USエアウェイズ1549便不時着水事故 事故調査

USエアウェイズ1549便不時着水事故

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/04 02:10 UTC 版)

事故調査

当初は航空機を狙ったテロだと考えられていたが、アメリカ合衆国国土安全保障省によってそれは否定された[11]

事故の原因は、エンジンに複数のカナダガンが吸い込まれたことである。このカナダガンは成長した大型(最低でも4kg)のものだった。これによりエンジン内部のコンプレッサー部分が致命的なダメージを受けたため、エンジンを再起動できなかった。ただし、回収されたフライト・データ・レコーダーの解析では、右エンジンはフレーム・アウトしたが左エンジンは完全にはフレーム・アウトせず、このため飛行速度が低かったもののウィンドミル状態[注釈 2]に近く、付随するオルタネーターが操縦等に必要な電力を賄える程度の回転数は保たれていた事が確認された[注釈 3]

エンジン停止後、機長は当時のチェックリスト内では優先度が低かったAPUの起動を即座に行った。次に操縦を交代し、副操縦士はQRH(クイック・リファレンス・ハンドブック)を開き、エンジン停止時の対処を始めたが、このチェックリストは機体が高度2万フィート以上にいる場合の想定で作られていたため、とても長く、全項目を完了させるには時間が足りなかった。また、パイロット達は、エンジンが再始動不可能なまでに致命的に損傷していたことを把握できていなかった。

緊急着水の項目は最後のページに書かれていたため、同機に搭載されていた浸水を防ぐための与圧用リリーフバルブを強制的に閉じるスイッチが押されることはなかった。一方、APUの起動が早かったことが功を奏し、飛行制御コンピューターへの電力は失われずに済んだ。これがパイロットの操作を補助したことにより失速を回避し、搭乗者の生存率を上げていた。

事故調査の過程で米国家運輸安全委員会が行ったフライトシミュレーションでは、エンジン停止後にすぐに空港へ引き返していた場合は、緊急着陸は可能だったことが判明している。しかし、「シミュレーション中にパイロットが行った即時の旋回は、鳥の衝突を認識して一連の行動を決定するために必要な時間遅延などの現実世界の考慮事項を反映または考慮していなかった。」とし、シミュレーションは非現実的なものとした。実際には、事故機のパイロットたちは訓練通りQRHを実施し、また管制官の指示を受けて空港への引き返しを始めた時にはエンジンが停止してから既に30〜40秒ほど経過していた。そこで、35秒の遅延時間を挿入し再度シミュレーションを実施したところ、これに参加したパイロットたち全員が空港到着前に機体を墜落させる結果となった。中には市街地に墜落したパターンもあり、地上の被害も出ていた可能性も示唆された。

以上のことから、委員会は最終的に、機長が正しい決定を行ったと判断した[12]


注釈

  1. ^ エアバス機での飛行経験が浅い。
  2. ^ 相当の飛行速度を要する
  3. ^ ただし、EICASがその際に誤った値をレコーダーへ記録したため、実際にエンジンが発見されて調査されるまでは、事故調査官たちは左エンジンが動いていたと考えていた
  4. ^ 撮影当時、既に退役済み

出典

  1. ^ NTSBによる 事故調査報告書, http://www.ntsb.gov/ntsb/brief.asp?ev_id=20090115X73226 
  2. ^ 朝日新聞 2009.01.16付 夕刊1面
  3. ^ “【NY旅客機事故】「ハドソン川の奇跡」 全員救助を導いた機長に称賛の声”. MSN産経ニュース. (2009年1月16日). オリジナルの2009年2月10日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20090210210557/http://sankei.jp.msn.com/world/america/090116/amr0901161031010-n1.htm 2022年9月3日閲覧。 
  4. ^ a b “【NY旅客機事故】「奇跡」が米国民の心に希望を点す”. MSN産経ニュース. (2009年1月16日). オリジナルの2009年2月15日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20090215015822/http://sankei.jp.msn.com/world/america/090116/amr0901162028025-n1.htm 2022年9月3日閲覧。 
  5. ^ a b 日本テレビ「世界一受けたい授業」2013/10/19放送 機長が出演し証言、着水時映像あり
  6. ^ “【NY旅客機事故】「プロの仕事」英雄機長に喝采”. MSN産経ニュース. (2009年1月17日). オリジナルの2009年2月12日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20090212102541/http://sankei.jp.msn.com/world/america/090117/amr0901170134001-n1.htm 2022年9月3日閲覧。 
  7. ^ メーデー!:航空機事故の真実と真相』シーズン9第1話「ハドソン川の奇跡」における調査官の証言より
  8. ^ “【NY旅客機事故】「ハドソン川のヒーロー」 改めて称賛 NY市長 ”. MSN産経ニュース. (2009年1月17日). オリジナルの2009年2月18日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20090218222020/http://sankei.jp.msn.com/world/america/090117/amr0901171025009-n1.htm 2022年9月3日閲覧。 
  9. ^ “NYハドソン川に旅客機墜落、乗客・乗員約150人以上 全員無事か”. MSN産経ニュース. (2009年1月16日). オリジナルの2009年1月21日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20090121182610/http://sankei.jp.msn.com/world/america/090116/amr0901160650004-n1.htm 2022年9月3日閲覧。 
  10. ^ “【NY旅客機事故】乗員・乗客全員救助、邦人2人も無事 テロと無関係と米政府”. MSN産経ニュース. (2009年1月16日). オリジナルの2009年2月17日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20090217030028/http://sankei.jp.msn.com/world/america/090116/amr0901160936009-n1.htm 2022年9月3日閲覧。 
  11. ^ “【NY旅客機事故】「テロとの関連性ない」米国土安全保障省”. MSN産経ニュース. (2009年1月16日). オリジナルの2009年3月1日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20090301094407/http://sankei.jp.msn.com/world/america/090116/amr0901160704005-n1.htm 2022年9月3日閲覧。 
  12. ^ Dodd, Johnny (September 19, 2016). “After the Miracle”. People: 87–88. 
  13. ^ “「ハドソン川の奇跡」の機長が引退”. MSN産経ニュース. (2010年3月4日). オリジナルの2010年3月7日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20100307224058/http://sankei.jp.msn.com/world/america/100304/amr1003040935004-n1.htm 2022年9月3日閲覧。 
  14. ^ 「ハドソン川の奇跡」の不時着機、博物館へ移送cnn.co.jp、2011年6月6日閲覧
  15. ^ Carolina Aviation Museum Holds Reception For Flight 1549 Arrival NY1 News 2011年6月12日
  16. ^ “羽田でバードストライク 鳥がエアバスに衝突”. MSN産経ニュース. (2009年1月18日). オリジナルの2009年1月21日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20090121235310/http://sankei.jp.msn.com/affairs/disaster/090118/dst0901180113002-n1.htm 2022年9月3日閲覧。 
  17. ^ US Airways Flight 1549's CVR”. 2018年8月30日閲覧。
  18. ^ “米ハドソン川不時着機と管制の主なやりとり”. MSN産経ニュース. (2009年2月6日). オリジナルの2009年2月11日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20090211113722/http://sankei.jp.msn.com/world/america/090206/amr0902061514021-n1.htm 2022年9月3日閲覧。 
  19. ^ “「ハドソン川に着水する」 ハドソンの奇跡交信記録公表”. MSN産経ニュース. (2009年2月6日). オリジナルの2009年2月9日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20090209084543/http://sankei.jp.msn.com/world/america/090206/amr0902061011012-n1.htm 2022年9月3日閲覧。 
  20. ^ “C・イーストウッド「ハドソン川の奇跡」9月公開、乗客を救った機長役はT・ハンクス”. 映画ナタリー. (2016年3月17日). https://natalie.mu/eiga/news/180121 2016年3月18日閲覧。 






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