級数 一般化

級数

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/24 00:57 UTC 版)

一般化

漸近級数

ある種の関数の漸近級数あるいは漸近展開とは、定義域内の点における部分和がその関数のよい近似を与えるような無限級数をいう。漸近級数は、一般には必ずしも収束しないが、近似列として見れば有効であり、任意の有限項で打ち切った和の値があるべき「真の値」に近いものを与える。ただし、真の値がそのまま得られる収束級数とは異なり、漸近級数を利用するにはきちんと誤差を評価する必要がある。事実として典型的な漸近級数では、ある程度多くの項を加えて初めて「最適」な近似が得られるようになり、また一方で加える項の数が多くなりすぎると近似の精度が悪くなるという特徴が見られる。

発散級数

「通常の意味」での和が収束しないような級数に対して、何らかの意味で和と呼ぶにふさわしい極限値を割り当てることができるというような状況はたくさんある。総和法はそのような、古典的な意味での収束の概念を完全に拡張して、発散級数全体の成す集合の特定の部分集合に対して値を割り当てる方法である。総和法の代表的なものとしては、総和可能な発散級数が少ない(実は後へいくほど前者の一般化となる)順にチェザロ総和法、(C, k)-総和法(k-次のチェザロ総和法)、アーベル総和法ボレル総和en:Borel summation)などがある。

どのような総和法が可能かということに関して知られる一般的な結果の一種で、シルバーマン-テープリッツの定理は(係数全体の成すベクトルに無限次行列を作用させることによって発散級数を総和する)行列総和法 (: en) を特徴付けるものである。発散級数に対する最も一般の総和法は、バナッハ極限に関するもので、非構成的 (: non-constructive) なため計算などには向かない。

位相代数系における級数

級数の概念をバナッハ空間の元の列に対するものに拡張するのは容易である。(xn) をバナッハ空間 X 内の点列とするとき、級数 ∑ xnxX に収束するとは、その部分和の列が N → ∞ の極限で

となる意味で x に収束することを言う。

さらに一般に、任意の位相アーベル群分離位相群を成す可換群)における収束級数の概念を定義することができる。この場合も具体的には、級数 ∑ xnx に収束するということを、その部分和の列が x に収束することを以って定める。

任意添字集合上の和

任意の添字集合 I に対する和を定義することもできる。通常の級数の概念に対して、大きく二つの異なる一般化の方向性があり、ひとつは添字集合に特定の順序が定められていない場合であり、もうひとつは添字集合が非可算無限集合となる場合である。

任意濃度の添字集合の場合

必ずしも可算でない無限集合 I で添字付けられる非負実数の族 (ai)iI の総和は、発散する場合も含めて

によって定義することができる。和の値が有限となるならば、ai > 0 となるような iI は高々可算である。実際このとき、任意の n ≥ 1 に対して、集合 An = {iI | ai > 1/n} は

となるから、有限集合であることがわかる(ここに card(A) は集合 A濃度を表す)。I が可算無限集合で、I = {i0, i1, ..., ik, ...} と数え上げられるならば、先ほどの和の定義は

を満たす(級数の値として無限大 ∞ を許す)。

非負実数で添字付けられる族の和は、非負値関数の数え上げ測度に関する積分として理解することができる。この二つの構成の間には多くの共通性が認められる。

位相アーベル群における総和

任意の集合 I位相アーベル群 X に対して、I で添字付けられた X の元の族 a: IX を考える。FI の有限部分集合全体の成す部分集合族とすると、F は集合の包含関係に関する半順序集合として、交わり結びをもつ有向集合となることに注意する。このとき、族 a の和 S は極限

として定義される。このとき、和が有限確定ならば族 a無条件総和可能 (: unconditionally summable) であるという。「和 S が有限部分和の極限である」というのは、X における 0 の任意の近傍 V に対して I の有限部分集合 A0 をうまく選べば

となるようにできることをいう。F全順序集合ではないから、これは「部分和の数列の極限」というのとは異なり、有向点族(ネット)の極限と考えなければならない。

位相アーベル群 X における単位元 0 の任意の近傍 W に対し、VVW を満たすより小さな近傍 V が存在する。このことから、無条件総和可能族 (ai)iI の有限部分和の全体がコーシーネットを成すことが従う。すなわち、0 の任意の近傍 W に対し、I の有限部分集合 A0 が存在して、

を満たす。位相アーベル群 X完備である場合には、族 aX において無条件総和可能であることと、後述する「コーシーネット条件」を満たすことが同値になる。また、X が完備で (ai)iIX において無条件総和可能ならば、I の任意の部分集合 J に対して対応する部分族 (aj)jJ もまた無条件総和可能である。

非負実数の族の(先の定義の意味での、値として無限大を許す)和の場合、それが有限ならば、それは位相アーベル群 X として実数全体の成す加法群 R をとったときの、ここでいう意味での和と一致する。

X の元の族 a が無条件総和可能ならば、X の単位元 0 の任意の近傍 W に対して I の有限部分集合 A0 が存在して、aiWA0 に属さないすべての i について成り立つようにすることができる。ゆえに、X第一可算公理を満たすならば、ai ≠ 0 となるような添字 iI 全体の成す集合は可算であることが従う。これは一般の位相アーベル群においては必ずしも成り立たない(後述)。

無条件収束級数

添字集合を I = N とする。点列 (an)nN が位相アーベル群 X において無条件総和可能な族ならば、この点列は通常の意味でも収束し、同じ値の和

を持つ。定義の仕方から、無条件総和可能性は和を取る項の順番によって値が変化することは無い。すなわち、∑ an が無条件総和可能ならば、添字集合 N 上で任意の置換 σ を施したものも収束し、

が成り立つ。この逆もまた成立し、級数 ∑ an が任意の置換を施してもなお収束するならば、その級数は無条件収束する。X が完備ならば、無条件収束は任意の部分級数が収束することと同値であり、X がバナッハ空間ならば任意の符号付け εn (= ±1) から得られる級数

X において収束することとも同値である。X がバナッハ空間ならば絶対収束の概念を定義することができる。すなわち、X に属するベクトルの級数 ∑ an が絶対収束するとは

となることをいう。バナッハ空間におけるベクトルの級数が絶対収束するならばその収束は無条件収束であるが、この逆が成り立つのはバナッハ空間が有限次元である場合に限る(Dvoretzky-Rogersの定理)[14] [15]

整列和

添字集合 I が(たとえば最小の超限順序数 α0 のような)整列集合ならば、条件収束級数を考えることができる。超限帰納的

と定め、また極限順序数 α に対しては極限が存在する限り

と定義する。α0 の違いを除いて全ての極限が存在するならばこの級数は収束する。

  1. 写像 f: XYY が位相アーベル群のとき、X の各点 a に対し、
    で定義される写像の一元集合 {a} であり、このとき各点収束の位相に関して(すなわち、和が無限直積位相群 YX に値をとるものとして)
    が成立する。
  2. 任意添字集合 I 上の関数の和として1の分割
    を構成することもできる。作り方から、形の上では非可算添字を持つ級数の和の概念が必要であるように見えるが、x が与えられるごとに和における非零項は有限個しかないので、この和において非可算和が生じることは無い。実用上はさらに関数族が「局所有限」(各 x に対して関数の値が有限個の例外を除く全ての近傍で消えている)などの仮定を置くのが普通である。φi が連続であるとか可微分であるなどの(有限和をとる操作で保たれる)「素性の良い性質」(: regularity property) は関数族の任意の部分族の和に対して保たれる。
  3. 最小の非可算順序数 ω1 を順序位相に関する位相空間とみるとき、f(α) ≡ 1 で定義される定値関数 f: [0, ω1) → [0, ω1] は
    を満足する(言い換えれば、1 の ω1 個の複写を加えたものは ω1 に等しい)。極限は有限部分和ではなく全ての可算部分和に亘ってとるものに限る。この空間は可分 (: separable) ではない。

  1. ^ 数列の添字をしばしば 0 から始めるので、都合で第0項を含めてあるが、初項が第0項か第1項かというのは本質的な問題ではない。
  2. ^ a b 便宜上の理由で、しばしば同じ記号で「形式和」と「和の値」の両方を表すが、いずれの意味で用いているかは文脈から容易に区別できるはずである。
  1. ^ a b c 高木貞治. 定本解析概論. 岩波書店.
  2. ^ a b 大石進一(編著)『精度保証付き数値計算の基礎』コロナ社、2018年7月。ISBN 978-4-339-02887-4 
  3. ^ a b 杉浦光夫. 解析入門 I, 東京大学出版会.
  4. ^ 山本野人, & 松田望. (2005). 多倍長演算を利用した Bessel 関数の精度保証付き数値計算 (科学技術計算と数値解析 (多倍長科学技術計算の基礎と応用),< 特集> 平成 17 年研究部会連合発表会). 日本応用数理学会論文誌, 15(3), 347-359.
  5. ^ 山本哲朗『数値解析入門』(増訂版)サイエンス社〈サイエンスライブラリ 現代数学への入門 14〉、2003年6月。ISBN 4-7819-1038-6 
  6. ^ Higham, N. J. (2008). Functions of matrices: theory and computation. en:Society for Industrial and Applied Mathematics.
  7. ^ Higham, N. J. (2009). The scaling and squaring method for the matrix exponential revisited. SIAM review, 51(4), 747-764.
  8. ^ How and How Not to Compute the Exponential of a Matrix
  9. ^ Johansson, F. (2016). Computing hypergeometric functions rigorously. arXiv preprint arXiv:1606.06977.
  10. ^ a b Gasper, G., Rahman, M. (2004). Basic hypergeometric series. en:Cambridge university press.
  11. ^ ニコラ・ブルバキ 村田全、杉浦光夫 他訳. ブルバキ数学史 
  12. ^ a b ヴィクター・J・カッツ 著、上野健爾、中根美知代 訳『数学の歴史』共立出版、2005年。ISBN 978-4320017658 
  13. ^ Cajori, Florian. A history of mathematical notations. 2 
  14. ^ A. Dvoretzky, A. C. Rogers (1950). “Absolute and unconditional convergence in normed linear spaces”. Proc. National Academy of Science of U.S.A. 36: 192-97. doi:10.1073/pnas.36.3.192. 
  15. ^ Ivan Singer (1964). “A proof of the Dvoretzky-Rogers theorem”. Israel Journal of Mathematics 2 (4): 249-250. doi:10.1007/BF02759741. 






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