中世の社会と呪術医
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/26 02:28 UTC 版)
社会が自己組織化され、権力や地位がより明確な象徴を得る過程で、個人の神秘主義家は急速に社会のヒエラルヒーから外れていった。これは個人の神秘主義者が客観的にも明確な基盤に拠らず、自身の信じている知識体系に基いて存在していたためであるが、この段階に於いて呪術医も次第に社会の支持基盤を失っていった。 民間医療を伝えているため、民衆の中にあってこそ、その存在が珍重されたが、他方勢力をもった神秘主義者である宗教者が中世の社会で地位を築くと、それら宗教者が信奉する神秘主義と相容れない個人の神秘主義者は迫害され、その中にあって呪術医は自身の神秘主義を捨てて医療に専念するか、自身の神秘主義を貫いて迫害されるかのどちらかを選んだと思われる。 この段階に於いては呪術医は自己の知識体系を科学的に再構築して医者となるか、迫害されて権力から遠ざかるかのいずれかであったと思われるが、その一方で主力と成った神秘主義者である宗教家が、従来は呪術医が担っていた地位を獲得している。この時代に於いて宗教家=僧侶が呪術医のように振る舞い、また医療行為を行う事は多く、かつての独自の論理体系に基いていた呪術医の中に、迫害されないために勢力のある宗教に改宗した者もいたのかもしれない。 中世ヨーロッパでは、魔女狩りなど勢力のある宗教が他の神秘主義者を弾圧する社会現象が多発したが、これによってヨーロッパ地域に居た呪術医は一掃された。その一方で勢力を持っている宗教家である僧侶が呪術医の立場を確立する事により、高貴な存在とされた王族による接触(ロイヤルタッチ)が治療効果があると流布されたり、必ずしも適切ではない瀉血の乱用に代表される(奇妙な)治療行為が流行した。なお瀉血に関しては一部の症状に有効である事が近年になって判ってきており、これも呪術医の伝統的な治療が見直されている一例に上げる事もできよう。 なお瀉血に関しては、近代や現代においてもきちんとした医学的根拠に基いて利用されている治療法の一つではあるが、中世においては落馬による骨折や伝染病にまで乱用され、あるいは適切な療養で回復したかも知れない人の血液を出させ、体力を徒に損耗させる・瀉血後の傷跡が感染症を招く事によって、多数の死者を出している。(瀉血の項を参照)
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