主な生理作用
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/14 09:10 UTC 版)
気孔の閉鎖と乾燥耐性の獲得 植物は水ストレスに晒されると、体内の水分を保つために気孔を閉鎖し蒸散を抑えることが知られている。アブシシン酸は気孔の閉鎖を誘導する作用を持つことが知られており、アブシシン酸の感受性や合成に欠陥を持つ突然変異株には、蒸散量が多く萎れやすい表現型を持つものが多く存在する。高等植物では、水ストレスに晒されるとアブシシン酸を体内に蓄積することが知られているほか、アブシシン酸が関与する気孔閉鎖の分子メカニズムの解明も近年急速に進んできている。また、細胞の水分状態を保って生理機能を維持する働きを持つタンパク質(LEAタンパク質など)や適合溶質の蓄積を促進することで、植物の乾燥耐性を向上させる作用があると考えられている。 種子の発達と成熟の促進 アブシシン酸は種子の発達過程において、胚の形態が完成された頃に最も蓄積が見られるとされている。アブシシン酸の感受性や合成に欠陥を持つトウモロコシの突然変異体では、種子が成熟する前に穂上で発芽してしまう現象(穂発芽)が見られるものがある。これは、アブシシン酸が未熟種子の発芽を抑制し、種子成熟が正常に行われる上で必要な物質であることを示す良い例である。また、種子の貯蔵物質の中には、アブシシン酸により貯蔵が誘導されるもの(貯蔵タンパク質や脂質など)が存在することが知られている。 種子休眠の誘導 発芽が誘導される際には、発芽を促進する作用を持つ植物ホルモンであるジベレリンにより、貯蔵物質の分解が誘導されるが、アブシシン酸はこの誘導を阻害することが知られている。このように、アブシシン酸はジベレリンとは逆に、発芽を抑制する作用を持ち、休眠の誘導に重要な働きをしていると考えられている。 芽の休眠の誘導 アブシシン酸の単離には、冬眠芽を誘導する作用を持つ物質としての発見がきっかけの一つとなっているが、アブシシン酸と芽の休眠現象の関係については不明な点が多く、アブシシン酸量と休眠誘導との間に相関関係がないという報告もある。また、アブシシン酸の感受性が関与しているという報告も存在する。 器官離脱(落果、落葉など)の促進 器官離脱や老化を促進する場合もあるとされるが、この効果は必ずしも顕著ではなく、アブシシン酸の作用としては不明な点が多い。器官離脱の誘導に関してはエチレンを介した二次的な作用である可能性が高いと考えられている。
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