス)が、転がり抵抗の9割程度を占める。ゴムは、弾性と粘性の両方の性質を持つ粘弾性体であり、特に粘性は変形時の運動エネルギーを熱エネルギーに換えて散逸させる性質が強い。タイヤは、部位によって、様々なゴムをはじめ、カーボンブラック等の充填材、有機繊維等の補強材料を組み合わせて構成されており、走行中のひずみも部位によって異なる。このため、各部位のひずみエネルギーとヒステリシス・ロスを解析して、安全性、耐久性、低燃費を追求する取り組みが行われてきた。例えば、1990年代以降には、ヒステリシス・ロスが全転がり抵抗の半分以上を占めているトレッド部について、カーボンブラックの一部を高比率でシリカと代替することによりロスを低減し、他の機能を犠牲にすることなく転がり抵抗を低減させるようになった。 タイヤの変形の大きさは空気圧にも大きく依存し、タイヤの空気圧が低いと転がり抵抗が大きくなり、燃費を悪化させることになる。極端に空気圧が低い場合は、変形によって発生した熱エネルギーがサイドウォール部の過度の温度上昇をもたらし、タイヤの寿命をも短くする。 タイヤで発生する熱は転がり抵抗を低減させる。これは、-10℃より上では、ゴムのエネルギー損失係数が温度の上昇と負の相関を示すため、温度が上昇するほどヒステリシス・ロスが低減するからである。タイヤの種類によるが、温度が10℃上昇すると転がり抵抗を5 - 10%低減させるといわれている。 全転がり抵抗の半分以上を占めているトレッドの厚さは、転がり抵抗と大きな関係があり、トレッドが厚いほど転がり抵抗が高くなる。したがって、耐久性や安全性を別にすれば、自動車はタイヤが擦り減るのに応じて燃費が向上し、トレッドがすり切れた時点で最高の燃費を得ることになる。また、経時変化によってゴムの損失係数が小さくなるが、このことは転がり抵抗軽減による燃費向上に寄与する一方、トレッド面のしなやかさの低下により偏摩耗が促進される。 弾性体物質の転がり抵抗は速度の影響をあまり受けないが、粘弾性体であるゴムのエネルギー損失係数は数100Hzで最大になるような周波数特性を持つため、その転がり抵抗は速度と共に斬増し、臨界速度を超えると急速に増加する。これは、スタンディング・ウェーブ現象によるひずみエネルギーの急増によるものであり、この臨界速度は主としてタイヤ構造(タイヤの速度記号に反映)や空気圧の高低によって決まる。
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