人形(ひとがた)をいのりて命を転じ替たる事
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/10 22:44 UTC 版)
「安倍晴明物語」の記事における「人形(ひとがた)をいのりて命を転じ替たる事」の解説
(『平家物語』の異本「剣巻」の宇治の橋姫伝説、およびそれを原典とした謡曲『鉄輪』が元になっている) 五条のあたりに住むある人が、若い女と懇ろになり、元の妻を捨てようとした。元の妻は怒り、嫉み、鬼となって夫と若い女を取り殺そうと思い立つ。女は毎夜、貴布称明神(貴船神社)へ丑の刻参りをし、21日(三七日)目の満願の日、明神は示現し、「鬼になりたければ、髪を乱して揺り下げ、前髪を2つに分けて角を作る。顔には朱をさし、体には丹を塗り、金輪(鉄輪)を被って3つの足のそれぞれに松明をともす。怒りの心をもって貴布称川に腰まで浸かり、立ったなら鬼となるであろう」と託宣した。 女は喜んで、神託通りの出で立ちで人が寝静まった夜更けに貴船の方へ走り出た。頭上では火が燃え上がり、体も顔も真っ赤な様は、さながら鬼のようで、これを見た人はたまげて倒れ伏し、そのまま死んでしまった。貴布称川に行き、7日間川に浸かったところ、生きながら鬼となった。 ある日、妻を裏切った男が晴明の元を訪ねる。このところ悪夢を続けてみるので占ってくれというのだが、晴明は「占うまでもない。これは女の恨みで、今夜のうちに命を取られるだろう」と言う。男は驚いて、元の妻との間になにがあったのかを包み隠さず告白した。話を聞いた晴明は、すでに男の命は今夜までと決まっているので、いまさら神仏に祈っても霊験はないだろうと言う。男は顔色を失い、震えおののいて晴明にすがったところ、晴明は「命を転じ替えよう」と言い、壇をしつらえた。 茅の葉で等身大の人形(ひとがた)を作り、夫婦の名字を内に書き籠め、灯明をあげ、御幣を祀り、神祇・冥道・五大明王・九曜・七星・二十八宿を奉った。晴明が一心不乱に祈っていたところ、突然雨が降り出し、雷光激しく、突風が吹き込む。壇上がしきりと鳴動したかと思うと、鬼女が現れ、人形の枕元に立ち、「あら、うらめしや」と言うやいなや、笞(しもと。木製のむち)を振り上げた。しかし不動明王の金縛法により苦痛を感じたため、「もう来ることはない」と言い置いてかき消すようにいなくなった。これにより男の命は助かった。
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