亜エディントン降着円盤の解析モデル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/16 17:21 UTC 版)
「降着円盤」の記事における「亜エディントン降着円盤の解析モデル」の解説
降着率がエディントン降着率より小さい亜エディントン降着で、円盤の不透明度が非常に高い場合、標準的な薄い円盤が形成される。この円盤は垂直方向に幾何学的に薄く、比較的冷たいガスからできており、放射圧は無視できる。ガスは非常に間隔の狭いらせんを描いて落下し、ほぼ円軌道に近く、ほぼ自由軌道 (ケプラー回転) で運動している。薄い円盤は比較的明るく、円盤は熱的な電磁スペクトルを持つ。すなわち、黒体からの放射の合計とは大きく異ならないスペクトルを示す。薄い円盤では輻射冷却は非常に効率的である。薄い降着円盤についてのシャクラとスニヤエフによる1973年の古典的な研究は、現在の天体物理学において最も頻繁に引用される論文の一つとなっている。薄い円盤はドナルド・リンデンベル、James E. Pringle、マーティン・リースによっても独立に研究された。Pringle は過去30年間の降着円盤理論の多くの主要な研究成果に寄与しており、彼が著した1981年の古典的なレビュー論文は何年にもわたって降着円盤に関する主要な情報源であり、今日でも有用なものである。 円盤の中心にある天体がブラックホールである場合、円盤の内側領域を記述するためには完全な一般相対論的な取り扱いが必要である。これは Don Nelson Page とキップ・ソーンによって行われ、可視光での画像の再現シミュレーションは Jean-Pierre Luminet および J. A. Marck によって独立に行われた。このような系は本質的に対称な形状をしているが、その画像は対称な見た目をしていない。これはブラックホール近傍での非常に強い重力場に対して平衡となるための遠心力を得ることが出来るような相対論的なガスの運動速度では、円盤の観測者から遠ざかる側 (ここでは右側) からの放射は強い赤方偏移を示す一方、近づいてくる側では強い青方偏移を示すことが原因である。光が重力によって曲げられるため、円盤は変形して見えるが、ブラックホールによって隠される領域も存在しない。 降着率がエディントン降着率を下回り不透明度が非常に低い場合、移流優勢流が形成される。このタイプの降着円盤は1977年に一丸節夫によって予測されていた。一丸による論文はほとんど無視されたものの、この移流優勢流モデルのいくつかの要素は、リース、M. C. Begelman、R. D. Blandford、E. S. Phinney による1982年のイオントーラスに関する論文に存在している。 移流優勢流が多くの研究者によって集中的に研究され始めたのは、1990年代半ばに Ramesh Narayan と Insu Yi、および Marek Abramowicz、Xinming Chen、加藤正二、Jean-Pierre Lasota と Oded Regev によってこの現象が独立に再発見されてからであった。Narayan とその共同研究者らによって移流優勢流の天体物理学への重要な応用がなされた。移流優勢流は、放射よりも高温な物質が中心に移流することによって冷却する。これらは非常に放射が非効率で、幾何学的に広がった構造を持ち、円盤というよりは球やコロナに似た形状で、ビリアル温度に近い非常な高温になる。放射効率が低いため、移流優勢流を持つ円盤はシャクラ・スニヤエフの薄い円盤よりもずっと暗いものになる。移流優勢流はべき乗則に従う非熱的放射を示し、しばしば強いコンプトン成分を含む。 ブラックホール近傍でのX線源のぼやけ X線源であるコロナを伴ったブラックホールの想像図 ブラックホール近傍でのX線スペクトルのぼやけ。NuSTAR による観測。ぼやけがない場合は青い線で示されたスペクトルになるが、ぼやけがある場合はオレンジ色の線となり、観測値は後者とよく一致する。 Credit: NASA/JPL-Caltech
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