IPアドレス枯渇問題 日本での対応

IPアドレス枯渇問題

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/21 04:34 UTC 版)

日本での対応

日本においては1990年代後半に起こった爆発的なインターネット接続の普及などもあり、プロバイダは接続者ごとに固定IPアドレスを振る本来的な方法ではなく、接続中だけいずれかのIPアドレスが振られる動的IPアドレス割当方式を採用した。そのため、一般ユーザーはサーバを公開することが難しくなり、固定IPアドレスサービスは多くのプロバイダで追加料金が課されるようになった。更にブロードバンドインターネット接続の先駆けとして登場したケーブルテレビインターネット接続では、ローカルIPアドレスしか割り当てない方式が一時主流となった。このような環境下ではウェブ閲覧、メール、FTPなどの特定の通信以外での使用は多くの場合厳しい。またJPNIC(日本ネットワークインフォメーションセンター)などが、アドレス空間の割り当てを審査するなど割り当て方法を厳格にし、無用な割り当てを行わないようにした。

2010年6月現在、国内のプロバイダはIPv4アドレス枯渇対応タスクフォースのアクションプランに添う形で、2011年4月にNTTが予定しているNGNのIPv6でのサービス開始をマイルストーンとして、IPv6によるインターネット接続サービスの提供を本格化しようとしている[8]。ただし、既存のIPv4によるインターネット接続サービスを今後どのようにするかについては、プロバイダ毎に対応が異なり、不明な点が多い。総務省は、2010年4月に『ISPのIPv4アドレス在庫枯渇対応に関する情報開示ガイドライン』を公開した。このガイドラインに従って、日本国内におけるプロバイダ各社の対応については、インターネットプロバイダー協会(JAIPA)「ISPのIPv6対応について」でまとめられている。

IPアドレスの枯渇期限の予測とこれまでの経緯

  • 黎明期
    • 1981年9月にRFC 791として、現在のIPv4のもととなる仕様が公開される。基本的に、アメリカ合衆国国内の政府機関、軍関連施設、研究機関を中心にネットワークでつなぐことを前提としていたことと、当時のコンピュータの処理能力から、32bitのIPアドレスが採用される。この頃、IPアドレスの割り振りは、各組織にClass A (/8)、Class B (/16)、Class C (/24) などの単位で行っていた。
    • 1991年7月に「IPアドレスが不足する」という研究を受けてIETFが調査を開始した[9]。一部には、1990年代前半でClass B (/16) のIPアドレスが枯渇するとの予測もあった。
    • 1992年11月にRFC 1380という形で調査結果をまとめ、次世代ネットワークの議論が始まる。この議論によるIPアドレスを拡張する長期的な対策がIPv6である。
    • 1993年5月に、RFC 1466として、最後の「/8ブロック」(全IPv4アドレスの1/256)の5ブロックについては、世界に5つある地域インターネットレジストリ (AfriNIC、APNIC、ARIN、LACNIC、RIPE NCC) に各1ブロックを割り振るよう予約した。
    • 1994年3月 RFC 1597 としてプライベートアドレスを導入した。 これによりIPアドレスの枯渇を気にせずにLANでTCP/IPが使えるようになり、LANにおけるIPv4の利用が加速することになる。これと前後して、プライベートアドレスを使用するLANとグローバルアドレスを使用するWANとを使い分けるとともに、両者を接続して運用するための技術開発が進む。その議論の過程で生まれてきたのが、CIDR (RFC 4632)、NAT (RFC 2663) 、Proxy(プロキシ)などである。
  • 揺籃期
    • 1990年代後半に入り、Windows 95の発売をきっかけとしたパソコンによるインターネットの利用や、携帯電話などの通信機器によるインターネット利用が増えるにしたがって、IPv4アドレス枯渇が単なる技術問題ではなく社会問題として認知されるようになった。
    • 2001年には、インターネットバブルといわれる急速なインターネット利用増加現象のため、2007年頃にIPアドレスが枯渇するとの予想が出された。しかし、2003年になると、インターネットバブルの崩壊とともにIPアドレスの需要が減少し、枯渇の見通しは2020年頃に修正された。この時期は経済状況によって、IPアドレスの枯渇時期予想が大きく変化していた。
    • エコノミストを中心に、一部でテスト運用が始まったIPv6の必要性や、IPアドレスの枯渇そのものを疑問視する声が盛んに出された時期でもある。
  • 対策期
    • 2000年代後半になると、IANAの在庫が減少してきたことと、東アジア地域を中心とした安定した大規模な需要があることから、IPアドレスの枯渇時期の予想が行いやすくなってきた。
    • JPNICは、2004年から2008年にかけて、歴史的PI (Provider Independent) アドレスの割り振り先組織の明確化と、CIDRによる適切な規模でのIPアドレスの割り振りを目的に、割り当て済みのIPアドレスの整理と未使用IPアドレスの回収を実施した[10]
    • 2006年4月に、JPNICはIPv4アドレス枯渇に向けた提言を公開した[11]。ここに取り上げられている4つのレポートによれば、2009年 - 2022年でIPv4アドレスが枯渇することになる。また、2006年12月に開催されたInternet Week 2006における第11回JPNICオープンポリシーミーティングプログラムのパネル討論会「IPv4アドレス枯渇への対応」では、近藤邦昭により「2006年12月時点で1670万個のIPアドレスを含むブロックが、残り52個」「2006年は9ブロックが消費された」「このペースなら2012〜2013年に枯渇する」との資料[12]が提示されている。
    • 2007年6月に、JPNICはIPv4アドレスの在庫枯渇状況とJPNICの取り組みについてを公開した。
    • この中で、地域インターネットレジストリの未分配IPv4アドレスの在庫が2010年には無くなると予測している。これを受けて、インターネットで利用するIPv4アドレスの枯渇期を乗り越えるために、対応策の検討を開始したと発表した。具体的には情報提供、利用ポリシーの見直しを行う。また、IPv6への移行を含む技術的方法論の検討、ビジネスへの影響を調査する検討会を開始する[13]
    • なお、日本国内では、IPアドレス枯渇対策のため、2008年9月5日にIPv4アドレス枯渇対応タスクフォースを設立している。
    • 2009年8月時点で、未使用のIPv4アドレスが約5億、年間約2億減っているので、2011年頃に枯渇すると報道された[14]。2010年1月時点IPv4アドレスIANA在庫が10%を切り[15]、同年11月末時点IANAの未割り振りの/8のIPv4アドレスは残り7ブロック、総アドレス数に占める割合は約2.7%となった[16][17][18]
  • 枯渇期
    • 2011年1月31日、APNICに「/8ブロック」が2つ割り当てられた[19][20][21]。2011年2月3日、未割り振りの「/8ブロック」である最後の5ブロックが、世界に5つある地域インターネットレジストリにそれぞれ割り振られ、IANAが持つ在庫が枯渇した[22][23][24]
    • 2011年3月1日、旧クラスB, RIR分配以前の旧クラスCアドレス領域で、RIR体制以降、分配を凍結していたVarious Registries領域といわれるIPアドレスの領域を各RIRに分配した。分配した量は、1つのRIRにつき、/8ブロック換算で約1.5ブロックである。
    • 地域インターネットレジストリが持つ在庫の枯渇については、地域ごとに需要が異なるため、それぞれ在庫の枯渇時期が異なる。最も早く地域インターネットレジストリが持つ在庫の枯渇するのは、IPアドレスの消費動向から、APNICと予測されていた。
    • 2011年4月15日、APNICのIPv4のIPアドレスの在庫は/8ブロック換算で、1.0ブロックになった[25]
    • RIRでは、在庫が1ブロック未満になると枯渇したとみなし、IPアドレスの割り振りを制限することになっている。APNICでは、他のRIRに先駆けて、この最後の1ブロックに達してしまった。今後、APNICにおいては、1会員あたり最大/22ブロック換算で1つのみ、IPv6への接続性の確保や既存のインターネット接続を維持する目的でIPv4のIPアドレスを割り振るのみになる。
    • 日本を担当するJPNICは、独自にIPアドレスの在庫を持たず、必要に応じてAPNICの在庫から割り当てを行っているため、APNICが持つIPアドレスの在庫が枯渇すれば、IPアドレスの割り振りができなくなる[26]
    • 地域インターネットレジストリが持つ在庫の枯渇と前後して発生するのが、ISPデータセンターにおけるIPアドレスの枯渇である。実際には、IPアドレスの取得申請時に18か月先までの需要予測を根拠に申請しているため、すぐに問題になることはない。これまでは、ユーザ数の増加やサーバの増加に伴って、ISPやデータセンターは計画的にIPアドレスを地域インターネットレジストリから取得してきた。これからは、IPv4アドレスの供給元の在庫が枯渇するため、新規にIPv4のIPアドレスをユーザに提供できなくなる。
    • 2012年4月、RFC 6598としてISP Shared AddressにARINから100.64.0.0/10が割り当てられる。今後、Carrier-Grade NAT (CGN) の導入が加速すると推測される。
    • 2012年7月末頃、RIPE-NCC(ヨーロッパ中東中央アジア地域)のIPv4アドレス在庫が枯渇すると予想されていた。他の地域については、ARIN(北米、及びカリブ海地域と北大西洋地域)が2013年前半、LACNIC(ラテンアメリカ及びカリブ海地域)が2014年前半、AfriNIC(アフリカ地域)が2014年後半に、それぞれ在庫が枯渇すると予想される。
    • 2012年9月14日、RIPE-NCCにおいて/8のIPアドレスが枯渇し[27]、以降は/22や返却された予備のIPv4アドレスを割り振り[5]
    • 2014年4月23日、ARINのIPv4アドレス在庫が/8ブロック換算で、1.0ブロックになった[28][29]
    • 2014年5月20日、LACNICのIPv4アドレス在庫が/9ブロック換算で、1.0ブロックになったことを受け、 IANAに既に返却済みのIPv4アドレスを各RIRに再度割り振る見通しになった[30]
    • 2017年2月15日 LACNICのIPv4アドレス在庫が/11ブロック以下となり、AFRINICを除く4つのRIRでIPv4アドレス在庫枯渇の最終段階になった[31]
    • 2019年11月25日、RIPE-NCCにおいて全てのIPアドレスが枯渇[5]

126.0.0.0/8分配事件

2005年2月、JANOGメーリングリストで126.0.0.0/8(126.0.0.0 - 126.255.255.255の範囲のIPアドレスのことで、理論値で最大16,581,375個割り当て可能)という大量のIPアドレスがソフトバンク傘下のBBテクノロジーに分配されたことについて疑問を呈するメールが投稿された[32]。そのときは「ソフトバンクは大量にIPアドレスを使っている、APNICは太っ腹だ」程度の認識であったが(このIPアドレスを割り当てたのはAPNIC)、翌3月にJPNICのIPアドレス担当理事である前村昌紀が日経BP上で 「IPアドレス枯渇問題は依然として存在するが以前の観測よりは増加ペースが落ちており、APNICが処理したことではあるが、126.0.0.0/8割り当ては妥当であった」[33]という旨の発言をしたため事態は一変、JANOG-ML上で今までIPアドレスを出し渋っていたJPNICに対して一斉に批判がなされた。これらの批判は、一方でIPアドレス枯渇問題によるIPアドレスの回収を行っていながら、もう一方で、JPNICが管理するIPアドレス(2005年2月段階で29,067,520個[34])の過半数のIPアドレスを割り振ったことに対する矛盾を問う批判である。それまで、比較的自由に取得できていたIPアドレスが、プロバイダ経由かつ限定的にしか取得できなくなったことに対する不満が、騒ぎをより大きくした。

当時JPNICは、組織改組に伴い管理を一元化するとともに、IPアドレス枯渇問題に対応するために、/24などの単位で必要以上に分配されていたIPアドレスを回収するとともに、新規割り当て条件の厳格化をしていた。このIPアドレスの回収に伴って、分配されるIPアドレスの数の減少と回収されるIPアドレスの数の増加による相乗効果で、全体としての分配済みのIPアドレスの増加ペースが落ちているように見えていた。


  1. ^ IANA IPv4 Address Space Registry
  2. ^ IPv4アドレスの中央在庫が完全に枯渇”. ITmedia (2011年2月4日). 2011年2月7日閲覧。
  3. ^ APNICにおけるIPv4アドレス在庫枯渇のお知らせ、および枯渇後のJPNICにおけるアドレス管理ポリシーのご案内
  4. ^ RIPE NCC Begins to Allocate IPv4 Address Space From the Last /8
  5. ^ a b c “欧州のIPv4アドレスがついに完全枯渇、6億個弱を使い切った”. 日経テクノロジーオンライン. (2019年11月25日). https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/news/18/06548/ 2019年11月25日閲覧。 
  6. ^ 北米地域レジストリにおけるIPv4アドレス在庫枯渇のお知らせ 日本ネットワークインフォメーションセンター、2015年9月25日(2015年9月29日閲覧)。
  7. ^ ARIN IPV4 FREE POOL REACHES ZERO ARIN、2015年9月24日(2015年9月29日閲覧)。
  8. ^ IPv4アドレス枯渇対応アクションプラン2010.06版 (PDF)
  9. ^ Chiappa, N., "The IP Addressing Issue",
  10. ^ a b 歴史的経緯を持つプロバイダ非依存アドレス(歴史的PIアドレス)について
  11. ^ 報告書「IPv4アドレス枯渇に向けた提言」公開のお知らせ - 社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター (JPNIC) 2006.4
  12. ^ IPv4割り振り状況と 予測との比較〜2006冬〜 (PDF) - JPNIC番号資源利用状況調査研究家チーム 近藤邦昭
  13. ^ JPNIC「IPv4アドレスの在庫枯渇状況とJPNICの取り組みについて」、2007年6月19日。
  14. ^ 広がらぬ次世代アドレス 現行v4、2年後にも在庫切れ”. 朝日新聞 (2009年8月28日). 2010年2月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年8月21日閲覧。
  15. ^ JPNIC「IPv4アドレスIANA在庫が10%を切るも、JPNICのIPv4分配に変化なし」、2010年1月20日
  16. ^ ARINとRIPE NCCへ、「/8ブロック」が割り振られました | IPv4アドレス枯渇対応タスクフォース 2010年12月1日
  17. ^ IPv4アドレスのIANA在庫、あと/8を2ブロック残すのみ | JPNIC 2010年12月1日
  18. ^ IPv4アドレスの枯渇がいよいよ目前、在庫が実質2ブロックに | ITPro 2010年12月1日
  19. ^ IANAからAPNICへ、二つの/8ブロックが割り振られました | JPNIC 2011年2月1日
  20. ^ IANAからAPNICに申請で分配可能な最後のアドレスが割り振られました | IPv4アドレス枯渇対応タスクフォース 2011年2月1日
  21. ^ Two /8s allocated to APNIC from IANA | APNIC 2011年2月1日
  22. ^ IANAにおけるIPv4アドレス在庫枯渇、およびJPNICの今後のアドレス分配について | JPNIC 2011年2月4日
  23. ^ IANAのIPv4アドレス在庫、ついに枯渇 | IPv4アドレス枯渇対応タスクフォース 2011年2月4日
  24. ^ Free Pool of IPv4 Address Space Depleted | NRO February 3, 2011
  25. ^ APNIC's IPv4 pool usage
  26. ^ APNIC地域におけるIPv4アドレスの通常割り振り終了(在庫枯渇)の時期について | JPNIC 2011年3月25日
  27. ^ 【速報】ヨーロッパ地域レジストリにおけるIPv4アドレス在庫枯渇のお知らせ”. JPNIC (2012年9月14日). 2013年1月4日閲覧。
  28. ^ ARIN Enters Phase Four of the IPv4 Countdown Plan”. ARIN (2014年4月23日). 2014年4月29日閲覧。
  29. ^ 北米地域レジストリにおけるIPv4アドレスの在庫状況について”. JPNIC (2014年4月24日). 2014年4月29日閲覧。
  30. ^ IANAに返却済みIPv4アドレスの再割り振りについて”. JPNIC (2014年5月21日). 2014年6月11日閲覧。
  31. ^ LACNIC Announces the Start of the Final Phase of IPv4 Exhaustion”. LACNIC (2017年2月15日). 2017年2月22日閲覧。
  32. ^ JANOGメーリングリストのログ。 (2005.2) ※閲覧にはパスワードが必要。詳細はJANOGメーリングリストのサイトを参照。
  33. ^ 山田剛良「ソフトバンクBBへの「/8」の割り振りは妥当:JPNIC前村昌紀IPアドレス担当理事に聞く」日経BP、2005年3月9日。
  34. ^ JPNICが管理するIPアドレスに関する統計(2005年1〜12月)
  35. ^ APNIC IPv4 Address Pool Reaches Final /8 APNIC
  36. ^ 日本におけるIPv4アドレス在庫、枯渇 2011年4月15日 IPアドレス枯渇対応タスクフォース
  37. ^ APNICにおけるIPv4アドレス在庫枯渇のお知らせおよび枯渇後のJPNICにおけるアドレス管理ポリシーのご案内 2011年4月15日 社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター (JPNIC)
  38. ^ JPNIC News & Views vol.869【臨時号、2010年8月1日。
  39. ^ IPv4アドレス移転履歴
  40. ^ 分配済みIPv4アドレスの再分配の可能性と、それらの使い回しが在庫枯渇時期に与える影響
  41. ^ 歴史的PIアドレス割り当て先組織明確化完了のお知らせ
  42. ^ ITPro、2010年1月12日。
  43. ^ JPNICにおけるIPv4アドレス移転の対象範囲拡張のお知らせ”. JPNIC (2013年4月1日). 2013年4月29日閲覧。
  44. ^ | JPNIC News & Views vol.986【臨時号】2012.7.12





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