反応機構と選択性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/11/23 22:01 UTC 版)
ボランのアルケンへの付加は立体特異的であり、syn付加となる。この実験事実からボランのアルケンへの付加は協奏的な1段階の反応機構で進行していると考えられている。付加の前駆体としてアルケンがボランの空軌道に配位した三員環型の構造を持つ錯体を考える説もある。 ボランがアルケンに付加する際の位置選択性は、アルキル置換基の数のより少ない炭素にホウ素が結合し、アルキル置換基の数のより多い炭素に水素が付加する。これはホウ素が水素よりも電気陰性度が低いという電気的要因と、立体的要因に起因する。B-H結合ではBがδ+,Hがδ-を帯びているため、求電子剤であるホウ素はよりアルキル置換基の少ない方の炭素に付加する(ただしホウ素と水素の電気陰性度の差が0.2しかないわりに大きな選択性が発現するため、この考え方には批判もある)。協奏的にボランが付加する時、ホウ素から伸びる結合とアルケンの炭素から伸びる結合はエクリプス型で接近することになる。置換基の少ない炭素にホウ素が付加するほうがこのエクリプス型の接近による反発を小さくなるため有利である。 BH3を用いる限り、位置選択性は大抵の場合完全ではなく、生成するボランは位置異性体の混合物となる。また二置換の内部アルケンでは二つの置換基の立体的な大きさに大きな差異があっても、ほとんど位置選択性は発現しない。このような場合に位置選択性を改善するには先に挙げたような立体的にかさ高い置換基を持つモノアルキルボラン、ジアルキルボランを使用する。このような目的で使用されるアルキルボランとしては、2-メチル-2-ブテンから調製されるジシアミルボラン((Sia)2BH)、2,3-ジメチル-2-ブテンから調製されるテキシルボラン((Thx)BH2)、1,5-シクロオクタジエンから調製される9-ボラビシクロ[3.3.1]ノナン(9-BBN)などが挙げられる。 光学活性なα-ピネンから誘導したジイソピノカンフェニルボラン((Ipc)2BH)を使用するとエナンチオ選択的なヒドロホウ素化を行なうこともできる。また、カテコールボランやピナコールボランのようなアルコキシボランはヒドロホウ素化の反応性が低いが、遷移金属触媒を用いると円滑に反応が進行する。 ヒドロホウ素化は室温付近の温度では不可逆であるが、160℃程度まで加熱すると可逆となる。この結果、反応が速度論支配から熱力学支配に変わり、生成物の立体選択性が逆転することがある。
※この「反応機構と選択性」の解説は、「ヒドロホウ素化」の解説の一部です。
「反応機構と選択性」を含む「ヒドロホウ素化」の記事については、「ヒドロホウ素化」の概要を参照ください。
- 反応機構と選択性のページへのリンク