二面性の起源とフェーベ環
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/08 02:19 UTC 版)
「イアペトゥス (衛星)」の記事における「二面性の起源とフェーベ環」の解説
しかし熱的なフィードバックが始まるためには、最初に表面を二分する何らかの過程が必要である。最初の暗い物質は、逆行軌道で公転する外側の小さい衛星から隕石衝突によって吹き飛ばされてきた破片であり、周囲に漂う破片をイアペトゥスの先行半球が掃き集めるようにして堆積したと考えられる。このモデルの重要な部分は30年ほど前から存在するものであるが、カッシーニの2007年9月のフライバイ観測で得られたデータによって再び注目を集めることとなった。 イアペトゥスの軌道の外側の軽い破片は、微小隕石の衝突によって衛星の表面から叩き出されたり、あるいは衝突によって生成されたりし、その後内側へ向かって軌道は縮小しらせん状に落下していく。その間に太陽光にさらされることによって、色は暗くなっていく。このような物質のうちイアペトゥスの軌道と交差したものは、イアペトゥスの先行半球で掃き集められ、先行半球の表面を覆う。この過程によってイアペトゥス表面のアルベドにある程度のコントラストがついた場合、上述の熱的なフィードバック過程が働きアルベドの差を大きくする。外部からの物質の堆積と熱的な氷の再分配のシンプルな数値モデルでもイアペトゥスの表面が二面性を持つことが予測され、この仮説を支持する結果となっている。実際に、先行半球と後行半球の明るい領域と暗い領域を比較すると、先行半球側がより赤っぽいという微妙な色の二面性が見られる。カッシーニ地域が楕円形をしているのとは対照的に、色のコントラストは先行・後行半球の境界と近い分布をしており、色のグラデーションは数百キロメートルのスケールで徐々に変化している。イアペトゥスの一つ内側の軌道を公転し、カオス的な自転をしているヒペリオンも、非常に赤っぽい色を示す。 このような物質の最も大きな供給源となりうるのは、土星の外部衛星の中で最大のフェーベである。フェーベの組成はイアペトゥスの暗い側の物質よりは明るい側の半球にあるものに近く、イアペトゥスの色の二面性の直接の原因にはなり得ない。しかしフェーベからのチリはイアペトゥスにアルベドのコントラストを付けるために必要なだけであり、その後の昇華過程によってフェーベ由来の物質は不明瞭になっただろうと考えられる。 2009年に、スピッツァー宇宙望遠鏡の赤外線観測によって、フェーベに由来する粒子が土星の周りにフェーベ環と呼ばれる希薄で広大なリングを形成していることが発見され、フェーベ由来説を支持する証拠となった。フェーベ環は土星半径の128倍から207倍までの範囲に広がっており、フェーベ自身の平均軌道距離は土星半径の215倍である。この粒子は、母天体のフェーベと同様に土星の周りを逆行公転しており、順行軌道を持つイアペトゥスの進行方向側の半球に吹き付けていると考えられている。またフェーベの他には、スカジとユミルも、イアペトゥス表面の暗い物質の供給源である可能性が指摘されている。 色を強調したイアペトゥスの地図 (27.6 MB)。右側が先行半球。 イアペトゥスの北半球と南半球。色は強調されている。 イアペトゥスの後行半球と先行半球。色は強調されている。
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