亀裂は見逃されていた
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 06:45 UTC 版)
「ユナイテッド航空232便不時着事故」の記事における「亀裂は見逃されていた」の解説
第2エンジンの第1段ファン・ディスクは、1971年9月にGE社の工場で製造され、翌年1月にマクドネル・ダグラス社に納品されて新造のDC10-10型機に取りつけられた。エンジンは定期的にオーバーホールされ、整備記録によるとユナイテッド航空やGE社のマニュアルに従って検査されていた。このファン・ディスクが組み込まれたエンジンにおいて、オーバースピードやバードストライクの記録はなかった。事故までの17年間、このファン・ディスクは計6回の精密部品検査を受けていた。調査されたすべての記録や使用履歴は、FAAが承認したユナイテッド航空の整備プログラムに従っていた。 6回の精密検査の際、ディスクは蛍光浸透探傷検査(Fluorescent penetrant inspections、FPI)を受け、都度合格していた。蛍光浸透探傷検査は亀裂検査法のひとつで、次のようにして亀裂などを検出する: 蛍光染色塗料を含む浸透液(低粘性のオイル)を検査面に塗布する 亀裂があれば、毛細管現象によりオイルが浸透する 表面の浸透液を除去してから現像剤を塗る。現像剤が亀裂中の浸透液を吸い上げるため、亀裂のある箇所のみ浸透液が再び表面に現れる。 紫外線を照射すると、亀裂が蛍光として浮かび上がる 最後の蛍光浸透探傷検査は1988年2月に実施されていた。GE社が行った破壊力学的解析では、最後の検査時点でディスク表面にほぼ0.5インチ(約13ミリ)の亀裂があったとされる。事故後の破断面の調査において、疲労亀裂部に変色が見つかっていた。その長さはディスク表面で0.5インチ弱だった。NTSBは、この変色は蛍光浸透探傷検査の過程で生じたものであり、最後の検査時の亀裂の大きさを示すものと判断した。そして、蛍光浸透探傷検査が適切に実施されていれば、高確率で発見できた亀裂だとしている。 ユナイテッド航空が検査で亀裂を見逃した原因として、NTSBは以下の点を指摘した: 蛍光浸透探傷検査の前処理において、ディスクはケーブルで吊り下げられるが、ケーブルの陰に隠れる部分などが目視できるように回転されていなかった ケーブルがかかっている部分への現像材の塗布が不適切で、亀裂の可視化が不明瞭だった 当時の知見から本事故の亀裂発生部位は重要検査領域と考えられておらず、発見の機会を少なくした可能性があった ユナイテッド航空は、ショットピーニング処理により、材料に亀裂を閉じる力が働き、浸透液が亀裂に浸透しなかったと主張した。しかし、破壊力学や金属学、非破壊検査の専門家らの検討により、12ミリ程度の亀裂であれば、ショットピーニング処理は発見確率にほとんど影響しないとの結論に至った。 ファン・ディスクは、GE社での製造時にも超音波探傷検査、マクロエッチ検査(腐食を用いた巨視的表面組織検査法)、そして蛍光浸透探傷検査を受けていた。しかし、これらの検査が実施されたのは、最終機械加工の前だった。事故調査報告書では、加工後にマクロエッチ検査を実施していれば、キャビティを発見できただろうと述べている。
※この「亀裂は見逃されていた」の解説は、「ユナイテッド航空232便不時着事故」の解説の一部です。
「亀裂は見逃されていた」を含む「ユナイテッド航空232便不時着事故」の記事については、「ユナイテッド航空232便不時着事故」の概要を参照ください。
- 亀裂は見逃されていたのページへのリンク