勝新太郎と三島由紀夫
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/02 10:17 UTC 版)
「人斬り (映画)」の記事における「勝新太郎と三島由紀夫」の解説
三島由紀夫が田中新兵衛に起用されたきっかけは勝プロ社長でもある勝新太郎の依頼であったが、三島が承諾したことを大映企画部長の藤井浩明から聞いた勝は非常に喜び、すぐに会いたいと三島との面談を希望した。三島のマネージャー代わりの藤井が三島と一緒に大映京都撮影所に向かい京都駅に到着すると、勝は2人を待ち受けていて、自分の車で都ホテルまで送ってくれた。 そして勝は、明朝に撮影所で会う時間を告げて、その時に三島にカセットテープを渡した。そのテープには、三島が言う台詞と、勝の言う台詞の掛け合いの両方が吹き込まれてあった。さらにそのテープには、ここはこう言った方がいい、というようなアドバイスも各所に入っていて、素人の三島が困らないようにしてあった。 三島がしばしば、勝に随分世話になった、面倒を見てもらったと書いているのは、こうした背景があったからであった。勝と三島が直接からむ場面は、田中新兵衛が飲み屋「おたき」に初登場するシーンのほか、酒に溺れる以蔵を新兵衛が慰めるシーンもあるが、三島は思わず以蔵ではなく勝を慰めるかのような気分になり、演技中にもらい泣きしそうになったという。 三島の撮影初日の勝の細かい気づかいにより俳優演技に自信がついたことを、三島は「得意のかいぎゃく」で語り、初めて「役になりきる心境と喜び」を味わった楽しさを勝との共演で得られたとしている。 朝から勝さんとからむ場面を演じているんだが、勝さんほどいいお師匠さんはありませんね。実に親切に教えてくれる。これまでのぼくは“俳優”としてどんな“素材”なのか見当がつかなかった。自分自身がわからなければ、どの面を生かせばいいのかもわからない。ところが勝さんは半日で、ぼくが俳優としてすばらしい資質をもっていることを知らせてくれた。 — 三島由紀夫「三島由紀夫映画を語る/『人斬り』撮影中をたずねて」 三島はこれまで『からっ風野郎』、『憂国』、『人斬り』と3本、映画俳優として出演したが、『人斬り』で初めて「爽快な後味」や映画の面白さを実感として味わったが、それは映画について教えてくれた「よい先生」の勝の親切のおかげだとしている。三島を懇切丁寧に指導する勝の姿を見ていた山本圭も、撮影現場が和気藹々となったのは勝がいたからでもあるとし、「勝さんが何も考えていないようで実は物凄い細かい人です」と語っている。 三島の切腹場面の撮影中にも三島が外に出た際に、「三島さん、居合いをやってよ!」と明るく勝が声をかけて来て、三島が本気で居合いの型を披露すると、その上手さに勝は感心しつつも、「でも、あんまり強そうじゃないな」、「手を切らなきゃいいけどな」とからかい気味に言って、三島をリラックスさせていたという。 なお、勝は『人斬り』撮影中に、雑誌『平凡パンチ』の三島特集において、編集担当者から三島の悪口をぜひ言ってほしいと電話でコメントを求められ、「ぼくはあの人といま映画でご一緒してるんだけど、あの人は何ていうのかなー、そう、趣味人というイメージだね。ないものねだりをする人。そしてその結果それを獲得してゆく人。いままでの三島さんの人生ってのは、それだったんじゃないの」と答えている。
※この「勝新太郎と三島由紀夫」の解説は、「人斬り (映画)」の解説の一部です。
「勝新太郎と三島由紀夫」を含む「人斬り (映画)」の記事については、「人斬り (映画)」の概要を参照ください。
- 勝新太郎と三島由紀夫のページへのリンク