みちのくに戀ゆゑ細る瀧もがな
作 者 |
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季 語 |
滝 |
季 節 |
夏 |
出 典 |
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前 書 |
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評 言 |
つらい恋をするあまり細る、そんな滝があればな、という。水量が減った滝の様子を恋やつれと捉えたことが面白く、みやびな言い回しによって一気に別世界へ読者を運んでいく。 実際、秋田県中ノ又渓谷に安の滝という「みちのく悲恋伝説」が残る滝がある。あとで迎えに来ると言い残して村を出たまま音沙汰のない久太郎を待ち続け、あげく悲しみに暮れて滝に身を投げてしまうヤス。それ以来この滝を「ヤスの滝」と呼び、この滝に来ると恋が叶うという。 そうした伝説を踏まえて作ったのだろうが、読者はたとえそれを知らなくても、「みちのく」という地が放つ詩語としての力にすべてが納得させられ、浪漫ある一句に仕上がっている。 筑紫磐井は昭和四十六年「馬醉木」に投句を始め、翌四十七年「沖」に入会。第一句集『野干』が刊行されたのは平成元年で、野干とは狐の異称。一巻を通して王朝の故事、背景の物語を巧みに題材とした、俳諧味のある作品世界が展開されている。 異才はしかし、こうした第一句集の世界に滞ることはしない。ひとつの方法を極めればまた新しい方法を求める。 南国の島よりおしやれ主宰夫人 『筑紫磐井集』 貧しくて美しき世を冀ふ 〃 など、最近の句では「分かりやすい前衛」と自ら名乗り、ぬるま湯化した俳句形式に常に問いを投げかける。 その旺盛な執筆力は、マクロ的視座から日本の詩歌全体を捉え直し、構造的特質を解明しようとする、継続的かつ深い理論的研究において比類のない成果を残している。 |
評 者 |
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備 考 |
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