先行投資者保護
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/09 08:36 UTC 版)
国連海洋法条約第11部に規定される前記「パラレル方式」による開発を条約発効後すぐに行うとすると、条約発効前から開発の前提となる海底鉱区の探査が必要となるが、条約が発効するまでどの鉱区が割り当てられるのかわからない状態で探査をしなければならないのでは海底開発への投資意欲が損なわれかねないことが危惧された。そこで1982年4月30日に国連海洋法条約が採択されるのと同時に「先行投資者保護決議」(国連海洋法会議決議II)が採択され、条約発効までの暫定的機関として準備委員会が新たに設立されることとされた。前記決議によると、「先行投資者」はこの準備委員会に対して同等の商業価値を持つ2つの鉱区を申請し、準備委員会がこの2鉱区うち将来設立される国際海底機構のための鉱区を留保し、残りの鉱区では準備委員会への登録の日から条約発効まで「先行投資者」に探査を行うための排他的権利を認め、さらに条約発効後も「先行投資者」による開発を他の申請者よりも優先し保証することとしたのである。国連海洋法条約発効前に準備委員会にこうした申請を行い登録を済ませた開発者を「登録された先行投資者」とし、条約が発効したときに「登録された先行投資者」が前記「先行投資者保護決議」を遵守していることの証明をすれば自動的に機構に業務計画が承認されることとなり、準備委員会に登録をせずに深海底の探査・開発を行う事業者に比べて特権的な待遇が認められることとされた。G77に代表される発展途上国は条約が発効する前にそのような特権を認めるべきではないとして一旦は反対したが、先進諸国の国連海洋法条約体制への参加が不可欠であったこともあり、条約署名国のみを対象とすることや先行投資の保護はあくまで探査が対象であって開発は対象外であることを条件として、発展途上国もこうした先行投資者保護に賛同するようになった。当時実際に海底の探査・開発技術を有していた国々のうち、インド、ソビエト連邦、日本、フランスは『先行投資者保護決議』に基づく開発方式を選択し、1987年にはこれらの国々による申請が準備委員会に承認された。他方でアメリカ合衆国、イギリス、イタリア、オランダ、カナダ、西ドイツ、ベルギーは条約制度に反発してコンソーシアムを結成し、条約に基づかない独自の開発方式を選んだ。
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