ミアズマ説とコンタギオン説
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/11 01:36 UTC 版)
「病原体」の記事における「ミアズマ説とコンタギオン説」の解説
古い時代には、感染症は他の天災と同様に一種の神罰ではないかと考えられていたが、身分や人種などには無関係に、また一カ所に集中して蔓延し、それがときには信仰を異にする複数の国にわたって発生することから、この考えは次第に否定されていった。そしてヒポクラテスが活躍した紀元前4世紀頃には、ミアズマ説(瘴気説)と呼ばれる説が提唱された。ミアズマ説は、何らかの原因によって汚染された空気(瘴気、ミアズマ)に、ヒトが触れることによって病気になるという説である。この説の中核をなす「瘴気」の存在は19世紀以降に否定されていくものの、「外因性の原因物質によって病気が発生する」という病原体の基礎概念を初めて提唱したことは、医学上の重要な転機となった。これらの古くからの考え方は長い間信じられ、現在でもマラリア(イタリア語で「悪い空気」を意味するmal ariaに由来)、インフルエンザ(天体の運行や寒気によって「影響される」という意に由来)などの病名にその名残りが見られる。 14世紀から16世紀にかけて、天然痘やペスト、梅毒などの大流行がヨーロッパで発生すると、これらの感染症にかかった患者の移動に伴って感染が拡大しうることから、瘴気では説明のつかない「病気を媒介する何か」の存在が漠然と認識されるようになった。1546年、ジローラモ・フラカストロはこの考えをさらに押しすすめて、コンタギオン説(接触伝染説)を提唱した。この中でフラカストロは、生きた伝染性生物(contagium vivim, contagium animatum)との接触によって発病し、さらにこれらが他のヒトに伝達されることで広まるという考えを示した。さらに、フラカストロはこの伝染の形態を、(1)患者との直接接触によるもの、(2)何らかの媒介物を経るもの、(3)離れた患者から伝染する(空気感染する)もの、の3つに分類することで、伝染病が広まるメカニズムを説明した。この説は、病原体の本体が生物であるばかりでなく、その伝染についても的確に予言したものであった。現代の観点からは、ミアズマ説ではなくコンタギオン説の方が真相に迫るものであることが判明したものの、当時はこのフラカストロの説についても、科学的に証明することができなかった。このため、ミアズマ説とコンタギオン説は多くの論争を起こしながらも、互いに決め手となる証明がないまま、ともに単なる仮説として扱われた。当時の人々は、やがて病気の種類によってミアズマが原因になる場合とコンタギオンが原因になる場合の両方があるものと考えるようになった。
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