原書房版
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/01 03:06 UTC 版)
書名は『ホビット ゆきて帰りし物語 [第四版・注釈版]』。訳者は英文学者の山本史郎。1997年初版。底本はダグラス・アンダーソン校注の『注釈版ホビット(The Annotated Hobbit)』(1988年)。『注釈版ホビット』を底本としているため、初版から第3版までにトールキンが加えた改訂に関する情報やアンダーソンによる注釈が巻末に付されており、また、トールキン直筆のものや岩波書店版の寺島竜一のものを含む各国語版の挿絵がふんだんに使用されている。書名に「第四版・注釈版」とあるが、底本の『注釈版ホビット』で使われている本文は第3版にアンダーソンが校訂を施したものであり、トールキン研究で一般に「第4版(the fourth edition)」と呼ばれているのは、トールキンの死後初めての改訂となった1978年にイギリスで出された版である。アンダーソンは、この第4版は数十のミスが混入しているのであてにならないと『注釈版ホビット』に記しており、このことに言及した箇所はこの本を底本としている本書でも訳出されている。 この原書房版初版は、「ナンタルチア!」「サーラバイバイ」をはじめとする奇抜な訳語や、トールキンの他の作品と整合性がとれなくなる誤訳、「僕チン」などの岩波書店版とイメージの異なる訳語などを理由に、岩波版の瀬田訳に親しんでいた読者には概して不評だった。この訳の底本になった『注釈版ホビット』はアメリカで2002年(イギリスでは2003年)に増補改訂版が出版されたが、そのなかの各国語版の解説のところで「Makoto Takahashiという日本人の意見」として原書房版の日本語訳は"a poor translation"であると書かれている。 原書房版は2012年に実写映画の公開に合わせて新版が出され、新たに文庫版も上下分冊で出版された。新版では2002年の増補改訂版が底本になり、訳文が全面的に見なおされた。地名は岩波版のものをいくつか採用し、普通名詞が地名として使われている場合(Hill、Daleなど)は、初版ではボールド(太字)で表現されていたが新版では山括弧に変更された。人名はBBCラジオドラマ版の発音を参考に変更された。 注釈版第二版を底本にしたことにより、第二版で追加された大量の注および「エレボールの探求(英語版)」が訳出されている。「エレボールの探求」は『ホビット』の内容を要約したもので、『指輪物語』増補編の一部として書かれたが、長すぎることを理由に削除されたものである。「エレボールの探求」は『終わらざりし物語』にも収録されているが、本書に収録されたものとはバージョンが異なっている。また、巻末に訳者による年少読者向けの解説、トールキンと『ホビット』についての解説、原書の英語表現に関する解説が追加されている。 新版では、初版にあった各国版の挿絵がトールキン直筆の挿絵をのぞいてすべて削除され、各版の改訂に関する注が第5章「暗闇(くらやみ)の謎謎合戦」などの差異の大きい箇所を除いで削除された。注釈版序文は本文の後に移動されている。なお、前述の原書房版の評価の記述は訳出されていない。 ハードカバー版(新版) ダグラス・A・アンダーソン注 山本史郎訳 原書房 2012年(1997年) ISBN 978-4562048663 文庫版 ダグラス・A・アンダーソン注 山本史郎訳 原書房 2012年 上 ISBN 978-4562070008 下 ISBN 978-4562070015
※この「原書房版」の解説は、「ホビットの冒険」の解説の一部です。
「原書房版」を含む「ホビットの冒険」の記事については、「ホビットの冒険」の概要を参照ください。
- 原書房版のページへのリンク