依拠性と類似性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/20 16:03 UTC 版)
著作物を利用しているとされるには、現に利用されている著作物(利用著作物)が、対象となる既存の著作物(既存著作物)に依拠して作出されたものであって(依拠性)、利用著作物と既存著作物における表現が類似していること(類似性)が必要であると解する。いずれかの要件を欠く場合は、既存の著作物を利用していることにはならず、著作権侵害は成立しない。 依拠性 「ワン・レイニーナイト・イン・トーキョー事件」の最高裁判所判決(昭和53年9月7日)は、「既存の著作物と同一性のある作品が作成されても、それが既存の著作物に依拠して再製されたものでないときは、その複製をしたことにはあたらず、著作権侵害の問題を生ずる余地はないところ、既存の著作物に接する機会がなく、従つて、その存在、内容を知らなかつた者は、これを知らなかつたことにつき過失があると否とにかかわらず、既存の著作物に依拠した作品を再製するに由ないものであるから、既存の著作物と同一性のある作品を作成しても、これにより著作権侵害の責に任じなければならないものではない」と判示し、現に利用している著作物と既存の著作物が同一または類似している場合であっても、利用著作物が既存著作物とは独立して創作されたものである場合には、著作権侵害は成立しないことを示した。 このような著作権の性質から、著作権は相対的独占権であるといわれる。同様の性質を有する独占権に回路配置利用権がある(半導体集積回路の回路配置に関する法律12条1項)。一方、特許権、実用新案権、意匠権は絶対的独占権である。すなわち、自ら独立して創作した発明、考案、意匠を実施していても、それらが他人の特許権、実用新案権、意匠権の対象となっている場合には、権利侵害が成立する。 著作権侵害訴訟においては、原告(著作権者)が類似性と依拠性の立証責任を負うものと解されている。類似性は、原告の既存著作物と被告の利用著作物の対比による客観的な判断が可能であるため、その立証は比較的容易である。一方で、依拠性は被告の主観的心理状態の問題であるから、たとえば以下のような間接事実から依拠性を推認することになる。被告による原告の著作物へのアクセス可能性 被告の利用著作物と原告の著作物における表現の酷似性 原告の著作物の著名性、周知性 これらの間接事実を原告が立証したときは、逆に依拠性が存在しなかったことを、被告が独立創作の抗弁として立証しないかぎり、依拠性は認められるものと解する。 類似性 「パロディ・モンタージュ写真事件」(第一次)の最高裁判所判決(昭和55年3月28日)は、「自己の著作物を創作するにあたり、他人の著作物を素材として利用することは勿論許されないことではないが、右他人の許諾無くして利用をすることが許されるのは、他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴をそれ自体として直接感得させないような態様においてこれを利用する場合に限られる」と判示した。本事件は著作者人格権の一つである同一性保持権侵害の事案であるが、著作権(財産権)侵害の場合にも適用されるべきものと解される。
※この「依拠性と類似性」の解説は、「著作権侵害」の解説の一部です。
「依拠性と類似性」を含む「著作権侵害」の記事については、「著作権侵害」の概要を参照ください。
- 依拠性と類似性のページへのリンク