ダニとの共生について
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/08 00:56 UTC 版)
ダニ室が植物とダニとの共生のための構造であるとの説はダニ室と命名された時点で考えられたものであり、その時点でその意味として2つの説があった。1つはダニ室がダニの脱皮場所などとして用いられ、植物はそこでダニが廃棄した物質から肥料分を得る、と言うものであった。しかしこれはダニ室にそのような吸収のための構造や機能がないらしいことで否定的である。なおアリ植物においてはこのタイプの意味合いも重要とされ、そのようなものに対して栄養補給型との名がある。詳しくは該当項目を参照されたい。 もう1つは最初に示したもの、つまり肉食性のダニや菌食性のダニがここを隠れ家にすることで葉の上に常駐するようになる、というものである。ダニにとってはこれが産卵場所や脱皮の場所、乾燥や天敵を避けるための場所として機能し、植物はダニによって外敵となる植食性のダニなどや菌類を退治して貰うことが出来る、つまり双利共生となる。 ダニ室に見られるダニとして普通なのは肉食性のものとしてはカブリダニ科 Phytoseiidae、 Stigmaeidae、菌食性のものとしてはホコリダニ科 Tarsonemidae、キノウエコナダニ科 Winterschmidtiidae、 Oribatiida が主たるものである。 ただしこの説が正しいかどうかには様々な問題がある。当初からダニの見られないダニ室もあるとしてこの説に疑問を投げかける声はあった。しかし定量的な調査や実験的な手法による研究によって検証が行われるようになったのはずっと遅れ、ようやく20世紀後半になってからである。最初にO'Dowd & Willson が1989年にダニ室に見られるダニを実際に調べて補食性、菌食性、それに腐食性と植物に利益を与えると思われるものが優占していることを示した。それ以降、ダニ室のある葉で補食性のダニが多くなることなどが定量的に示されている。また実験的な研究としてアボカドでは毛束型のダニ室を持つが、これを剃ったり、逆に毛束をつけることで、毛束型ダニ室の存在で捕食性ダニの密度が高くなるという結果が得られた例や、ホルトノキ科の Elaeocarpus reticulatus ではダニ室の入り口を人工的に塞ぐことで捕食性ダニの密度が明らかに下がったという報告などがある。 しかしこの仮説が文句なしに認められているかといえば、問題は多い。上記のように実証的な研究はまだ始まったばかりであり、多くの問題が未解明である。またこの仮説に反する結果も報告されており、例えばアラビカコーヒーノキで穴型のダニ室を松ヤニで塞いで実験した結果、ダニ集団の量も葉に与えられた被害の程度も変化がなかったといった報告も提出されており、その著者は少なくともこの樹種、この区域におけるダニとこの樹種の双利共生関係は存在しないと判断している。 このような点について西田(2004)はダニ室を持つ植物が樹木であることを問題の困難さをもたらす要素の1つにあげており、ダニ室の有無などによる植物への影響が計測しづらいのが問題だとする。また、ダニ室が多様な環境の多様な植物に存在することから、全てが同じ機能、同じ適応の結果と考えることが問題なのではないかとも述べている。
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