「江戸前」の定義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/19 14:59 UTC 版)
近世において、現在の東京湾を指す言葉として「江戸前海」や「江戸内海」あるいは「江戸前」などが使われていた。このうち江戸前海や江戸内海はある範囲をもった海域のことであるが、江戸前は本来は漁場を示す言葉であり、佃沖とほぼ同様に使用されてきた。 漁場としての江戸前は佃沖を指すとしても、どこまでが佃沖かはそう簡単には決められない。一般的な感覚では現在の神奈川県や千葉県の沿岸が佃沖とは考えられないが、漁業をする当事者にとってはそうとは限らない。海は続いており魚は回遊するものでもあり、古くから"どこで取れた魚を江戸前と呼ぶか?"という定義は曖昧で、そのため各方面から主張がなされ、様々な議論が繰り返されてきた。その議論に終止符を打つため、2005年8月、水産庁の「豊かな東京湾再生検討委員会食文化分科会」(会長=小泉武夫東京農大教授)は、江戸前を「東京湾全体でとれた新鮮な魚介類を指す」と定義付けた(ここでいう東京湾は、三浦半島の剱崎(神奈川県三浦市)と房総半島の洲崎(千葉県館山市)を結ぶ線より内側の東京湾のほぼ全域)。 同分科会は定義付けの理由について、「江戸前とは本来江戸城の前という意味であり、羽田沖から江戸川河口周辺の沿岸部を指すものであった。しかし現在、このあたりの海域では漁業はほとんど行われていないことから、江戸前の定義を東京湾全体に拡大した。」となどと説明している。また議論の折、観音崎(神奈川県横須賀市)と富津岬(千葉県富津市)を結ぶ線より北側の東京内湾のみを江戸前とすべきという意見も出されたが、内湾と外湾を行き来する魚が多いこと、江戸前寿司と呼称される寿司には外湾で取れる魚介類もネタに含まれていることなどを理由として、東京湾全体を江戸前とする結論に達している。 もっとも、これは採れた魚をどこまで江戸前と称することを許容するか、言い換えれば産地偽装にあたらないかというだけの話である。水産庁に言葉の意味を決める権限があるわけでもなく、ましてこの言葉が広く使われていた江戸時代に遡って適用できるものではないことは当然である。
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