哲学者アルガゼル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/02 15:18 UTC 版)
ガザーリーが著した哲学の解説書である『哲学者の意図』はイブン・スィーナーの思想の入門書として最も優れたものであり、ラテン語に翻訳されて中世ヨーロッパのスコラ派哲学者たちの間で広く読まれた。しかし、哲学の批判書である『哲学者の自己矛盾』はヨーロッパ世界には伝わらず、ヨーロッパに伝わった『哲学者の意図』の写本には執筆の目的が述べられた序文と後書きが欠落していたため、ヨーロッパ世界ではガザーリーは「哲学者」アルガゼルとして知られるようになる。中世ヨーロッパで参照されたガザーリーの著作は哲学の分野に限られ、参照されたテキストの多くに不完全なラテン語訳本とヘブライ語訳本が使われていた。 19世紀に入るとアラビア語原典からの翻訳とそれらの研究が始まり、ガザーリーの思想の全体像を明らかにしようとする試みがなされ、『哲学者の意図』と『哲学者の自己矛盾』をはじめとする他の著作の記述に相違点・矛盾点が発見されたが、なおも『哲学者の意図』はガザーリー自身の思想の現れであると誤解され続け、研究者たちはより困惑する。1859年に『ユダヤとアラビア哲学論集』を発表したザロモン・ミュンク(フランス語版)によって写本の序文の欠落が初めて指摘され、ガザーリーは哲学に批判的な姿勢を取っていたことが明らかにされた。しかし、ミュンクの説が発表された後も「哲学者アルガゼル」像は完全に払拭されなかった。 ダンカン・ブラック・マクドナルドは、1899年に公刊した論文「宗教体験と意見を中心としてみたガッザーリーの生涯」においてガザーリーの史的意義を以下の4点に集約し、特に一番目と三番目の功績の重要性を評価した。 スコラ学的神学研究から、コーラン(神の啓示)・ハディース(預言者の伝承)への回帰の促進 説教、道徳的訓戒への畏怖、恐怖の再導入 イスラーム社会内でのスーフィズムの地位の確立 哲学、哲学的神学の内容を一般の人間が理解できる程度に構築した マクドナルドの研究は後続の研究者に正統的なガザーリーの解釈と見なされ、彼のガザーリー評は一般の認めるところとなっている。1990年代に入り、従来のガザーリーのものとされる著作あるいは著作の一部の記述を抜き出してそこに見られる哲学思想を論じる手法から脱し、著作全体を俯瞰してその背後にあるイブン・スィーナーの影響を考察する研究が目立ち始めた。
※この「哲学者アルガゼル」の解説は、「ガザーリー」の解説の一部です。
「哲学者アルガゼル」を含む「ガザーリー」の記事については、「ガザーリー」の概要を参照ください。
- 哲学者アルガゼルのページへのリンク