伊香保線用車両
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/09 10:45 UTC 版)
急勾配を走行するので、非常用として1910年(明治43年) の開通当初からウェスティングハウス製電磁吸着ブレーキを装備している。電磁吸着ブレーキの装備は1919年(大正8年)開通の小田原電気鉄道鉄道線よりも早く日本で最初である。当初、伊香保電気軌道生え抜きの3両のみの装備だったが高崎水力電気が伊香保電気軌道直通運転用に2両追加して用意、利根発電も2両用意して伊香保直通を開始し、東京電燈合併後に伊香保線に使用する他の車両にも装備した。主幹制御器を発電ブレーキに投入して主電動機(走行用モーター)を発電機として使用し、発生した電流を台車中央に取りつけた電磁石に通電し発生した磁力で鋳鉄製のブレーキシューをレールに吸着させて摩擦力で強力なブレーキ力を得る。機器の動作そのものには架線電圧やバッテリーなどの外部電源を使用しないので下り勾配でトロリーポールを下げて無電状態で重力で走行する運用をしていた伊香保線にはマッチングが良いシステムではある。発電ブレーキと電磁吸着ブレーキ、さらに電磁石にブレーキのてこが引かれて制輪子が車輪を締めつける作用が同時に働くのでその制動力は強力で、当時の技術者は勾配線で速度を上げて実験したときに「レールから火花が出て車両は2 - 3尺(およそ60 - 90cm)進んで止まった」と語っている。速度が低いと主電動機の発電量が低いのでブレーキ力も低下してしまう欠点があり、当然ながら停車中は作用しない。他のブレーキが完全に故障してしまった場合ノーブレーキになってしまう訳で、このままでは非常ブレーキとしては中途半端である。架線電圧あるいはバッテリー等の補助電源を併用すればこうした欠点はカバーできるが伊香保線用車両が電磁吸着ブレーキ用に補助電源を併用できる装備を搭載していたか否かは不明である。急勾配用の国鉄EF63形電気機関車は電磁吸着ブレーキを装備するが、長時間の停電時を考慮して大容量の鉛蓄電池電源を使用している。 伊香保線車両の電磁吸着ブレーキはあくまで非常用のブレーキであって、常用ブレーキはハンドブレーキのみで速度抑制用の常用可能な発電ブレーキはおろかエアブレーキすら装備しておらず、製造された時代が時代なので仕方がないとは言え今日から見れば安全性に問題があった。巻き上げたハンドブレーキのチェーンが破断する故障が原因で1920年(大正9年)4月12日六本松付近で乗客7名が死亡、重軽傷45名、乗務員2名も死傷する脱線転覆事故が発生している。
※この「伊香保線用車両」の解説は、「東武伊香保軌道線」の解説の一部です。
「伊香保線用車両」を含む「東武伊香保軌道線」の記事については、「東武伊香保軌道線」の概要を参照ください。
- 伊香保線用車両のページへのリンク