エネルギー効率への挑戦
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/23 06:50 UTC 版)
「運動エネルギー回生システム」の記事における「エネルギー効率への挑戦」の解説
2014年よりF1に導入されたエネルギー回生装置 (ERS) は、運動エネルギー回生に加えて、排気ガスから熱エネルギーを回生することもできる。前者はMGU-K (Motor Generator Unit - Kinetic)、後者はMGU-H (Motor Generator Unit - Heat) と称される。 これら2つのMGUは、バッテリー (Energy Store, ES) や内燃機関(1.6L V6直噴エンジン+シングルターボ)と統合され、ひとつのパワーユニット (Power Unit, PU) を構成する。すなわち、ERSの開発はエンジンサプライヤーが包括的に担当することとなる。 同時に、決勝レース中の最大燃料搭載量が100kgに制限された。2013年までのV8エンジンでは1レースあたり155〜160kg程度の燃料を消費しており、従来比35%の燃費向上を実現しなければ、レースペースで完走することは望めない。また最高回転数が15,000rpm、瞬間燃料流量は最大100kg/hに規制されるため、2014年以降はパワーはもちろん「エネルギー効率」が最重要課題となる。 一般的なガソリンエンジンの場合、燃料に含まれる総エネルギーから駆動力として抽出されるのは30%程度、熱効率に特化したとしても40%程度が限界である。その点では総エネルギーの半分近くを抽出可能なディーゼルエンジンに劣り、少なくとも総エネルギーの三分の二が排気ガス中の熱エネルギーとして排出されてしまう。新パワーユニットは、これらの無駄に捨てられていた排気熱を再利用することで、市販車に搭載されている優れたディーゼルエンジンと同等のエネルギー効率を実現することが肝となっている。 排気熱エネルギーの再利用方法には、航空機や船舶の大型エンジンで採用されたターボコンパウンドという先例があるが、電力を生成して複合的に再利用する技術はまだ試験段階であり、レースで磨かれた技術が市販車へフィードバックされる可能性を秘めている。運動エネルギー回生が街乗りでのストップ&ゴーに適しているのに対し、熱エネルギー回生は高速道路での長距離巡行時にエンジン効率を向上させるような用途が考えられる。実際、ホンダは2015年からのF1復帰を表明した際、新レギュレーションが企業戦略に合致し、将来的な市販車開発につながると意欲を述べている。 一方でMGU-Hの導入は、自動車メーカー等から「開発コストが高くシステムが複雑化する上、市販車への応用が困難」だとして廃止を求める意見も多く、度々MGU-Hの廃止を巡る議論が起きているが、2021年時点では2025年までMGU-Hありのレギュレーションが維持されることが決まっている。
※この「エネルギー効率への挑戦」の解説は、「運動エネルギー回生システム」の解説の一部です。
「エネルギー効率への挑戦」を含む「運動エネルギー回生システム」の記事については、「運動エネルギー回生システム」の概要を参照ください。
- エネルギー効率への挑戦のページへのリンク