ミカエリス-メンテン速度論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/15 07:46 UTC 版)
「酵素反応速度論」の記事における「ミカエリス-メンテン速度論」の解説
詳細は「ミカエリス・メンテン式」を参照 酵素によって触媒される反応は飽和を示すので、反応速度は基質を増やしてもそれに比例して線形に増えるわけではない。反応の初期速度を基質濃度 ([S]で表す) を変えながら測定すると、反応速度 (v) は右に示すように、[S] にあわせて上昇する。しかし[S] がさらに増えると酵素は基質で飽和し、反応速度は酵素の最大反応速度 Vmaxに達する。 単一基質反応におけるミカエリス-メンテンのモデルを右に示した。まず酵素 E と基質 S が反応して、酵素基質複合体 ES を作る二分子反応が起こる。単分子反応 E S → E + P {\displaystyle ES\rightarrow E+P} で表される触媒反応の機構は実際には複雑かもしれないが、通常1つの律速段階があって、触媒作用を速度定数k2を持つ1つの触媒反応で表現できる。 v = k 2 [ ES ] {\displaystyle {\begin{matrix}v=k_{2}[{\mbox{ES}}]\end{matrix}}} (式 1). k2は、kcatや回転数とも呼ばれ、酵素が1秒に行える反応回数の上限を示す。 基質濃度 [S] が小さい場合、酵素は遊離型 E と基質酵素複合体 ES の平衡状態にある。[S] を増やすと[E] が減って [ES] が増え、平衡が右に傾く。反応速度は [ES] によって決まるため、[S] のわずかな変化でも反応速度が大きく変わる。しかし、[S] が非常に大きくなると、酵素は完全に基質で飽和し、全て基質酵素複合体 ES となる。こうなると、反応速度 (v≈k2[E]tot=Vmax) は、[S]が少し変化したくらいでは変わらない。ここで、[E]totは、酵素の全濃度であり、 [ E ] t o t = d e f [ E ] + [ ES ] {\displaystyle [{\mbox{E}}]_{\mathrm {tot} }\ {\stackrel {\mathrm {def} }{=}}\ [{\mbox{E}}]+[{\mbox{ES}}]} 飽和条件での [ES] 濃度にほぼ等しい。 ミカエリス-メンテンの式は、反応速度 v が、酵素基質結合の平衡や速度定数 k2 とどう関係するかを示す式である。レオノール・ミカエリスとモード・レオノーラ・メンテン は、 k2 が k-1 よりもずっと小さいとき (平衡の仮定)、次の式を導いた。 v = V max [ S ] K m + [ S ] {\displaystyle v={\frac {V_{\max[}{\mbox{S}}]}{K_{m}+[{\mbox{S}}]}}} (式 2) この式は、単一基質機構をもつ酵素ほとんどの速度論の基礎となる。 ミカエリス定数 Km は、酵素の反応速度が Vmax の半分になるときの基質濃度として定義されている。このことはミカエリス-メンテン式で[S] = Km を代入してみれば確認できる。反応の律速段階が基質の解離よりもずっと遅い場合 (k2 << k-1)、ミカエリス定数 Km は複合体 ES の解離係数に概ね等しい。ただし、このような状況は比較的まれである。 多くの状況では、k2 > k-1 であり、Briggs-Haldane 状態と呼ばれる。定常状態近似から分かるように、ミカエリス-メンテン式はこれらの状況でも成立する。初期速度の段階では反応速度はほとんど一定であり、[ES] も変化しないことが分かる (式1)。 d d t [ ES ] = k 1 [ E ] [ S ] − k 2 [ ES ] − k − 1 [ ES ] ≈ 0. {\displaystyle {\frac {d}{dt}}[{\mbox{ES}}]=k_{1}[{\mbox{E}}][{\mbox{S}}]-k_{2}[{\mbox{ES}}]-k_{-1}[{\mbox{ES}}]\approx 0.} よって、[ES] は下の式であたえられる。 [ ES ] ≈ [ E ] t o t [ S ] [ S ] + K m {\displaystyle [{\mbox{ES}}]\approx {\frac {[{\mbox{E}}]_{\mathrm {tot} }[{\mbox{S}}]}{[{\mbox{S}}]+K_{m}}}} ここでミカエリス定数 Km の定義は、 K m = d e f k 2 + k − 1 k 1 ≈ [ E ] [ S ] [ ES ] {\displaystyle K_{m}\ {\stackrel {\mathrm {def} }{=}}\ {\frac {k_{2}+k_{-1}}{k_{1}}}\approx {\frac {[{\mbox{E}}][{\mbox{S}}]}{[{\mbox{ES}}]}}} ([E] は遊離の酵素濃度)。まとめると、反応速度 v の一般式は再びミカエリス-メンテン式に戻る。 v = k 2 [ E S ] = k 2 [ E ] t o t [ S ] [ S ] + K m = V max [ S ] [ S ] + K m . {\displaystyle v=k_{2}[\mathrm {ES} ]={\frac {k_{2}[{\mbox{E}}]_{\mathrm {tot} }[{\mbox{S}}]}{[{\mbox{S}}]+K_{m}}}={\frac {V_{\max[}{\mbox{S}}]}{[{\mbox{S}}]+K_{m}}}.} 特異度定数 k c a t / K m {\displaystyle k_{cat}/K_{m}} は、酵素が基質を生成物に変換する際の効率を示す。ミカエリス定数の定義から、ミカエリス-メンテンの式は次のような形にも書ける。 v = k 2 [ E S ] = k 2 K m [ E ] [ S ] {\displaystyle v=k_{2}[\mathrm {ES} ]={\frac {k_{2}}{K_{m}}}[{\mbox{E}}][{\mbox{S}}]} ここで[E] は遊離の酵素濃度である。つまり、特異度定数とは遊離の酵素が遊離の基質と結合して生成物をつくる際の実質的な2次の速度式である。特異度定数は溶液中で酵素と基質が出会う頻度によって制限されるが、その値は1010 M−1 s−1にも及ぶ。驚くべきことだが、この最大速度は基質や酵素の大きさとはほとんど関係ない。2つの基質があったとき、その特異度係数の違いは酵素がそれぞれの基質を変換する際の効率の違いを定量的に表す。基質濃度 [S] が小さいとき ([S] << Km)、ミカエリス-メンテン式のグラフの傾きから、特異度定数を知ることもできる。
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