雪 性質

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/09 04:02 UTC 版)

性質

降り積もった雪

降水現象

雪そのものや積雪と区別するために、雪が降る現象のみを指して降雪(こうせつ)と呼ぶ場合もある。雪は降水現象のひとつで、固体)の降水のひとつ。雪は比較的柔らかい氷の結晶の集合であり、比較的硬く地面で弾む氷霰(氷あられ)やその大きくなった(ひょう)、凍雨と異なる。雪霰(雪あられ)は比較的高い気温で雪片が大きく成長融合したもので、雪と同じように白色不透明だが、雪とは異なって球状や円錐状の塊で、降るのは対流性の積乱雲などに限られる。細氷は、直径30 - 200 μm程度で雪に比べて非常に小さい。なお、(みぞれ)はと雪が混在して降る天気をいう[2]

性状による分類

雪の状態を細かに表した、淡雪、薄雪、粉雪、細雪、どか雪、べた雪、ぼたん雪、綿雪(わたゆき)などの表現がある。降雪に関しては、慣習的に以下の7つの分類が存在する。

こな雪(粉雪) さらさらとした粉末状で、乾燥した雪。寒冷な地域に多い。パウダースノー。アスピリンスノー(北海道方言)[3]
たま雪(玉雪) 球形をした雪。雪のシーズンの初めや終わりの時期、また雪雲のでき始めている先端部分などで見られる。
はい雪(灰雪) 空中をすらっと降りてくるのではなく、灰のようにひらひらと舞いながら降りてくる雪。やや厚みがあり、日光に当たると陰影ができて灰色の影ができる。
一般的な降雪としてはこれが最も多い。
わた雪(綿雪) 手でちぎった綿の様に大きな雪片からなる雪。水分を含み、重みのある雪。降雪地帯の中でも温暖・多湿な地域に多い。
もち雪(餅雪) 融解が始まっており、水分を多く含む雪。雪の塊は餅のように柔らかく自由に形状を変えられる。
べた雪 もち雪よりも水分が多く、べちゃっとした雪。団子状に固まっていることもある。ぼた雪、ぼたん雪。
みず雪(水雪) べた雪よりもさらに融解が進み、水気の多い雪。みぞれと同じ。

また、日本雪氷学会では、雪質によって積雪を9つに分類している(→詳細は積雪を参照)。

農林省の積雪地方農村経済調査所(通称、雪害調査所)では以下のように分類していた[4]

乾雪(かわきゆき) 灰雪 最も細かく風にとぶもの
粉雪 灰雪よりもやや大きいもの
玉雪 最も大きく円い塊となり飛ぶもの
綿雪 綿のようにふかふかしたもの
潤雪(ぬれゆき) 餅雪 つかむと軽い手触りのもの
濡雪 ややべたつくもの
水雪 もっと水分が多いもの
締雪(しまりゆき) 小締雪(こじまりゆき) しまり加減による
硬締雪(かたしまりゆき) 同上
潤締雪(ぬれしまりゆき) 潤締雪 (べたしまりゆき)
水締雪 (みずしまりゆき)
粒雪(ざらめゆき) 小粒雪(こざらめゆき)
大粒雪(おおざらめゆき)
凍雪(こおりゆき) 小凍雪(こごおりゆき)
硬凍雪(かたごおりゆき)
氷板(ひょうばん) 全く氷化したもの

こういった分類や名称は、地域によっても独特なものがある。また太宰治の小説「津軽」の冒頭では、津軽の雪として7種類の雪の名称が紹介されている。ただしこれらは、明確な定義がないため天気予報などの正確性が要求される場面では用いないこととされている[5]

ここまでは日本語での雪の分類について述べたが、日本語以外の言語、特に北米や北欧などの雪の多い地域では、雪に関してさらに多様な表現をするところがあるほか、雪を表す言葉の体系が根本的に異なる言語もある。例えば、エスキモーの中のある言語では雪の形態ごとに呼称が存在し、「雪」を表す総称が存在しないという[* 1]言語的相対論サピア=ウォーフの仮説なども参照)。

雪の結晶の形状

雪の結晶は、成長過程の大気中の環境条件によりその形を大きく変える。そのパターン(晶癖)は研究によりいくつかの類型が知られている。小分類では121種類ある[6][7]

基本的な形状として、平らな六角形の「角板」、柱状の六角形の「角柱」、細長い「針」がある。Kobayashi (1961)によれば気温と、湿度(過冷却水の飽和水蒸気圧に対する氷の飽和水蒸気圧の差)に相関性がある。0から-4 ℃付近では「角板」、-4 から-10 ℃付近では湿度が低いと「角柱」、中程度では角柱が中空になった「骸晶角柱」、高いと「針」や針が中空になった「鞘」、-10 から-22 ℃付近では湿度が低い方から順に「厚角板」「骸晶厚角板」「角板」「扇形」、-22 ℃以下では湿度が低い方から順に「角柱」「骸晶角柱」「鞘」になる。また、-12 から-15 ℃付近の高湿度では「樹枝状」が発達する[8]

雪は、入ってきた太陽光)をほとんど吸収することなく散乱光として送り出す。太陽光には幅広い波長の光が含まれるが、波長が違っても散乱強度に大きな差がなくまんべんなく散乱するという性質のために、真っ白い色に見える。大量の積雪は日光の下でみを呈することがある。晴れた空の下で雪洞などの雪を下から見ると青く見えやすい。これはのもつ光の吸収特性によるもので、青色にあたる波長0.45 μm付近の光が最も吸収が少なく透過しやすいためである。ただし氷に気泡や土砂などが混じると青みは失せて見える[9]

雪が大気中の浮遊物を取り込み、変色した例も数多く報告されている。例えば、朝鮮半島では古くから、黄砂が混じった黄色あるいはみがかかった雪が降ることがあった。これは日本でも報告されており、江戸時代の書物に「紅雪」「黄雪」などなどの記述が残っている[10]。また、2007年2月にロシアのオムスク州で、2018年には東ヨーロッパ諸国でオレンジ色の雪が降ったが、カザフスタン北アフリカの嵐で発生した風成塵が運ばれたものと考えられている[11][12][* 2]


注釈

  1. ^ 例えば、イヌクティトゥット語版ウィキペディアでは「雪」の項目は「ᐊᐳᑦ/aput」=「雪(一般的用法)」というタイトルが付けられている。
  2. ^ en:2007 Siberian orange snow
  3. ^ 大気中における雪片の融解現象に関する研究 気象研究所技術報告第8号、1984年3月。2章p.19-p.20に輪島、松本、日光各地のデータに基づく相対湿度と地上気温を軸にとった雨雪判別図が、同章p.15に回帰分析によって得られた近似式が掲載されている。上に挙げた二式はともに松本のもの。
  4. ^ 日本の気象庁の場合、観測時に1.0mm/h未満・視程約1km以上で強度0、同1.0mm/h以上3.0mm/h未満・0.2km以上1km未満で強度1、同3.0mm/h以上・0.2km未満で強度2[26]
  5. ^ SYNOPSHIPなどに用いる96種天気。地上天気図#天気参照。
  6. ^ METARTAF
  7. ^ サスツルギ(ロシア語: Заструга)、シュカブラ(ノルウェー語: skovla)、snow ripplesとも。
  8. ^ 山岳用語としての雪田は、高山の稜線付近に夏まで融けずに残る雪を意味し、稜線上の山小屋には貴重な水源となっている。
  9. ^ 雪祭りは、現代では北海道の札幌市および旭川市長野県飯山市新潟県十日町市などで開催される。日本以外の地域の場合、「冬祭り」「氷祭り」「雪祭り」はあまり区別されていない。
  10. ^ 経済産業省北海道経済産業局『平成26年度北海道電力需給実績(確報)』「【表-1】総需要電力量(用途別・月別) (PDF) 」「【表-3】総発電電力量(事業用+自家用)実績 (PDF) 」(2016年6月14日)によれば、北海道の総需要電力量は、2014年(平成26年)8月は2,906,419千 kWhであるのに対して、2015年(平成27年)1月は3,776,733千 kWhであり、夏より冬のほうが電力需要が多いことが分かる。また、2014年8月の北海道の水力発電電力量は641,890千 kWhであるのに対し、2015年1月は319,457千 kWhであり、夏より冬のほうが水力発電電力量が少ないことが分かる。
  11. ^ ある主要な季語について別表現と位置付けされる季語を、親子の関係になぞらえて、親季語に対する「子季語」という。「傍題」ともいうが、傍題は本来「季題」の対義語である。なお、子季語の季節と分類は親季語に準ずる。

出典

  1. ^ 雪の研究室 - 北海道雪たんけん館”. 北海道雪たんけん館. 2014年2月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年2月6日閲覧。
  2. ^ a b c 気象観測の手引き』、2007年改訂、pp.58-65「第12章 天気」
  3. ^ アスピリンスノーとは”. 北海道方言辞書. Weblio 辞書. 2017年7月11日閲覧。
  4. ^ 王子製紙 (1938年). “紙業提要”. Google Books. 2013年9月23日閲覧。 [要ページ番号]
  5. ^ a b c d e f g h 「予報用語 降水」、気象庁、2023年1月24日閲覧
  6. ^ アメリカ・ニューヨーク州で観測された雪結晶” (PDF). 菊地 勝弘. 2019年2月9日閲覧。
  7. ^ 菊地 勝弘, 亀田 貴雄, 樋口 敬二, 山下 晃「中緯度と極域での観測に基づいた新しい雪結晶の分類 -グローバル分類-」『雪氷』第74巻第3号、2012年5月、223-241頁。 
  8. ^ 小倉 2016, pp. 96–97.
  9. ^ 藤原滋水、青木輝夫「氷の色・雪の色」(PDF)『天気』第40巻第3号、日本気象学会、1993年3月、1-2頁、2012年12月3日閲覧 
  10. ^ 黄砂問題検討会中間報告書”. 大気環境・自動車対策 黄砂問題検討会報告書集. 環境省 (2004年9月). 2012年12月3日閲覧。 [要文献特定詳細情報]
  11. ^ Russia probes smelly orange snow”. BBC News (2007年2月2日). 2023年1月24日閲覧。
  12. ^ Lydia Smith (2018年3月25日). “Strange 'orange snow’ phenomenon reported across eastern Europe”. The Independent. 2023年1月24日閲覧。
  13. ^ a b 雨や雪について”. よくある質問集. 気象庁. 2016年2月23日閲覧。
  14. ^ 雪と氷の辞典、pp.68-69
  15. ^ a b Buffalo Lake Effect Page”. National Weather Service(アメリカ国立気象局 (2012年3月2日). 2012年12月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年12月3日閲覧。
  16. ^ 播磨屋敏生、松尾敬世、永田雅、藤吉康志「1992年度日本気象学会秋季大会スペシャル・セッション「雪」の報告」(PDF)『天気』第40巻第6号、日本気象学会、1993年6月、pp.417-420、2012年12月3日閲覧 
  17. ^ a b c 雪と氷の辞典、pp.65-68
  18. ^ a b c d e 雪と氷の辞典、pp.69-77
  19. ^ Jeff Haby. “Lake effect forecasting”. theweatherprediction.com. 2012年12月3日閲覧。
  20. ^ 第二部大気と海の科学 3-6 空気中の水蒸気 山賀進
  21. ^ 〜こんにちは!気象庁です!平成21年1月号〜[リンク切れ] 気象庁
  22. ^ 最新気象学のキホンがよ〜くわかる本[要ページ番号]
  23. ^ 『気象観測の手引き』、2007年改訂、pp.4-8「第2章 降水」
  24. ^ 気象観測ガイドブック』、気象庁、2002年12月、p.47
  25. ^ 国際式の天気記号と記入方式」、気象庁、2023年1月21日閲覧。
  26. ^ a b c 天気記号表”. 過去の気象データ検索 利用される方へ. 気象庁. 2023年1月24日閲覧。
  27. ^ 理科年表FAQ > 山内豊太郎「天気の種類はいくつあるのですか。その記号も教えてください。」、理科年表オフィシャルサイト(国立天文台、丸善出版)、2008年3月、2022年1月21日閲覧。
  28. ^ METAR報とTAF報の解説」、那覇航空測候所、2023年1月21日閲覧。
  29. ^ 「報道発表 地方気象台における目視観測通報を自動化します」、大阪管区気象台、2019年11月16日、2023年1月24日閲覧
  30. ^ a b 雪(初雪)の観測は誰がどのように行っているのですか?」、福岡管区気象台『はれるんマガジン』36号、2022年12月27日、2023年1月24日閲覧
  31. ^ 雪に関する予報と気象情報について」気象庁、気象等の情報に関する講習会、2012年12月7日、2023年1月24日閲覧
  32. ^ "雪食作用". 『日本大百科全書』、小学館. コトバンクより2023年1月24日閲覧
  33. ^ “(風のまにまに 南会津雑記:4)只見のブナ原生林 自然首都の誇り 岡村健/福島県”. 朝日新聞デジタル(asahi.com) (朝日新聞社). (2008年5月23日). http://www.asahi.com/shimbun/nie/tenkai/kankyo4d.html 2012年5月26日閲覧。 
  34. ^ "雪田植物群落". 『世界大百科事典』第2版、平凡社. コトバンクより2023年1月24日閲覧
  35. ^ 小野寺弘道、「樹木と環境 第1回 雪と樹木」、『樹木医学研究』15巻、2号、2011年 doi:10.18938/treeforesthealth.15.2_57
  36. ^ “(4)地域の暮らしと環境を活かした事例 新潟県安塚町 ~雪の活用と田舎体験~”. 平成15年度国土交通白書 (国土交通省総合政策局). (2004年7月). https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h15/hakusho/h16/html/F1012140.html 2019年2月6日閲覧。 
  37. ^ 『近畿農政局』の『農村振興』の『農業・農村の整備』の『管内国営事業(務)所のご案内』の『国営新湖北農業水利事業』の『湖北平野の自然』”. 2010年12月7日閲覧。
  38. ^ a b 越後上布 雪国で育まれた伝統の布”. 国際交流サービス協会. 2020年12月13日閲覧。
  39. ^ a b c 東北地方多雪・寒冷地設備設計要領”. 国土交通省東北地方整備局. 2017年9月9日閲覧。
  40. ^ "雪目". 『デジタル大辞泉』、小学館、『世界大百科事典』 第2版、平凡社. コトバンクより2023年1月24日閲覧
  41. ^ a b 「雪」(ゆき)晩冬”. 季語と歳時記-きごさい歳時記. 季語と歳時記の会 (2011年3月14日). 2018年2月22日閲覧。
  42. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x 日外アソシエーツ『季語・季題辞典』
  43. ^ 大澤水牛 (2012年). “雪(ゆき)”. 水牛歳時記. NPO法人双牛舎. 2018年2月22日閲覧。
  44. ^ a b c 日本大百科全書:ニッポニカ』「季語」
  45. ^ a b c d e f g 大辞林
  46. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 大辞泉
  47. ^ 大辞林 第三版 2481頁。
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  49. ^ 鈴木牧之 編『北越雪譜』〈岩波文庫〉1996年。  [要文献特定詳細情報]
  50. ^ 火星では夜に激しい雪が降る、研究成果”. ナショナル ジオグラフィック 日本語版. 2020年12月13日閲覧。






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