体液と病
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/05 06:23 UTC 版)
体液の生成と混和、バランスの回復については、調理に喩えられ説明された。食べ物が昇華されてできた養分は、静脈や肝臓の内で熱によって変化する。体内で発生した熱が適度であれば、その熱によって血液が生じ、適度でない場合には他の体液が生じて、血液に混じることになるのである。その際、より熱ければ胆汁に、より冷たければ粘液になる。黄胆汁は脾臓で吸収されて血液は浄化されるが、脾臓の機能が悪い場合には、黄胆汁は煮詰まったように黒胆汁となるし、脾臓自体が、病的状態にあれば、うまく調理されない黒胆汁が身体をめぐることになる。体内の熱源は、大宇宙の中心である太陽と同様に、小宇宙である人体の中心器官である心臓と考えられた。 病気になった体は、「自然(ピュシス)」の治癒力・内なる熱によって回復する。すなわち、誤って混和した、あるいは生の状態の体液を調理して、体液の乱れを正常に戻そうとするのである。調理で無害になり、健康な成分から分離された「悪いもの」は、嘔吐、下痢、排尿、喀出、発汗、出血、化膿などのルートで体外に排出される。怪我のような局所病の時は、炎症の形で悪い体液を「煮沸」し、消化して、膿の形で排出する。全身、局所を問わず、発熱から化膿まで、すべて治癒の過程であると考えた。 調理に喩えられた「食物が体内の熱によって処理されること」は、「熟成(ペプシス)」と言われ、「古い医術について」では、体液の熟成状態と「混和(クラーシス)」の状態が重要であるとされた。『ヒポクラテス全集』に納められた論文「人間の自然性について」では、最も健康な状態は、四体液の力や量がバランスを保った状態で、特にお互いに混和(クラーシス)した状態であると説明される。病気とは、体液の一つが多すぎたり少なすぎたりする場合、また一つだけが切り離されて他と混和しない場合に起こる。四体液はそれぞれ2つの性質を持っているので、互いに反発しつつも引かれ合う。体液のバランスが崩れる原因は、体質、生活環境、生活様式、食事などである。
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