出願人にとっての利点
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/09/06 16:16 UTC 版)
「特許協力条約」の記事における「出願人にとっての利点」の解説
工業所有権の保護に関するパリ条約は、「各国特許の独立」の原則を尊重しつつ特許の保護のための各国の同盟を形成し、ある同盟国で特許出願をした同盟国民には他の同盟国において1年間の「優先権」を認める。1年間の優先権とは、ある同盟国(第一国)で特許出願したものと同じ内容の出願を、第一国出願の日から1年以内に他の同盟国(第二国)に出願した場合に、第二国にした出願の審査に関してはその出願は第一国への出願の日に行われたものとして扱われる権利である。 パリ条約の優先権の制度がないと、自分の発明に対して世界的な保護を求める人は、世界各国にほぼ一斉に同じ内容の出願をしなければならないが、優先権の制度があると、とりあえずどこかの一国で出願をすれば、1年間の猶予期間が与えられ、その間に各国で出願する必要があるかを判断し、各国で出願する準備をすればよい。出願を各国語に翻訳したり各国において自分の代理人を選定したりするために莫大な出費とかなりの時間が必要になるので、1年間の猶予期間は重要である(パリ条約は特許以外にも実用新案、意匠、商標、商号などの保護に関係する条約であるが、この記事においては、特許の保護に関してのみ言及した。またこの記事は法律的な正確さよりもわかりやすさを重視した。)。 しかし、パリ条約による優先権が実現する1年間の猶予期間は短いものである。特に、第一国にした出願の審査結果が1年以内に出ることは一般に期待できないので、出願人は、第一国の審査結果を見ずに各国に出願する手続を開始することになる。第一国の特許庁による審査の結果、自分の発明と同じものを以前に別の人が発明していたことが判明し、出願が拒絶された場合、他国でも出願が拒絶されることは明白であるから、出費を節約したい出願人は、第一国の特許庁による審査の結果を見て、他国でも特許を受ける望みがありそうな場合にのみ他国での出願を行うことにしたい。 したがって、世界中で発明の保護を求めたい出願人にとっては、1年間より長い猶予期間が望ましい。また、猶予期間の間にどこかの特許庁による審査の結果を見て、自分の発明が特許を受ける見込みがあるか否か、世界各国で手数料を支払って出願する価値があるか、を判断できることが望ましい。さらに、手数料の総額を低く抑えられる制度が望ましい。 特許協力条約が実現する国際出願は、上記のような出願人の希望を叶えるものである。国際出願を利用すると、猶予期間を2年半(30か月)に延長できる。そして、その間に自分の出願に特許を受ける見込みがあるのかを判断するための材料となる国際調査機関による国際調査報告と国際調査機関の見解書、さらには国際予備審査機関による国際予備審査報告を受け取ることができる。手数料の総額も、世界の複数の国で特許を取得する場合には、世界各国に個別に出願するときに比べて低く抑えられるように設計されている。 ここで、国際調査機関や国際予備審査機関は具体的には加盟国に存在するうちのいくつかの特許庁である。調査や予備審査に必要な各国語文献の蓄積を有し、各国語文献を理解して検索できる職員を有する大規模な特許庁のみが国際調査機関や国際予備審査機関として働き、国際出願に特許を受ける見込みがあるかの報告書を作成する。
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