アルファ粘性モデル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/16 17:21 UTC 版)
ニコライ・シャクラとラシード・スニヤエフは1973年の論文において、ガス中の乱流が粘性を増加させる起源となることを提唱した。乱流が亜音速で渦の大きさの上限値が円盤の厚みであると仮定すると、円盤の粘性は ν = α c s H {\displaystyle \nu =\alpha c_{\rm {s}}H} と推定される。ここで c s {\displaystyle c_{\rm {s}}} は音速、 H {\displaystyle H} は円盤のスケールハイト、 α {\displaystyle \alpha } はゼロ (降着なし) から 1 程度の値を取るパラメータである。乱流物質中では ν ≈ v t u r b l t u r b {\displaystyle \nu \approx v_{\rm {turb}}l_{\rm {turb}}} となり、 v t u r b {\displaystyle v_{\rm {turb}}} はガスの平均的な運動に対する乱流セルの速度、 l t u r b {\displaystyle l_{\rm {turb}}} は最大乱流セルのサイズであり、 l t u r b ≈ H = c s / Ω {\displaystyle l_{\rm {turb}}\approx H=c_{\rm {s}}/\Omega } および v t u r b ≈ c s {\displaystyle v_{\rm {turb}}\approx c_{\rm {s}}} と推定される。なお Ω = ( G M ) 1 / 2 r − 3 / 2 {\displaystyle \Omega =(GM)^{1/2}r^{-3/2}} はケプラー運動の軌道角速度、 r {\displaystyle r} は質量が M {\displaystyle M} である中心天体からの距離を表す。静水圧平衡の方程式を用い、角運動量の保存、および円盤の厚みが薄いことを仮定すると、円盤構造の方程式は α {\displaystyle \alpha } パラメータについて解くことが可能となる。観測量の多くは α {\displaystyle \alpha } に対して弱い依存性しか持たないため、自由パラメータを持つにも関わらずこの理論は予測可能である。 不透明度(英語版)に対してクラマースの不透明度(英語版)を用いると、 H = 1.7 × 10 8 α − 1 / 10 M ˙ 16 3 / 20 m 1 − 3 / 8 R 10 9 / 8 f 3 / 5 c m {\displaystyle H=1.7\times 10^{8}\alpha ^{-1/10}{\dot {M}}_{16}^{3/20}m_{1}^{-3/8}R_{10}^{9/8}f^{3/5}{\rm {cm}}} T c = 1.4 × 10 4 α − 1 / 5 M ˙ 16 3 / 10 m 1 1 / 4 R 10 − 3 / 4 f 6 / 5 K {\displaystyle T_{c}=1.4\times 10^{4}\alpha ^{-1/5}{\dot {M}}_{16}^{3/10}m_{1}^{1/4}R_{10}^{-3/4}f^{6/5}{\rm {K}}} ρ = 3.1 × 10 − 8 α − 7 / 10 M ˙ 16 11 / 20 m 1 5 / 8 R 10 − 15 / 8 f 11 / 5 g c m − 3 {\displaystyle \rho =3.1\times 10^{-8}\alpha ^{-7/10}{\dot {M}}_{16}^{11/20}m_{1}^{5/8}R_{10}^{-15/8}f^{11/5}{\rm {g\ cm}}^{-3}} という式が得られる。ここで T c {\displaystyle T_{c}} と ρ {\displaystyle \rho } は円盤の中央平面における温度と密度である。また M ˙ 16 {\displaystyle {\dot {M}}_{16}} は 10 16 g s − 1 {\displaystyle 10^{16}{\rm {g\ s}}^{-1}} で規格化した降着率、 m 1 {\displaystyle m_{1}} は太陽質量 M ⨀ {\displaystyle M_{\bigodot }} で規格化した中心の天体の質量、 R 10 {\displaystyle R_{10}} は 10 10 c m {\displaystyle 10^{10}{\rm {cm}}} で規格化した円盤内のある地点の半径である。また f {\displaystyle f} は f = [ 1 − ( R ⋆ R ) 1 / 2 ] 1 / 4 {\displaystyle f=\left[1-\left({\frac {R_{\star }}{R}}\right)^{1/2}\right]^{1/4}} であり、 R ⋆ {\displaystyle R_{\star }} は角運動量が内側へ輸送されなくなる半径を意味する。 シャクラ・スニヤエフのα円盤モデルは、熱的にも粘性的にも不安定である。 β {\displaystyle \beta } 円盤として知られる代替モデルはどちらに対しても安定であり、粘性はガス圧に比例して ν ∝ α p g a s {\displaystyle \nu \propto \alpha p_{\mathrm {gas} }} という形で表される。標準的なシャクラ・スニヤエフのモデルでは、 ν = α c s H = α c s 2 / Ω = α p t o t / ( ρ Ω ) {\displaystyle \nu =\alpha c_{\rm {s}}H=\alpha c_{s}^{2}/\Omega =\alpha p_{\mathrm {tot} }/(\rho \Omega )} となるため、粘性は全圧 p t o t = p r a d + p g a s = ρ c s 2 {\displaystyle p_{\mathrm {tot} }=p_{\mathrm {rad} }+p_{\mathrm {gas} }=\rho c_{\rm {s}}^{2}} に比例すると仮定される。 シャクラ・スニヤエフのモデルは、円盤が局所熱平衡であることを仮定しており、円盤は熱を効率的に放射する。この場合、円盤は粘性加熱を放射して冷却し、幾何学的に薄い構造になる。しかしこの仮定は成り立たない場合がある。放射が非効率である場合、円盤はトーラス状に「膨らんだ」構造になったり、移流優勢流 (advection-dominated accretion flow, ADAF) のような3次元的な構造になったりする。ADAF 解は一般に、降着率がエディントン限界の数%よりも小さいことを要求する。別の極端な事例は土星の環であり、円盤のガスが非常に枯渇している場合は角運動量輸送は固体天体の衝突と円盤・衛星間の重力相互作用によって占められることになる。このモデルは重力レンズを用いた最近の天体物理学測定と一致する。
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