鯨肉 鯨肉の流通

鯨肉

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/14 00:24 UTC 版)

鯨肉の流通

日本での流通

生産者から一般小売まで

築地市場で鯨肉を商う様子。(2008年)
石巻市木の屋石巻水産にあった、鯨大和煮の缶詰を模したタンク(2006年)このタンクは東日本大震災津波で流され失われた。

2020年時点の日本では、2000トンの鯨肉が生産された[12]密漁密輸された鯨肉の存在を主張する見解もあるが、1998年を最後に検挙事例はない[注釈 2]

調査捕鯨の副産物は、調査捕鯨の実施主体である財団法人日本鯨類研究所が卸元である。市販用と公益用の区分があり、一般流通に回る市販用が生産量の8割以上を占める。市販用については、従来は、調査捕鯨の実務を委託されている日本共同船舶株式会社を通じ、各都道府県の中央卸売市場での販売などが行われてきた。2006年からは、鯨肉市場開拓などを目的とした新設の合同会社「鯨食ラボ」も加わって、新たな販路が検討されている。もっとも市販用といっても完全に自由な流通に委ねられてはおらず、各卸売市場への配分は過去の消費実績などを基に水産庁や有識者による検討で決定され、その後も公的性格を有する産品として農林水産省総合食料局流通課による指導の下で取引されている。その際には「なるべく公平かつ廉価に配分されるよう努めるもの」とされている。後述するような部位ごとに価格決定されて、刺身用などの鮮肉のほか、ベーコンや大和煮缶詰カレーの具材などの加工原料として流通する。流通過程では遠洋漁業水産物一般と同様、ほとんどは冷凍状態で保存管理されるが、沿岸調査副産物の一部(100トン弱)は生鮮品としても流通している。

最終的にはスーパーマーケットなどの商店で販売されるほか、インターネットなどを通じた通信販売を行う小売業者も存在する。前出の鯨食ラボ社も、インターネット上で直営の通信販売事業を行っている。千葉県の房総半島の伝統食鯨のたれのように、地域の特産品となり、土産物として販売される例もある。

鯨肉の国内消費量は2010年代は毎年3000~5000トン前後である[13]。日本捕鯨協会が2018年1月にまとめた消費者1200人アンケート調査によると、鯨肉を食べた人のうち76%が「おいしかった」と回答。牛肉・豚肉・鶏肉以外で「食べてみたい肉」の1位(43.8%)を占めたものの、「売っているところを見かけない」という回答も64.7%と多かった[14]

小型捕鯨のうちツチクジラ以外の種類、及び岩手県静岡県和歌山県などで現在も行われているイルカ漁の産品は地元での消費が多い。生産量は両漁業をあわせてゴンドウクジラ類300トン強、イルカ類1000トン弱である。もっとも、時おり遠隔地まで流通する場合があり、伝統的に静岡からの流通がある山梨県のほか、東京都内のスーパーマーケットなどでも魚肉コーナーで販売されていることがある。イシイルカについては九州地方での利用が比較的多い。単に「鯨肉」と表示されてしまう場合もあるため、特にイルカ肉と認識されないで消費されることもあると思われる。ただし、これは現在ではJAS法上において不適切な表示にあたる。

鯨肉の小売価格は、かつてに比べると非常に高騰している。商業捕鯨再開後、肉質の向上と供給不足により当初期待されていた安価な食材としての鯨肉は実現しなかった[15]

なお、小型捕鯨業では、伝統的に捕鯨従事者への一種の現物支給として鯨肉分配がされる習慣があり、現在でも一部でそうした利用が継続している。周辺住民が解体場で骨に残った肉をはぎ取って安価で貰い受ける伝統的な消費形態も、少なくとも1990年代後半までは千葉県で続いていた。

外食産業等

各地の老舗をはじめ鯨料理の専門店が存在するほか、捕鯨文化がある漁師町では鯨料理が地域おこしとして提供されることもある(例:和歌山県の道の駅たいじ)。また居酒屋などがメニューの一つとして取り入れている例もある。ただ、不況や高価格化により客足が遠のき、閉店に追い込まれる専門店も出ている[16]。商業捕鯨の禁止によって鯨肉の入手困難が深刻化し、特に味の良いナガスクジラの肉は冷凍在庫のみとなり価格が高騰した。このため1992年には全国のクジラ専門料理店の数は10店舗にまで減少した[17]

鯨を水揚げされる地域では学校給食として出されることがある[18]

供給過多との指摘

2006年上半期には、国内における鯨肉の供給過多(だぶつき状態)が各紙で報道されている。

  • 1月30日 - 産経新聞 「『クジラ』在庫 10 年間で倍増 調査捕鯨拡大で供給過多」
  • 2月11日 - 朝日新聞 「鯨肉の在庫、調査捕鯨拡大で増加 水産庁が消費拡大に」
  • 9月5日 - 読売新聞 「意外にダブつく『忘れられた味』 クジラ どんどん売り込め!」

ただし、上記の記事で倍増とされているのは、物流在庫などをまとめた「流通在庫」である点に注意が必要である。流通総量が増加しているのに伴い物流在庫も増えるので、単純な比較はできない[19]。日本捕鯨協会は、「倍増した」とされるのはピーク時の在庫量であるが、これは調査捕鯨規模の拡大から当然のことと反論している。そして、翌年には在庫量が前年並みに減少していることからすると、むしろ消費量自体は増えていると指摘する。さらに、在庫の比率や推移も、主力の調査捕鯨副産物は年に2回しか入荷しないという特殊性を考えれば自然であり、報道は誤解を招く内容であると批判している[20]捕鯨継続の是非と関連して争点となることがある。

日本以外での流通

現在でも近代的な捕鯨を継続しているノルウェーやアイスランドのほか、先住民生存捕鯨枠などによって捕鯨を認められている先住民らは、それぞれ鯨肉を消費している。インドネシアのレンバタ島では、捕鯨民と農耕民の物々交換による伝統的な流通が行われている[21]

韓国では、積極的な捕鯨は禁止する一方で、定置網などで混獲されたクジラや座礁鯨の鯨肉は、流通が許可されている。蔚山釜山浦項ソウルなどに合わせて100件余りの鯨肉料理専門店がある。韓国の国内流通量は年間400頭と推定されるが、そのうち合法的な混獲・座礁鯨は200頭のみで、残りは密漁されたクジラ類であると見られている。2008年1月には、ミンククジラを中心に約60頭分の違法鯨肉が押収される事件があった[22]

法的規制

絶滅の恐れがあるとされる一部の種類については、ワシントン条約によって国際的な商業取引や海からの持ち込みが禁止されている。これに基づき加盟国の国内法による規制措置が取られており、日本でも「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」が該当する。ただし、日本は、ミンククジラなどについては条約に留保を行っていて禁止条項の適用を受けない。なお、調査捕鯨の副産物についても主として商業目的でないので違反しないとしている。(詳細は捕鯨問題#国際法上の捕鯨問題を参照)

また、独自の国内法によって鯨肉の取引や消費を禁止している国もある。例えば、米国では1972年制定の海洋哺乳類保護法英語版によって鯨肉の販売が禁止されており、2010年にはイワシクジラの鯨肉を提供したとして、カリフォルニア州寿司店が訴追された[23]


注釈

  1. ^ 神道による稲作の神聖視から仏教の戒律を利用したという説がある。
  2. ^ イギリスの環境保護団体が日本で2003年に密輸鯨肉を発見したとIWCで報告した。しかし、その後のDNA調査で国内の合法捕獲製品と判明している。[1]また、1999年に科学雑誌『ネイチャー』に大阪で販売された鯨肉からシロナガスクジラの遺伝子が検出された事で「日本でシロナガスクジラの肉が売られている」という論文が掲載された事がある、ナガスクジラ#交雑参照。
  3. ^ なお、捕鯨問題の一局面として考える際にも、資源管理に必要とされる系統群・地域系群などの違いによって議論の方向性が大きく異なるため、やはり「鯨肉」とまとめて扱うのは困難である。
  4. ^ 日本で捕獲されはじめたのは17世紀と見られるがナガスクジラなどと混同されていたようで、独立種として捕獲が記録されるのは1920年代であり、主にミンク船と通称される沿岸用の小型捕鯨船により捕獲されてきた。1950年代以降1987年までは、量に変動はあるものの年間200〜500頭が捕獲されている。ただ、同時期の日本の捕鯨全体では、より大型の鯨が主たる捕獲対象種であった。1970年代になり大型鯨類の捕鯨が制限されるようになってから改めて着目され、南極海でも捕獲されるようになっている。(水産総合研究センター ミンククジラ オホーツク海―西太平洋
  5. ^ ヒゲクジラ類は一年のうち採食海域での3〜5ヶ月に食事をして脂肪を溜め、他の期間は、ほぼ絶食状態になる為。
  6. ^ ハクジラ類は海洋の食物連鎖のほぼ末端に位置し、食物段階も高い為、高濃度の汚染物質が蓄積する。それに対しヒゲクジラ類はプランクトンや小魚を常食にする為に栄養段階が低く、汚染の影響を受けにくいため。

出典

  1. ^ [食べなはれ関西]鯨料理「徳家」女将、大西睦子さん 1997.01.01 毎日新聞 大阪朝刊 11頁 特集 写図有 (全742字)
  2. ^ マッコウクジラ#脳油(鯨蝋)の捕鯨も参照
  3. ^ 「クジラの世界」イヴ・コア著、宮崎信之監修 創元社 1991年 85頁
  4. ^ 捕鯨の歴史|日本捕鯨協会”. www.whaling.jp. 2021年11月13日閲覧。
  5. ^ 日本が商業捕鯨を再開 IWCから脱退、規制受けず”. BBC. 2020年12月26日閲覧。
  6. ^ 高橋覚「捕鯨業で民衆を支えた醍醐新兵衛」『千葉史学』20号、1992年。 
  7. ^ 「陽の目を見た鯨肉」『日本経済新聞』昭和25年8月3日3面
  8. ^ 『南氷洋産鯨肉に関する研究報告 1950-51年度』、1951年、水産庁、p.20。(国会図書館蔵)
  9. ^ a b 週刊女性2017年10月17日号
  10. ^ 鯨肉給食復活、5千校超で実施小中学校の18%[2]
  11. ^ 2019年7月1日付読売新聞
  12. ^ 鯨肉生産量等の推移”. 水産庁. 2022年9月1日閲覧。
  13. ^ 平成29年度食料需給表”. 2019年4月11日閲覧。
  14. ^ 「新クジラ もうすぐ出回り」『日経MJ』2018年4月30日(フード面)
  15. ^ 「値ごろな鯨肉」のアテ外れ…再開3年目の商業捕鯨、生産量は4割減”. ライブドア. 2021年9月6日閲覧。
  16. ^ 鯨料理、時代がのむ 仙台の専門店が4月末閉店河北新報2010年3月13日
  17. ^ a b c Mジャーナル クジラ追って高知・室戸岬へ、クジラ専門店では冷凍“貯金”で調達 1992年06月06日 毎日新聞 大阪夕刊 11頁 社会 写図有 (全1,597字)
  18. ^ https://mainichi.jp/articles/20201017/ddl/k12/100/086000c”. 毎日新聞. 2021年11月24日閲覧。
  19. ^ J-CASTニュース2006年9月14日「クジラ在庫 『ダブつき』の真相」
  20. ^ 日本捕鯨協会「メディア関係の皆様、どう思われますか?
  21. ^ 小島曠太郎 『クジラと生きる―海の狩猟、山の交換』 中央公論社〈中公新書〉、1999年。
  22. ^ 違法捕獲のクジラ肉、蔚山の冷凍倉庫から大量押収」聯合ニュース2008年1月11日
  23. ^ 鯨肉提供の高級すし店を訴追、米カリフォルニア州AFPBB-NEWS、2010年3月11日。ちなみに海洋哺乳類全体に適用される法であり、鯨以外の海獣でも同様の罪に問われる。
  24. ^ Basic Report: 35011, Whale, beluga, meat, raw (Alaska Native) Agricultural Research Service , United States Department of Agriculture , National Nutrient Database for Standard Reference , Release 26
  25. ^ 鯨肉食べて筋肉持久力を強化 クジラに大量のバレニン 日本捕鯨協会 - 勇魚・勇魚通信 - 勇魚通信 vol.25
  26. ^ マル秘サプリメントの原料はクジラ更新 2011/2/23 〈週刊朝日〉-朝日新聞出版 dot.(ドット)
  27. ^ クジラ肉に疲労軽減効果 鯨類研究所+(1/2ページ)2013.9.20 - MSN産経ニュース
  28. ^ 厚生労働省「妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項の見直しについて」






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