ミャンマーの地理とは? わかりやすく解説

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ミャンマーの地理

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/07 04:46 UTC 版)

ミャンマーの位置

ミャンマーの地理(ミャンマーのちり)について説明する。

国土

ミャンマーは東南アジアの西端に位置する国家である[1]。ミャンマーの面積は676,578 km2 であり[2]、北緯16度から28度まで南北約1,400 km 、東経92度から101度まで東西約 900 km の、縦に長い菱形をしている。さらに、南東より北緯10度までおよそ 800 km にわたり、タニンダーリ地方域が南に伸びる。ミャンマーの国土の形はしばしば、凧に例えられる[1]

北は中華人民共和国チベット自治区)、東は中国およびラオスタイ、南はアンダマン海ベンガル湾、西はベンガル湾およびバングラデシュインドと接する[3]。国境線の長さはおよそ 6,522 km である。また、海岸線の長さは 1,930 km である[2]。ミャンマーの領土はコンバウン朝ビルマの勢力圏に由来し、これを目安としてイギリス帝国イギリス領ビルマとして確定したものである[4]

地形

ミャンマーの地形図

ミャンマーの地形は、おおまかにはシャンタイ地塊(Shanthai block)に属し、生成時代が古いシャン高原英語版を中心とする東部山地、アンダマン海の北方延長にあたる中央低地(中央平野)、アンダマン諸島弧の北方延長にあたり、第三紀褶曲山脈が弧を描いて連続する西部山地の3つの部分から構成される[1][5]。標高は北に行くほど高くなり、低平な南部に対し、北部には雲南高原チベット高原と連続する、6,000m近い山脈が連なる[5]

地質

ミャンマーの地質は、アラカン沿岸平野帯(西部山地のうち西側)・アラカン〜チン帯(西部山地のうち東側)・中央帯(中央低地)・東部高地帯(東部山地)の4つに区分されることが多い。アラカン沿岸平野帯には強く褶曲しており、白亜紀後期以降の堆積岩類が分布し、主に中新世の砂岩・泥岩が厚く堆積している。アラカン〜チン帯には古第三紀の堆積岩類が広く分布し、褶曲と同じ方向である北北西から南南東軸にオフィオライトを伴う覆瓦断層が分布する。中央帯には始新世から現世までの堆積岩が分布し、ところどころに変成岩・第三紀初期の堆積岩からなる基盤岩が露出する。東部高地帯はほとんどが褶曲した古生層からなる[5]

山岳

カカボラジ山

ミャンマーの東半分を占める東部山地には、大ヒマラヤ山系の東方への延長部にあたるカチン山地英語版が位置しており、東南アジア最高峰とみなされるカカボラジ山をはじめとする山々がそびえる[1][5]。カチン山地の東側であり、中国の国境でもあるカオリクン山脈はエーヤワディー川サルウィン川流域の分水嶺となっている[1]

中部のシャン高原は高度 900 - 1,200 m の台地であり[1]、南のドーナ山脈英語版に連続する[5]。これより南のタニンダーリ地方域にはドーナ山脈・ビラウ山脈英語版といった低い山脈が連なり、タイ側のチャオプラヤー川流域との分水嶺をなす[1]。ビラウ山脈は、南のマレー半島まで続く[6]

西部山地には、北から標高2000 m 前後のパトカイ山脈ナガ丘陵英語版チン丘陵英語版アラカン山脈が続く。アラカン山脈の南端はネグレス岬英語版であるが、それより南のアンダマン諸島・ニコバル諸島も、地形的には西部山地の延長である[5]

河川・平野

エーヤワディー・デルタ

ミャンマーの領土の中央にはエーヤワディー川が流れる。エーヤワディー川はチベット高原南東部を水源とし、北部の山岳部を通って中央平原を通り、アンダマン海に注ぐ。ミャンマーの領土は、エーヤワディー川中流域に開けた中央平原地域に確立された王権の勢力圏をもととして確定された[7]。北部から中部にかけての大部分は丘陵地帯であり、沖積平野が形成されるのは下流域のエーヤワディー・デルタ英語版などに限られる[5]。また、この川にはパトカイ山脈・ナガ丘陵・チン丘陵を水源とするチンドウィン川が流れ込む[7]

東部山地には、チベット高原から流下するサルウィン川により、深い渓谷が形成されている[5]。エーヤワディー川からペグー山脈英語版を挟んで東側を流れるシッタン川は、マルタバン湾に大きな三角江を開く。また、シャン高原中央部から流れるサルウィン川も、マルタバン湾に注ぐ河口に、ジャイン川英語版アタラン川英語版とともに三角州を形成している[1]ラカイン州にはチン丘陵を源流とするカラダン川レムロ川英語版が流れ、河口部に平地が広がる[1]

島嶼

タニンダーリ地方域西方沖には、マレー半島を構成する山地の一部が沈降して形成されたメルギー諸島が位置し、530 km にわたって分布するおよそ800の島々が、多島海を構成する[8]。また、アラカン海岸にもリアス式海岸に沿ってラムリー島チェドバ島といった島嶼が位置する[1]。ベンガル湾上の、アンダマン・ニコバル諸島の北延長線上にあるココ諸島英語版もミャンマーの領土である[9]

自然

気候

ケッペンの気候区分にもとづくミャンマーの気候

熱帯亜熱帯に属す。地域により気候は異なり、北部の大部分は熱帯性気候帯から外れている[1][5]。季節区分としては雨期・涼期・暑期の三季を用いることが一般的である[10]。雨季は5月頃にはじまり10月頃まで続く。1年の降雨量は雨季に集中し、それ以外の時期にはほとんど雨がふらない[11]

ミャンマーでは冬期には陸地からベンガル湾に向かう北東風が、夏期にはベンガル湾から陸地に向かう西南風が吹く[12]。アラカン山脈が夏の季節風を遮る内陸部においては雨量は少なくなり、灌木と草原がみられるサバナ気候的景観がつづく[1][5]マグウェ地方域マンダレー地方域およびザガイン地方域の平原地帯を乾燥地帯英語版と呼び、これらの地域においては年間降雨量が1,000 mmを越えることはない[12]

海岸部は熱帯モンスーン気候であり、マングローブ熱帯雨林が広がる[5]。バゴー管区の最北部であるピェーでは降雨量は1,200 mm程度である一方、アラカン山脈が季節風を遮らなくなるターヤーワディ英語版では降雨量は2,200 mm、ヤンゴンでは2,600 mmに達する。さらに、西南季節風が東方のシャン丘陵に阻まれるバゴーにおいては降雨量は3,300 mmにまで及ぶ[13]。さらに南部のモーラミャインでは降雨量は4,800 mm、ダウェイでは5,500 mmとなる[14]

東部・北部の山間部は比較的冷涼であり、温暖湿潤気候に区分される。これらの地域には亜熱帯・温帯林が広がり、チークを産出する[5]。気候はやはりモンスーンの影響を強く受け、年間降雨量はカチン州のミッチーナーで2,100 mm、シャン州のラーショーで1,600 mm、カレンニー州のロイコーで1,200 mmである。カチン州の山岳地帯では降雪もする[15]

生物相

ロナルド・グッド英語版植物区系英語版をもとにすると、ミャンマー西部はインド区系区、中央部および西部は大陸東南アジア区系区、北部は日華植物区系区に分類できる[16]。森林被覆率は47%であり、南部及び沿岸部には熱帯雨林・マングローブ林・淡水の湿地林が、低丘陵地帯の周辺には落葉混合樹林、さらにその外辺を半常緑樹林が分布する。また、山地には常緑樹林からなる山林が形成され[17]、海抜2,000 m 以上の地域にはシャクナゲ林が発達する[16]。一方で、中央平原の乾燥地帯は非常に乾燥した地帯となっており[16]、有刺低木林や、インダイン(Indaing)と呼ばれる発育不良な低木の乾燥落葉樹林が分布する[17]。2003年のリストでは、ミャンマー国内に分布する植物としておよそ11,800種が記載されるが、総体としてミャンマーは植物相の調査が世界的にみても不十分な地域のひとつであり、研究機関に所蔵される標本もごく少ない[16]。動物としては、哺乳類350種・爬虫類300種・淡水魚350種・チョウ類800種・鳥類1035種が確認されている[17]

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j k l ミャンマー」『日本大百科全書(ニッポニカ)』https://kotobank.jp/word/%E3%83%9F%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%BCコトバンクより2025年3月18日閲覧 
  2. ^ a b Central Intelligence Agency (2025-03-13) (英語), Burma, https://www.cia.gov/the-world-factbook/countries/burma/#geography 2025年3月18日閲覧。 
  3. ^ Geography” (英語). myanmar.gov.mm. 2025年3月18日閲覧。
  4. ^ 伊東 2011, p. 11.
  5. ^ a b c d e f g h i j k l 須藤定久「ミャンマーの地質と鉱物資源」『地質ニュース』第524号、1998年、14–31頁、ISSN 0009-4854 
  6. ^ An Introduction to Burma (Myanmar)”. www.geographia.com. 2025年3月18日閲覧。
  7. ^ a b 伊東 2011, p. 17.
  8. ^ メルギー諸島」『日本大百科全書(ニッポニカ)』https://kotobank.jp/word/%E3%83%A1%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E8%AB%B8%E5%B3%B6コトバンクより2025年3月18日閲覧 
  9. ^ Lintner, Bertil (2023年4月10日). “Guest Column | Myanmar’s Borderlands are Home to Myths and Conflicts Rooted in Misunderstandings” (英語). The Irrawaddy. 2025年3月18日閲覧。
  10. ^ 石川和雅 著「水は天地を駆け巡る――雨季と乾季」、田村克己・松田正彦 編『ミャンマーを知るための60章』明石書店〈エリア・スタディーズ〉、2013年、76-80頁。 ISBN 9784750339146 
  11. ^ 伊東 2011, p. 20.
  12. ^ a b 伊東 2011, p. 22.
  13. ^ 伊東 2011, pp. 25–26.
  14. ^ 伊東 2011, p. 30.
  15. ^ 伊東 2011, p. 33.
  16. ^ a b c d 邑田仁 著「シャクナゲとラン――植生と植物相」、田村克己・松田正彦 編『ミャンマーを知るための60章』明石書店〈エリア・スタディーズ〉、2013年、81-85頁。 ISBN 9784750339146 
  17. ^ a b c Win Maung. “ミャンマーにおける生態に関する一考”. 一般社団法人海外環境協力センター. 2025年3月18日閲覧。

参考文献

  • 伊東利勝 編『ミャンマー概説』めこん、2011年。 ISBN 9784839602406 



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