培養菌糸体の発光
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 04:25 UTC 版)
発光性を有する子実体から得た胞子を分離源とした一次菌糸(単相菌糸)は発光性を持ち、和合性を持った一次菌糸同士の接合によって形成された二次菌糸(重相菌糸)も、同様に発光性を備えている。一次菌糸・二次菌糸は、ともに、液体培地に菌体が浸漬された状態で培養すると、光量が大きく低減される(ただし、液体培地から菌糸を取り出して固形培地に植え替えれば、光量は回復する)。また、培養温度と培地の水素イオン濃度指数(pH)も発光性に影響をおよぼし、22-24℃・pH 3-4.0の条件においてもっとも発光性が強くなる。 いっぽうで、培養時の光条件は、菌糸体の生育・伸長に関係するのみならず発光性の強弱にも多少とも影響し、もっともよく発光するのは暗黒下で培養した場合であった。培養日数も発光の強さに影響し、例を挙げれば、培地として BBL 社製マイコフィル寒天培地を使用し、23℃の暗黒下で培養したところでは、その発光は培養開始から10~15日めにもっとも強くなった後、次第に弱まり、60日め以降には肉眼でも減光していることが確認でき、75日めには光電子増倍管を用いても測定できないレベルになったと報告されている。また、パン粉寒天培地(市販のパン粉100g・蒸留水1000ml・寒天18g)を用い、22℃・暗黒下で培養した実験結果では、発光のピークは21日めにみられ、発光は7-10週間にわたって認められたという。 培養菌糸体の発光は、短波長(280 nm程度)の紫外線によって著しく阻害されるが、逆に、より波長の長い(366 nm程度)紫外線を当てることで増強される。また、エックス線照射(照射線量100-500レントゲンの範囲)によっても顕著に増強される。 光量には日周性の変動が認められ、培養環境としての光条件(常に光照射状態におくか、あるいは暗黒下で培養するか、もしくは自然条件下とおおむね同様の間隔をおいて光照射と光遮断とを交互に行うか)にかかわりなく、午後6時から9時の間に光量は最大となる一方、午前9時前後には最も低下するという。この変動パターンは、培養菌糸体へのエックス線照射を経ても維持される。 発光する子実体の胞子から培養した一次菌糸を、発光しない別の子実体の胞子から得た一次菌糸と交配して得た二次菌糸体グループの中からは、発光性の菌糸体と発光しない菌糸体とが、おおよそ1:1の比率で出現した。この事実から、発光性は一対の対立遺伝子によって発現が制御され、遺伝的には優性形質であると考えられている。また、発光性の欠如は、少なくとも3種類の対立遺伝子に生じた突然変異によるものであるという報告がある。
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