イオン化傾向 イオン化傾向の概要

イオン化傾向

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/26 01:22 UTC 版)

金属のイオン化傾向が大きい順に並べたものをイオン化列という。

概要

溶液中にある単体と別の元素のイオンとが存在するとき、両者の間で酸化還元反応が生じると、単体は酸化されてイオン化するのに対して、もう一方は還元されて単体として析出する。このとき「還元された元素より酸化された元素の方がイオン化傾向が大きい」ということになる。どちらが酸化されどちらが還元されるかは酸化還元電位の大小に依存するので、この電位の順に元素を並べたものがイオン化傾向の順となる。

イオン化傾向が小さいほどイオンは還元され金属として析出しやすくなる。また、イオン化傾向が大きい金属単体でも溶融塩電解などで得ることができる。

なお、イオン化傾向とは別な指標にイオン化エネルギー(イオン化エンタルピー・イオン化エントロピー)という指標がある。それは原子核に束縛されている電子が電離するのに必要なエネルギー値であり、文字通り原子のイオン化のしやすさの指標である。しかし、酸化還元反応の進む方向は単にイオン化エネルギーの大小だけではなく、イオンの溶液中での安定性や電気化学活量など化学平衡として反応が進む方向を決定づける他の因子に大きく影響される。

中学や高校レベルの理科化学では酸化還元反応や化学平衡を詳しく扱わないため、説明を単純化して「イオン化傾向は、元素のイオン化の容易さの序列である」と説明している場合がある。しかし正確には、前述の説明のようにイオン化の容易さではなく、二つの元素のどちらがより酸化され易い(あるいは還元され易い)か、つまり酸化還元反応における化学平衡がどちらに偏っているかの序列である。

金属のイオン化傾向

イオン化傾向は水溶液中における水和イオンと単体金属との間の標準電極電位の順であらわされる。このとき水和金属イオンは無限希釈状態である仮想的な1 mol/kgの理想溶液状態を基準とし、その標準酸化還元電位と水和金属イオンの標準生成ギブス自由エネルギー変化とは以下の関係がある。

ここで Fファラデー定数z はイオンの電荷である。

金属のイオン化傾向を大きいものから順に配列すると以下のとおりになる(個別に脚注のない金属の電位は『化学便覧 基礎編 改訂4版』[1]による)。ただし( )内はギブス自由エネルギー変化からの計算値([2]による数値)。

リチウム (Li),
セシウム (Cs),
ルビジウム (Rb),
カリウム (K),
バリウム (Ba),
ストロンチウム (Sr),
カルシウム (Ca),
ナトリウム (Na),
マグネシウム (Mg),
トリウム (Th), [3]
ベリリウム (Be), [3]
アルミニウム (Al),
チタン (Ti), [3]
ジルコニウム (Zr), [3]
マンガン (Mn),
タンタル (Ta),
亜鉛 (Zn),
クロム (Cr),
(Fe),
カドミウム (Cd),
コバルト (Co),
ニッケル (Ni),
スズ (Sn),
(Pb),
(水素 (H2)),
アンチモン (Sb),
ビスマス (Bi),
(Cu),
水銀 (Hg),
(Ag),
パラジウム (Pd),
イリジウム (Ir),
白金 (Pt),
(Au),

タンタルおよびアンチモンなどはイオン半径が小さく電荷が大きいため、水和イオンは非常に加水分解しやすく、強酸性においても安定に存在し得ないため酸化物との電位で代用している。白金およびなどの水和イオンも非常に加水分解しやすく、特に金については単純な水和イオンは存在しないとされているため[4]、正確な値とはいえない。


  1. ^ a b 日本化学会編 編『化学便覧 基礎編』(改訂4版)丸善、1993年。ISBN 4-621-03870-2 
  2. ^ a b c D.D. Wagman, W.H. Evans, V.B. Parker, R.H. Schumm, I. Halow, S.M. Bailey, K.L. Churney, R.I. Nuttal, K.L. Churney and R.I. Nuttal, The NBS tables of chemical thermodynamics properties, J. Phys. Chem. Ref. Data 11 Suppl. 2 (1982)
  3. ^ a b c d 各種金属の標準電極電位” (pdf). 東京都鍍金工業組合. 2012年1月4日閲覧。
  4. ^ F.A.コットン、G.ウィルキンソン 著、中原勝儼 訳『無機化学 上』(第4版)培風館、1987年。ISBN 4-563-04192-0 
  5. ^ 渡辺正「イオン化列は仮想の世界 : 電気化学(その 1)(教科書の記述を考える 1)」『化学と教育』第44巻第9号、日本化学会、1996年、593-596頁、ISSN 0386-2151NAID 110001829821 
  6. ^ 渡辺 正 ほか 『新版 化学I』 大日本図書
  7. ^ 佐野博敏 ほか 『高等学校 化学1』 第一学習社
  8. ^ 長島弘三、佐野博敏・富田功『無機化学』実教出版〈実教理工学全書〉、1974年。OCLC 674244912全国書誌番号:69009146 
  9. ^ マナペディア-イオン化傾向の大きい金属とその覚え方
  10. ^ 『理解しやすい新化学』(文英堂,1983年版,東久保勝彦編)


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