反例:有限次元ベクトル空間の双対
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2016/05/07 22:24 UTC 版)
「自然変換」の記事における「反例:有限次元ベクトル空間の双対」の解説
有限次元ベクトル空間は必ずその双対空間と同型となるが、このときの同型を与える同型射の選び方には任意性がある(例えば、基底を一つ選びその基底を対応する双対基底に写す操作は同型になる)。一般には、有限次元ベクトル空間とその双対空間の間に自然な同型は存在しない[要ページ番号]。しかし、以下に述べるように(付加構造を持ち、射として考える写像を制限した)類似の圏では自然同型を持ちうる。 次元というのが与えられた体上の有限次元ベクトル空間の唯一の不変量であることから、有限次元ベクトル空間の双対空間は、やはりもとの空間と同じ次元の有限次元ベクトル空間であり、これら二つの空間は同型である。しかしながら、(基底などの)追加の情報がなければ与えられた空間からその双対空間への同型を与えることはできず、したがってそのような同型を選び出すことが必要で、これは「自然でない」。すべての有限次元ベクトル空間とすべての線型写像の成す圏において、各空間に対して同型を選ぶ(というか、基底を決めて対応する同型をつくる)ことにより、ベクトル空間のあつまりからそれらの双対空間のあつまりへの劣自然同型を定めることはできる。しかしこれは自然同型を定めるものにはならない。それは直観的には選ぶという操作が必要だからであり、厳密にはそのような同型を「どのように」選んでも「すべての」線型写像と可換になるということが期待できないからである。詳細な議論は (Mac Lane & Birkhoff 1999, §VI.4) を見よ。 (対象としての)有限次元ベクトル空間と双対をとる函手から自然同型を定めることは可能である。しかしそれには、まず付加構造を入れて、それから考える写像を「線型写像すべて」から「付加構造まで考慮した線型写像すべて」に制限することが求められる。陽に述べれば、各ベクトル空間 V にその双対空間への同型写像 ηV: V → V* の情報が与えられている必要がある。言い換えれば、ベクトル空間 V と非退化二次形式 bV: V × V → K の組を対象として考えるのである。これにより劣自然同型 η が定まる。それから考える写像を、付加構造として与えられた同型と可換な線型写像に制限する(射を η の自然化へ制限する)。非退化二次形式で言えば、二次形式を不変にする(bV(T(v), T(w)) = b(v, w))ものに限る。こうして得られた圏(非退化二次形式を備えた有限次元ベクトル空間すべてを対象とし、与えられた非退化二次形式を不変にする線型写像すべてを射とする圏)は、作り方から、恒等函手から双対函手への自然同型を持つ(各空間はその双対への同型写像をもち、この圏の射がそれらと可換となることは仮定そのものである)。その意味ではこの構成(各対象に変換を付け加えて、それらと可換なものに射を制限する)は完全に一般で、しかもベクトル空間の何らかの特定の性質に依存するものでない。 この圏(非退化二次形式を備えた有限次元ベクトル空間と二次形式まで込めて線型な変換の圏)において、ベクトル空間の間の射の双対は転置写像と同一視することができる。しばしば幾何学的興味を理由に、非退化二次形式がさらに追加の性質を持つことを仮定して、この圏を部分圏に特殊化することも多い。追加の性質としては、対称性(直交行列も参照)、対称かつ正定値(内積空間参照)、対称かつ半線型(エルミート空間)、歪対称かつ完全等方的(シンプレクティック空間)などがある。これらすべての圏において、非退化二次形式を通じてベクトル空間とその双対が自然に同一視される。
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