雪 雪の降り方

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/09 04:02 UTC 版)

雪の降り方

積雪地域の季節変化(NASA Blue Marble
冬の日本海の筋状雲、収束雲と低気圧による渦状の雲 2018年2月(NASA Aqua/MODIS

世界の気候と雪

現在の平均的気候では雪は一般的に、北極および南極の両極を中心とした高緯度の地域、また中低緯度の高地で見られる。赤道をはさんだ低緯度地域を中心として、雪が降らない地域も存在する。例えば日本では、沖縄県で気象庁の公式観測により雪を記録したのは3例のみであり、1977年2月17日と2016年1月24日の久米島、および2016年1月24日の名護市で、いずれもであった[13]

降雪や積雪の様子を暖かいところから寒いところへ順に見ていくと、降雪がない地域、降雪のみがあり積雪がない地域、積雪がある地域へと遷移するのがふつうである。積雪のある地域はさらに暖かいところから順に、根雪の無い地域、根雪のある地域、雪線万年雪のある地域、氷河のある地域へと遷移する。山岳や高緯度地域では、こうした遷移の分布が雪線や森林限界に関係している。雪線と森林限界の間には、積雪期以外でも凍上などが生じて周氷河地形がみられることが知られている。

ケッペンの気候区分における氷雪気候は最暖月平均気温が0 ℃未満の地域だが、このような地域では概ね年間を通して地表は積雪、氷河、氷床に覆われ、ほぼ年間を通して雪が降る。氷河や万年雪はふつう、冬季の積雪が新雪として堆積する一方、夏季に降った雪や氷河本体が部分的に融解して流出し、その収支がバランスしている。これが崩れ、積雪が上回ると氷河が前進し、融解が上回ると氷河が後退する。

世界の主な多雪地帯は成因から2種類に分けることができる。1つは冬に温帯低気圧が発達して多くの降雪がある大陸西岸の寒帯前線帯。カナダコースト山脈英語版西側、アメリカワシントン州カスケード山脈西側、スカンディナビア半島アンデス山脈南部西側などがある。もう1つは、温帯低気圧の影響もあるが、主に大陸性極気団から吹き出す季節風に運ばれる寒気が暖かい水面を通過する際に加温加湿され不安定となる(気団変質)ことで雪雲が発達する地域。日本列島の日本海側や北アメリカ五大湖の東側スノーベルト (snowbelt) に顕著で、ヨーロッパの沿岸部でも見られる。日本では脊梁山脈、五大湖ではアパラチア山脈の地形による強制上昇の効果で山脈の風上側斜面に大量の降雪がある[14][15]

日本では、本州日本海側の各地では夏季よりも冬季の方が降水量が多く、気候区分の種類によって区域に差はあるが日本海側気候とする。北海道は雪の期間が長く根雪が広く分布する。これらの地域で、積雪による生活や産業への支障が大きな地方自治体に対して、除雪支援や財政措置などを行う豪雪地帯が指定されている。北海道・北東北の全域、南東北から中国地方の日本海側および中央高地の一部が指定地域となっている。一方、本州・四国九州の太平洋側は日本海側に比べると雪が少ない。

降雪のパターン

雪をもたらす気象現象を規模別に見ていく。総観スケールでは温帯低気圧やそれに付随する温暖前線寒冷前線寒冷低気圧(寒冷渦)、北極前線・南極前線寒帯前線に伴う擾乱などが雪を伴った天気をもたらすことがある。メソスケールのうちメソαスケールでは、極低気圧のほか、北陸地方などに局地的大雪をもたらす日本海寒帯気団収束帯(JPCZ、線状降雪帯)などが知られている[16][17]

冬の嵐(winter storm)は発達した低気圧による荒天で、暴風を伴った雪が降り、著しい吹雪低温が冬特有の災害をもたらす。

温帯低気圧に伴う前線面の傾きが小さい温暖前線では層状雲の中で雪の結晶がゆっくりと成長し、温度範囲も広いため、雪結晶の形状が多様になる傾向がある。一方、寒気の水上での変質で対流雲の中で成長するものは、強い上昇流や豊富な過冷却雲粒のもとで、霰のように併合した形状の雪片が発達し、雲の最盛期を過ぎる頃にわか雪(降り出し・降り止みが急)のような降り方をする[17]

気団変質による雪

冬の日本海のような寒気の気団変質の場合、大陸から吹き出した寒気が暖かい水上を通過(吹送)し、熱と水蒸気を受けて下層に対流混合層が形成される。日本海では潜熱顕熱合わせ平均400W/m2が海から大気に供給されているという報告がある。混合層では温かく湿った大気が対流することで不安定を解消しようと対流が発達し、水上吹送が続くことで混合層の上端が上昇してくる。混合層の上部に積雲層積雲を主とする雪雲の層ができ次第に発達する。一部は雄大積雲積乱雲へと成長する。雪雲は陸に上がるといったん衰えるが、山脈にぶつかると強制上昇を受けて再び発達する[17][18]

日本海側のほか、五大湖東側の湖水効果の雪 (lake-effect snow) もこの構造[15][19]

日本海側の雪はその多くが季節風(寒気の気団変質)によるもので、温帯低気圧による降雪は相対的に少ない。新潟県では11月から3月の降水量の8割が季節風型のものという報告がある。季節風型の降雪は、寒気の強さ、風(気圧傾度)の強さや向き、寒冷渦の有無などで様相を変える。よく知られている降雪の指標として対流圏中層700 - 500hPaの気温の低下が挙げられ、北陸地方では5500mで-35℃以下が大雪の目安とされている[18]

山雪と里雪のパターンも知られている。山雪の典型は、寒気の中心が北日本にあって日本海は気圧の谷の後面にあるとき、西高東低(冬型の気圧配置)が強まり寒気の南下が促される状況。地上では等圧線と等温線が直交し、風向に平行な筋状雲が広がることが多い。800-700hPaに逆転層があるため海上の対流雲は高さ2 - 3kmに抑えられ、山脈の風上斜面で降雪が目立つ。里雪の典型は、日本海の西部に気圧の谷があって冬型は緩み、季節風は弱く陸地で一部南風も吹く中、上層で寒冷渦が南下した状況。中層が不安定になって雲が高く発達し、5 - 6kmに達することもある。風が弱く山脈の強制上昇による降雪が起こりにくい[18]

季節風による日本海側の雪は、風向きや擾乱などの天候により特定の地域に短時間に降雪量が増えることがあり、また地形の影響で降雪が集中しやすい地域もある。関ヶ原のように、山脈の中で低くなっている部分は雲が通り抜け、収束で雲が発達し降雪が集中する。独立した山では、気流が回り込んだ側面や後面で降雪が強まる例がある。北陸地方では、北陸不連続線と呼ばれることがある降雪域がみられることがある。海岸に高い山脈が迫ることで海岸付近に収束線ができ、ここで発達した雪雲が東に流されて一部に降雪が集中する。日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)は気流が朝鮮半島の白頭山付近を迂回し合流して形成され日本海を横断する長い収束帯で、その中にメソスケール低気圧が発生して移動し降雪が強まる場合がある。北海道の西海上にも似たような収束帯と低気圧が形成されることが知られている[18]

南岸低気圧による雪

関東から九州にかけての太平洋側では、温帯低気圧(南岸低気圧)の通過に伴って雪が降ることが多い。東に進む低気圧の北側、温暖前線に伴う雪雲が降雪の主なエリア[18]。これに類似するものとして、アメリカ合衆国北東部カナダ大西洋岸のノーイースターがある。


注釈

  1. ^ 例えば、イヌクティトゥット語版ウィキペディアでは「雪」の項目は「ᐊᐳᑦ/aput」=「雪(一般的用法)」というタイトルが付けられている。
  2. ^ en:2007 Siberian orange snow
  3. ^ 大気中における雪片の融解現象に関する研究 気象研究所技術報告第8号、1984年3月。2章p.19-p.20に輪島、松本、日光各地のデータに基づく相対湿度と地上気温を軸にとった雨雪判別図が、同章p.15に回帰分析によって得られた近似式が掲載されている。上に挙げた二式はともに松本のもの。
  4. ^ 日本の気象庁の場合、観測時に1.0mm/h未満・視程約1km以上で強度0、同1.0mm/h以上3.0mm/h未満・0.2km以上1km未満で強度1、同3.0mm/h以上・0.2km未満で強度2[26]
  5. ^ SYNOPSHIPなどに用いる96種天気。地上天気図#天気参照。
  6. ^ METARTAF
  7. ^ サスツルギ(ロシア語: Заструга)、シュカブラ(ノルウェー語: skovla)、snow ripplesとも。
  8. ^ 山岳用語としての雪田は、高山の稜線付近に夏まで融けずに残る雪を意味し、稜線上の山小屋には貴重な水源となっている。
  9. ^ 雪祭りは、現代では北海道の札幌市および旭川市長野県飯山市新潟県十日町市などで開催される。日本以外の地域の場合、「冬祭り」「氷祭り」「雪祭り」はあまり区別されていない。
  10. ^ 経済産業省北海道経済産業局『平成26年度北海道電力需給実績(確報)』「【表-1】総需要電力量(用途別・月別) (PDF) 」「【表-3】総発電電力量(事業用+自家用)実績 (PDF) 」(2016年6月14日)によれば、北海道の総需要電力量は、2014年(平成26年)8月は2,906,419千 kWhであるのに対して、2015年(平成27年)1月は3,776,733千 kWhであり、夏より冬のほうが電力需要が多いことが分かる。また、2014年8月の北海道の水力発電電力量は641,890千 kWhであるのに対し、2015年1月は319,457千 kWhであり、夏より冬のほうが水力発電電力量が少ないことが分かる。
  11. ^ ある主要な季語について別表現と位置付けされる季語を、親子の関係になぞらえて、親季語に対する「子季語」という。「傍題」ともいうが、傍題は本来「季題」の対義語である。なお、子季語の季節と分類は親季語に準ずる。

出典

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  3. ^ アスピリンスノーとは”. 北海道方言辞書. Weblio 辞書. 2017年7月11日閲覧。
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  8. ^ 小倉 2016, pp. 96–97.
  9. ^ 藤原滋水、青木輝夫「氷の色・雪の色」(PDF)『天気』第40巻第3号、日本気象学会、1993年3月、1-2頁、2012年12月3日閲覧 
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  17. ^ a b c 雪と氷の辞典、pp.65-68
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  22. ^ 最新気象学のキホンがよ〜くわかる本[要ページ番号]
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  30. ^ a b 雪(初雪)の観測は誰がどのように行っているのですか?」、福岡管区気象台『はれるんマガジン』36号、2022年12月27日、2023年1月24日閲覧
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