タラの激減とグランドバンクスの漁業の崩壊
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/23 14:32 UTC 版)
「グランドバンク」の記事における「タラの激減とグランドバンクスの漁業の崩壊」の解説
現在のグランドバンクでは、漁船の大規模化やソナー(魚群探知機)の進化などにより乱獲の危機が叫ばれ、魚の生存数も深刻なほどの減少傾向にある。 かつては伝統的なはえ縄漁で行われていたタラ漁は、第二次世界大戦後、大型トロール船による大規模な底引き網漁へと変貌した。しかし海底を根こそぎにする漁法によってタラの産卵場となる海底地形の破壊が進み、数十年間にわたる乱獲で、1990年ごろを境にかつて至るところにいたタラがほとんど獲れなくなるという危機的状況に陥った。1992年にカナダ政府はグランドバンクの漁場を閉鎖し、1990年代以降、カナダ政府は漁業資源回復のために何度も大幅な漁獲量制限や漁期制限を行っているものの、一部の水域でタラの回復が見られるほかは、大部分の海域ではいまだにタラは戻っていない。 沿岸の漁民にはロブスター漁に転向する者もいるが、大部分の漁師は生活の維持が困難となり、住み慣れた漁村を去ったり、沖合油田や大都市への出稼ぎを強いられたりする非常な苦境にある。こうしたアトランティック・カナダの貧困化はカナダ国内の社会問題となりつつある。また、いまだタラの生息数は危機的としてタラ漁の規制継続を主張する漁業管理官や海洋研究所の漁業研究者と、タラの生息数は十分に回復しつつあるとして制限撤廃を主張する漁民との意見の対立も深刻である。 周辺国による、領海や排他的経済水域(EEZ)の境界論争も乱獲を加速している。現在のカナダのEEZはグランドバンクの大半を占めているが、東に長く伸びている「鼻」(フレミッシュ・キャップ Flemish Cap 周辺の浅い海域)や、南に伸びている「尾」などの部分はEEZからはみ出しており、この部分での底引き網漁操業や乱獲をめぐってカナダとEUとの間で1990年代半ば以降深刻な国際問題に発展している(カレイ戦争 / Turbot War)。しかし、カナダが近年グランドバンク周辺で進めている水路調査や地質学調査は、海洋法に関する国際連合条約(UNCLOS)の条件を満たしてカナダ東方沖の大陸棚全域にEEZを適用するために必要なデータ収集である。UNCLOSのこの部分が批准されれば、カナダはグランドバンクのEEZ域外にも経済的主権を延ばすと考えられている。 アメリカ合衆国はパリ条約 (1763年) により、EEZとは関係なくグランドバンクでの一定の漁業権を認められている。フランスはニューファンドランド島南沖のサンピエール島・ミクロン島を領有することによりグランドバンクの一部を自国のEEZとしているが、EEZの範囲を巡ってカナダと対立し続けている。
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