ホメロスに見られる医療
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/01 20:43 UTC 版)
「古代ギリシア医学 (ガレノス以前)」の記事における「ホメロスに見られる医療」の解説
それでは、古代ギリシア医術の源泉、ないしはヒポクラテス学派 (コス学派)やクニドス学派のような経験科学と呼ぶにふさわしい医術よりも以前のギリシア医術はどのような状態にあったであろうか。ハイベルク著『古代医学』には簡明にこの間の事情が述べられている。それによれば、まずホメロスの叙事詩では医術は高度の段階に発達しており、『オデュッセイア』に呪文を唱えながら止血する話がただ一回見えるだけで、他は迷信的要素を加えずに全く合理的な創傷療法が行われている。また医師は歌人、予言者、造船技師などともに「人を助ける職人」と見なされ、いたるところで歓迎されている。人間界と同様にオリュンポスの神々の間にも侍医パイエオン (英: Paieon)がいる。また軍陣外科のほかに、医師たちは鎮痛剤と致死薬に通じていた。さらに、人体の解剖学的知識が存在したことを推察せしめるに足る描写が、ホメロスの詩のいたるところに見受けられる。 このように、紀元前9世紀頃にすでに軍陣外科学と創傷療法が健全な軌道を歩んでいたと考えられているが、これは迷信的呪術のみに頼っていたのでは戦陣の実際には用をなさないという事情に基づくと解して良いであろう (ホメロスの叙事詩そのものの成立についても問題はあるにせよ)。また、戦争との関係での医術の発達が考えられるとすれば料理術についても、日常生活の必要に迫られて、かなり早くから迷信からの分離と経験的発達があったものと解することが可能であろう。 創傷の観察ないし死体の保存の観点から得られた知識であろうが、ホメロス『イリアス』第19巻23-26行には、アキレウスが、殺された親友パトロクレスの傷口から蠅が入りこんで蛆を生み、死体をいためはしないかと心配する場面があるが、ホメロス以後この知識は忘れられたままになって、蛆は肉から自然発生するものとされていた。17世紀にその誤りを実験的に正したのはF・レーディである。日本の『古事記』にもイザナミの死体に蛆がたかっている有様が語られているが、これは原始的恐怖感情のようなものに基づいているに過ぎない。
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