マルクス主義における弁証法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/02 23:17 UTC 版)
「弁証法」の記事における「マルクス主義における弁証法」の解説
カール・マルクスは、世界は諸事象の複合体ではなく諸過程の複合体であることを指摘した点をもってヘーゲルの弁証法を高く評価しているが、ヘーゲルは「頭でっかち」で「逆立ち」しており、彼の考えを「地に足をつけた」ものにしなければならないと主張した。すなわち、ヘーゲルの観念論による弁証法における観念の優位性を唯物論による物質の優位性に反転させることで唯物弁証法(弁証法的唯物論)またはマルクス主義的弁証法が考え出された。世界は観念的な神や絶対知に向かって発展していくのではなく、物質、自然科学に向かって発展していっているとするものである。 この弁証法を歴史の理解に応用したものが史的唯物論(唯物史観)であり、この見方はマルクスやエンゲルス、レーニン、トロツキーの著作に見て取ることができる。この弁証法は、マルクス主義者の思想の核心的な出発点となるものである。 エンゲルスは『自然弁証法』において、唯物論的弁証法の具体的な原則を3つ取り上げた。 「量から質への転化、ないしその逆の転化」 「対立物の相互浸透(統一)」 「否定の否定」 これらがヘーゲルにおいても見られることをエンゲルスも認めている。1は、量の漸次的な動きが質の変化をもたらすということをいっており、エンゲルスは例えば、分子とそれが構成する物体ではそもそもの質が異なることを述べた。2と3に関するエンゲルスの記述は少ない。しかし、2はマルクス主義における実体論でなく関係論と結びつく内容であるといわれる。つまり、対立物は相互に規定しあうことで初めて互いに成り立つという、相互依存的で相関的な関係にあるのであって、決して独自の実体として対立しあっているわけではない、ということである。3はヘーゲルのアウフヘーベンと同じである。エンゲルスによれば、唯物論的弁証法は自然から弁証法を見出すが、ヘーゲルのそれはちょうど逆で、思考から自然への適用を行おうとする。 また、エンゲルスは、ヘーゲルの弁証法の正当性は「細胞」「エネルギー転化」「ダーウィンの進化論」の3つの自然科学的発見によって裏付けられたと考えた。 スターリン主義における弁証法的唯物論は、政治的イデオロギーの側面が非常に強かったため、だんだんと教条主義的、また理論的に破綻したものへと変わって行った。ソビエト連邦の哲学者の中で最も有名な人物は、エヴァリッド・イリエンコフである。彼は、レーニンの思想にある「弁証法的論理学を発展させるためには、マルクスの『資本論』の認識論をこそ最大限に利用すべきである」という指示に従い、観念論的偏向から解放されたマルクス主義的な弁証法の研究を続けた。
※この「マルクス主義における弁証法」の解説は、「弁証法」の解説の一部です。
「マルクス主義における弁証法」を含む「弁証法」の記事については、「弁証法」の概要を参照ください。
- マルクス主義における弁証法のページへのリンク