兄弟たちの始末と父への復讐
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/12 07:02 UTC 版)
「アウラングゼーブ」の記事における「兄弟たちの始末と父への復讐」の解説
皇帝となったアウラングゼーブはまず最初に、いまだ活動している兄のダーラー・シコーとシャー・シュジャーの始末に取り掛かった。 8月、アウラングゼーブはラホールで兵を集めていたダーラー・シコーの追撃に急いで向かい、ダーラー・シコーはムルターンへと逃げた。アウラングゼーブはムルターンまで追撃し、ダーラー・シコーがムルターンを放棄したことを知ると、彼はその追撃を部下に任せ、ムルターンに入った。アウラングゼーブはアーグラ方面が心配で、ダーラー・シコーのほかにも、シャー・シュジャーの脅威、そして誰かがシャー・ジャハーンを出獄させるかもしれないことに不安を感じていた。 その後、アウラングゼーブが急いでムルターンからラホールへと向かうさなか、帰順を促していたジャイ・シングがラージプートの兵4、5千で向かってくるところに遭遇した。アウラングゼーブはジャイ・シングがデリーかアーグラのあたりにいると思っており、彼が父帝シャー・ジャハーンを深く慕っていたため、自分を捕えて父帝を解放するのではないかと心配した。だが、アウラングゼーブは自らジャイ・シングのもとへ赴き、「ラージャージー」(ラージャ殿)、「バーバージー」(父上殿)とミール・ジュムラーに掛けた類の言葉をかけ、その上でダーラー・シコーが破滅したと説得し、自身の真珠の首飾りをかけるなどして手厚くねぎらい、ラホールの長官に任じてラホールへと向かわせた。 11月、シャー・シュジャーが強力な軍隊を率いてアーグラへ向かってきており、すでにアラーハーバードのあたりまで来ていると報告が入った。その頃、ダーラー・シコーがグジャラートのアフマダーバードにいるという知らせが入っており、アウラングゼーブ自ら追撃に向かおうとしていたが完全にこれを部下に任せ、自身はシャー・シュジャーの討伐に向かった。 そして、1659年1月5日、アウラングゼーブはシャー・シュジャーとアラーハーバード付近のカジュハでとの戦いに臨んだ(カジュハの戦い)。戦闘は最初の方はシャー・シュジャーの優勢で、またアウラングゼーブの後陣を講和したはずのダーラー・シコー側の武将ジャスワント・シングが襲撃するなどしたため、アウラングゼーブの軍は混乱した。 しかし、ミール・ジュムラーが何とかアウラングゼーブに冷静さを取り戻させたこと、そしてアウラングゼーブの強運さによってによって、シャー・シュジャーは戦いに敗れてしまった。シャー・シュジャーは一命を取り留めたが、軍は壊走した。この日の戦いもアウラングゼーブの勝利に終わった。 その後、アウラングゼーブはシャー・シュジャーを深追いせず、早々にアーグラへと引き上げた。だがミール・ジュムラーはシャー・シュジャーの追撃を行い、シャー・シュジャーは劣勢を克服できず、1660年にアラカン王国へと最終的に逃げた。シャー・シュジャーはその地でアラカンの王の打倒を企てたため、1661年に殺害されてしまった。 同年3月、アウラングゼーブはダーラー・シコーの軍勢をアジュメールで破った(アジュメールの戦い)。ダーラー・シコーは逃避行を続けたのち、7月になって捕えられ、デリーへと送られた。9月、アウラングゼーブはダーラー・シコーがデリーに送還されると、ダーラーを裁判にかけ、イスラーム教に背教してカーフィル(背教者、無宗教者)になったのだとたとして処刑した。 アウラングゼーブは父帝シャー・ジャハーンの偏愛に対する精神的復讐を行うため、ダーラー・シコーの首をアーグラに幽閉されているシャー・ジャハーンのもとに送りつけた。予想通り、愛していたダーラー・シコーの死に、シャー・ジャハーンは気絶するほどの悲しみを受け、その復讐は果たされた。 1661年12月、アウラングゼーブは弟ムラード・バフシュを処刑した。ムラード・バフシュの処刑を担当したのは、父であるサイイドを殺された息子らであった。アウラングゼーブは聖なる法に基づく形でこの処刑の実行を命じたのである。 こうして、アウラングゼーブは3人の兄弟を抹殺することに成功したが、最後に残ったシャー・ジャハーンに対しても復讐行為を続けた。シャー・ジャハーンを引き続きアーグラに幽閉したまま、個人の宝石を取り上げたしたため、上履きを買い替えたりヴァイオリンを修理するぐらいの金すらなくなってしまった。アウラングゼーブはまた書簡のやり取りで、父に対して「ダーラー・シコーを偏愛し自分は愛さなかった」、と横柄な口調の手紙で厳しく追及し続けた。 1666年2月1日、シャー・ジャハーンはアーグラ城に幽閉されたままで死亡した。とはいえ、姉のジャハーナーラー・ベーグムはその死の間際、アウラングゼーブを許す手紙にサインさせている。
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