原因と発症メカニズム
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拡張型心筋症は、以前からウイルス、アルコール、毒物、免疫障害など非遺伝的攻撃によってもたらされることが知られていた。原因不明なものは“特発性”拡張型心筋症と呼ばれていたが、サルコメア蛋白質、細胞骨格蛋白質、筋形質膜および核膜蛋白質の遺伝子の突然変異が拡張型心筋症の大きな原因であることが最新の研究で明らかにされている。2013年の時点で、本症症例のおよそ3割が遺伝子突然変異が原因であると推定されている。遺伝子突然変異が拡張型心筋症を引き起こすメカニズムを明らかにするため、サルコメア蛋白質であるミオシン、アクチン、トロポニン、トロポミオシンに関して、組換え変異蛋白質分子や遺伝子改変動物モデルを用いた研究が活発に行われている。ミオシン変異はサルコメアの収縮機構そのものを傷害し(i.e.,アクチン-ミオシン相互作用の低下をもたらす)、アクチン、トロポニン、トロポミオシン変異は心筋収縮のカルシウムによる調節機構を傷害する(i.e.,ミオフィラメントカルシウム感受性の低下をもたらす)ことが明らかにされている。一方、細胞骨格蛋白質と細胞膜貫通蛋白質の突然変異はサルコメアが発生する力の隣接心筋細胞への伝達を傷害し、核膜蛋白質の突然変異は心筋細胞に加わる力による遺伝子発現機構の傷害によって拡張型心筋症をもたらすのでないかと推測されている。遺伝性拡張型心筋症の研究からはっきりした重要なことは、心筋細胞には単にその収縮機能が内因的に低下するだけで心拡大によって代償するメカニズムがはじめからプログラムされているということである。皮肉なことに、その代償メカニズムが働くことによって致死的不整脈による突然死のリスクが高まり、その破綻によって末期心不全がもたらされるものと推測される。現在治療薬として用いられるβブロッカー、アンギオテンシン変換酵素阻害薬やアンギオテンシンII受容体ブロッカーは、短期的には収縮機能を高めるが長期的には有害な“細胞内cAMPとカルシウムの増加を介する”代償反応を抑えることでその破綻を遅らせているように見える。細胞内cAMPとカルシウムの増加によらず収縮機能を改善することができる新規の強心薬であるカルシウム感受性増強薬やミオシン活性増強薬などは、このような長期的には有害な代償反応プログラムの発動を抑えてより高い有効性を示すことが期待される。
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原因と発症メカニズム (HCM)
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「心筋症」の記事における「原因と発症メカニズム (HCM)」の解説
通常は遺伝性であり、本症症例のおよそ7割が常染色体優性遺伝形式をとる遺伝子変異が原因である。拡張型心筋症と同様にミオシン、アクチン、トロポニン、トロポミオシンをはじめとするサルコメア蛋白質の遺伝子の突然変異が明らかにされている。カルシウムによる収縮制御に関わるトロポニンやトロポミオシン遺伝子の突然変異はミオフィラメントカルシウム感受性を増加させる。これは、これらの遺伝子における拡張型心筋症を引き起こす変異がカルシウム感受性を低下させることと逆であり、ミオフィラメントカルシウム感受性増加による収縮機能の亢進あるいは弛緩機能の低下が肥大型心筋症をもたらしていると考えられる。高血圧や加齢によっても時間をかけて発症し、糖尿病や甲状腺疾患などの他の病気も原因となる。
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