不足群
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/08/24 06:18 UTC 版)
群環 K[G] の各ブロック B に対して、ブラウアーはその不足群と呼ばれるある種の p-部分群を対応させた(ここで p は K の標数である)。きちんと述べれば、B の不足群とは、G の p-部分群 D で、部分群 DCG(D) に対して B のブラウアー対応(英語版)が存在するようなもののうち最大のものをいう。 一つのブロックに関する不足群は、共軛を除いて一意であり、ブロックの構造に強く影響する。例えば、不足群が自明ならば、そのブロックはただ一つの単純加群、ただ一つの通常指標を含み、関係する標数 p と素な位数を持つ元の上で通常既約指標とブラウアー既約指標の値が一致して、この単純加群は射影的になる。他に極端な例として、K の標数が p のとき有限群 G のシロー p-部分群は K[G] の主ブロックの不足群と一致する ブロックの不足群の位数は、表現論に関係する多くの算術的特徴付けを持つ。これはブロックのカルタン行列の最大の不変因子であり、重複度 1 で現れる。また、ブロックの不足群の指数を割り切る p -冪は、そのブロックに属する各既約加群の次元を割る p-冪の最大公約数に一致し、またこれはこのブロックに属する各通常既約指標の次数を割る p-冪の最大公約数とも一致する。 ブロックの不足群と指標理論との間の他の関係性としては、ブラウアーの得た「与えられたブロックの不足群の元 g の p-成分が共軛を持たないならば、そのブロックの任意の既約指標は g において消える」というものがある。これはブラウアーの第二主定理の数多ある帰結の中の一つである。 ブロックの不足群は、ブロック理論へのより加群理論的なアプローチからの特徴付けも様々にできる。これはグリーンが構築した手法で、直既約加群に対してその相対射影性を使って定義される頂点と呼ばれる p-部分群を対応付けるものである。例えば、あるブロックに属する各直既約加群の頂点は、そのブロックの不足群に(共軛を除いて)含まれ、かつその不足群の真の部分群はこの性質を持たない。 ブラウアーの第一主定理は「有限群 G の与えられた p-部分群 D を不足群に持つブロックの総数は、D の G おける正規化群 N = NG(D) に対して、N の D を不足群に持つブロックの総数と一致する」ことを主張する。 非自明な不足群を調べる最も簡単なブロック構造は、不足群が巡回群のときで、この場合そのブロックに属する直既約加群の同型類は有限個しかない(有限表現型)。このようなブロックの構造は、ブラウアー, デイド、グリーン、トンプソン他多数の研究により、いまではよく分かっている。これ以外の場合には、ブロックに属する直既約加群の同型類は無限個存在する(無限表現型)。 不足群が巡回群でないようなブロックは、tame 表現型と wild 表現型の二種類に大別することができる。(素数 2 に対してのみ存在する)tame 表現型ブロックは、二面体群、準二面体群あるいは(一般)四元数群を不足群に持ち、それらの構造はエルトマンによる一連の論文で広く決定されている。wild 表現型ブロックに属する直既約加群は、主ブロックに対するものであっても、分類は極めて困難である。
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