FM音源 応用と発展

FM音源

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/09 08:56 UTC 版)

応用と発展

日本楽器製造(現・ヤマハ)は、FM方式の特許のライセンスを取得し研究開発を進め、1980年にGS1とGS2を発表する。1982年には廉価版のCE20及びCE25を発表する。GS, CEシリーズは音色作りがユーザーに開放されていないプリセットキーボードであった(GS1はヤマハ渋谷店に設置されていたプログラマーでユーザーが音色を作ることは一応可能であった)。またGSシリーズは100~260万円と高額であり、非常に大きく、かつ重かった。その後、1983年に発売されたシンセサイザーDX7が低価格かつ音色作成機能が開放されたことによって、一般に耳にする音楽で広く使われるようになり、FM音源のサウンドは広く知られるようになった。

アタリゲームズアーケードゲームマーブルマッドネス』(1984年)はコンピュータゲームにおける初期のFM音源の採用例であり[5]、この音色に感銘を受けたナムコの技術者たちが同作に採用されていた音源チップYM2151を採用する[6]など、他社にも影響を与えた。一方、ライターの篠崎薫がニュースサイト「ねとらぼ」に寄せた記事によると、NECパソコンPC-8801mkIISRがFM音源を採用したことが普及のきっかけになったと述べている[7]

やがて、1980年代のパソコンやアーケードゲーム機や、家庭用ゲーム機セガ・マークIIIのFMサウンドユニット[8]、日本国内版のセガマスターシステムメガドライブMSX2+MSXturboR等の内蔵音源として幅広く使われ、1980年代中期から1990年代初頭辺りまでこれらから発せられる音として定番となっていた。

また、ゲーム音楽家の田中"hally"治久がHALLY名義でニュースサイト「IGN JAPAN」に寄せた記事によると、FM音源の採用により6~8音まで最大同時発音数が増えたことにより、ゲーム音楽においては、複雑なコードを要するジャズが増えてきたという[9][注 1]

発声用の「キャリア」だけでなく、変調用の「モジュレータ」にもエンベロープの設定が可能であるため、倍音構成の時間変化を伴う音色を作成できる。FM変調による倍音変化は減算式フィルタによる倍音変化に比べて自由度が高いことから、極端な倍音変化を設定することで「にょわーーーーん」などという擬音語で表現されるような、金属的かつ非自然的な「FM音源らしい音」を生み出すことができる。レゾナンスワウペダルなどの項目も参考になると思われる。他の方式のシンセサイザーでもレゾナンスなどのパラメータをリアルタイムで変更することによって、ある程度の再現は可能。だが、生産性に問題があり、演奏データの肥大化にも繋がる。

逆に、自然な生楽器の再現などにこの自由度を生かすこともでき、減算方式のシンセサイザーに比べてよりリアルな表現が可能である。無論PCMなど録音済み波形を用いる音源に比べれば再現度は劣るが、必要な計算リソースも少ないため、現在でも低コストで多彩な音色が得られる音源装置として有用な選択肢となっている。

TX81Zなどの後期のFM音源の機種やSY99などAFM音源の機種では正弦波以外の波形でも変調可能になった。

1989年に発売されたヤマハのシンセサイザーSY77ではAFM音源へとアップグレードされ、PCM音源によりキャリアを変調させることも可能となる。その完成形が1991年に発売されたSY99と言える。

その後、1998年に登場したFS1Rではフォルマント・シェーピング音源と呼ばれる人のをもシミュレートできる音源とハイブリッドとなり、オペレータもDX7の6機から8機と増え、変調させられる幅が広がった。FS1Rが発売された頃にはFM音源の音色が飽きられており、簡単にリアルな生楽器音を実現できるPCM音源が主流になっていたため、FS1Rは商業的には成功しなかった。FS1Rを最後にヤマハのFM音源シンセサイザーは一旦市場から消えることになった。

かつては携帯電話着信メロディ再生用に使用されていたが[7]、PCM音源のものが主流になっていき、更にはスマートフォンの普及により2010年頃ではほとんど見かけなくなった。

一部のチップには「音声合成モード/複合正弦波合成モード」が用意されている。特定のチャンネルのオペレータに独立してF-Numberが設定可能になっており、内蔵タイマーのオーバーフロー毎に該当チャンネルのオペレータをキーオンにするというものであり、音源ソース、並びにそこからの変換については、あらかじめ別途行う必要がある。その仕様上、該当するチップにはタイマーが内蔵されており、割り込みの発生源などとしても利用されていた。チャンネルもしくはオペレータなどの設定により、正弦波を発声するように設定し制御を行えば、同様の効果を得ることが出来る。PCMなどと比較すれば、必要とするリソースや、チップの機能を使えることによる処理の軽さがメリットとはなるが、FM音源1チャンネルのオペレータの駆動のみという状況と、パラメータとして設定できる値の分解能などの要因で音質はさほど高くは無く、時期によってはその正弦波に波形を分解する処理そのものに労力がかかったこともあって、ゲームアーツのメーカーロゴやゲーム中の一部の音声などに用いられた以外での利用は少ない。MA-7ではHumanoid Voiceとして正弦波合成の出力を用いている。

また、日本で携帯電話が普及した2000年前後頃からは携帯機器用音源チップ[10](MAシリーズ)にも組み込まれ、主にKDDIauブランド)やソフトバンクSoftBankブランド)、イー・モバイル(現・ワイモバイルブランド)等の携帯電話に内蔵されていた。

なお、2010年代のパーソナルコンピュータには原則的に搭載されていないが、拡張ボードとして別途購入、搭載は可能。更に各種コンピュータのエミュレータソフトの流行と共に、PCM音源を使いソフトウェアで波形合成して再生するドライバが有志により開発されている。

2015年9月、ヤマハよりrefaceシリーズの一つとしてFM音源を17年ぶりに搭載したキーボードシンセサイザreface DXが発売された。さらに、MOTIFシリーズに代わるフラッグシップシンセとして、FM-XとAWM2のハイブリッドシンセであるMONTAGEが2016年に発売された。2018年にはMONTAGEの廉価版であるMODXが発売された。

FM音源はヤマハの特許だったため(アメリカ合衆国特許第 4018121A号)、他社から採用機種が発売されることはまれであった。1987年にはKORGからDS-8と707というFM音源デジタルシンセサイザーが発売された。これは当時経営が悪化していたKORGを救済するため、ヤマハからFM音源チップが供給されたものである。1994年に特許が切れており、各社からFM音源を搭載したハードウェアシンセサイザーやソフトウェアシンセサイザープラグインが発売されている。


注釈

  1. ^ ただし、HALLYによるとこの当時のゲーム音楽はあらゆるジャンルを吸収する傾向にあり、『メトロクロス』や『人間兵器デッドフォックス』のようにFM音源を採用していないハードの作品においてもジャズが取り入れられた例はあるという[9]
  2. ^ キャプテンシステムにおけるメロディ機能はオプション機能であり、ランク1から5に分類される端末種別の機能とは別に定められていた[11][12][13]
  3. ^ 使用例としてNTTのキャプテン端末(NEC製)「キャプメイトV15E」[20]松下電器の文字放送チューナー「TU-TX100」[21]

出典

  1. ^ a b "ヤマハシンセ 40th Anniversary / ヒストリー / 【第二章】 FM音源の登場と音楽制作時代の幕開け". ヤマハ. 2014年. 2019年11月8日閲覧
  2. ^ "ヤマハシンセ 40th Anniversary / ヒストリー / コラム / FM音源の原理". ヤマハ. 2014年. 2019年11月8日閲覧
  3. ^ 生方則孝. "ボードで復活!!生方則孝のFM音源講座" (PDF). ヤマハ. 2019年11月8日閲覧
  4. ^ Daniel J. Levitin, "This is your brain on music", Penguin Books, 2006
  5. ^ "第4回 ゲームを盛り上げるサウンド". gihyo.jp. 2017年3月1日. 2023年5月12日閲覧
  6. ^ "バンダイナムコ知新「第8回 第2章ナムコサウンドの発展の足跡を追う【前編】」小川徹氏、細江慎治氏、川田宏行氏、中西哲一氏、黒畑喜弘氏、大久保博氏インタビュー". ファンファーレ. バンダイナムコエンターテインメント. 2023年3月30日. 2023年5月12日閲覧
  7. ^ a b "いまの時代だからこそFM音源がイイ――そして超大型野外ゲームフェスを企む佐野電磁氏の野望". ねとらぼ. ITmedia. 2006年3月27日. 2023年5月14日閲覧
  8. ^ "マスターシステム | セガハード大百科". マスターシステム | セガハード大百科. 2023年5月12日閲覧
  9. ^ a b HALLY (2022年9月5日). "ゲーム音楽ディスクステーション#12:ゲームジャズ名作選(原曲編)ラグタイム、ビッグバンドからクラブジャズまで歴史的経緯を含めてご紹介!". IGN Japan. 2023年5月12日閲覧
  10. ^ "SMAF / SMAFとは? / SMAF対応音源・端末情報 / ヤマハLSI 『MA-7』". ヤマハ. 2005年11月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2005年11月10日閲覧
  11. ^ 石渡直樹、内海良成、田岸孝一、山本昌克「高密度キャプテン端末NTX-3000,NTX-5000」『NEC技報』第38巻第5号、NECマネジメントパートナー社、1985年4月、86-92頁、doi:10.11501/3259657ISSN 0285-4139J-GLOBAL ID:200902098344485552 
  12. ^ NTT画像・電信事業部 画像サービス部 キャプテン担当「キャプテンシステムの概要」『ビジネスコミュニケーション』第25巻第10号、ビジネスコミュニケーション社、1988年10月、28-45頁、doi:10.11501/3286870 
  13. ^ 岡兼太郎「ニューメディアと音楽」、音楽情報研究会編『コンピュータと音楽(コンピュータ・サイエンス誌 bit別冊)』(共立出版、1987年9月) pp. 75-83、doi:10.11501/3299536NCID BN03936860
  14. ^ 放送技術開発協議会 編『文字放送技術ハンドブック』兼六館出版、1986年8月。doi:10.11501/12601093ISBN 4874620108 
  15. ^ a b "標準テレビジョン文字多重放送に関する送信の標準方式第十一条第三号及び第十八条の規定に基づく標準テレビジョン文字多重放送の放送番組のデータの送出等". 総務省電波利用ホームページ. 2000年2月23日. 2023年10月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年10月17日閲覧
  16. ^ 「パソコンも楽器に」『日経産業新聞』、1984年10月31日、8面。
  17. ^ a b c YM3812 FM OPERATOR TYPE-L(OPLII) APPLICATON MANUAL. ヤマハ 
  18. ^ "整備する:シグマ SG97VM-1の修理 01". メダゲーを買う. 2012年12月19日. 2024年1月9日閲覧[信頼性要検証]
  19. ^ 「メロディ15音色,リズム5音色を内蔵したFM音源LSI」『月刊アスキー』1986年8月号、アスキー、105頁、doi:10.11501/3250703 
  20. ^ 石渡直樹「高密度キャプテン端末(ランク3)」『NEC技報』第42巻第5号、NECマネジメントパートナー、1989年4月、112-119頁、doi:10.11501/3259709ISSN 0285-4139J-GLOBAL ID:200902072495732927 
  21. ^ 逸見英身、山田直一、角田浩樹「文字放送チューナ」『National technical report』第41巻第4号、松下電器産業技術総務センター技術情報部、1995年8月、doi:10.11501/2358381 
  22. ^ 編集部「スペシャルレポート・MSX2+ プラスの中身」『月刊アスキー』1988年11月号、アスキー、301-304頁、doi:10.11501/3250730 
  23. ^ 「特集 MSX2+なんでも情報」『MSXマガジン』1988年12月号、アスキー、134-155頁。 
  24. ^ 「衝撃デビュー!マスターシステム」『Beep』1987年11月号、日本ソフトバンク、45-46頁。 
  25. ^ 「セガ3D復刻アーカイブス」インタビュー第3弾!”. Game Watch (2014年12月18日). 2021年3月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年10月18日閲覧。
  26. ^ "REMEMBER OF THE NEW PULSAR おもいでのニューパルサー". ヤマサ. 2013年7月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年10月17日閲覧
  27. ^ YM2608 OPNA Application Manual
  28. ^ 『頭脳圧搾工場 in 仙台』のページ TOWNS搭載のチップ
  29. ^ a b 『マイコンBASIC Magazine DELUXE ゲーム・ミュージック・プログラム大全集III』(電波新聞社、1989年) pp. 23, 28。
  30. ^ "YMF825Boardの紹介". ヤマハ. 2017年8月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年8月6日閲覧






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