地下水 地下水の概要

地下水

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/08 08:49 UTC 版)

地下水のモニタリング

関連用語類

地盤は水分を吸収する能力(性質)を持っており、これを浸透能というが、この浸透能により地中に地下水が蓄えられることとなる。地下水は、地表に流出して河川などの地表水を形成する。また、生活用水・農業用水・工業用水などに使用されたり、水温の高いものは温泉として利用されたりするなど、人間の生活活動・経済活動を支える重要な資源とされている。人間は井戸によって地下水を得ることが多い。一方、地下水は斜面崩壊地すべり土石流など自然災害の原因ともなっている。

地下水を扱う研究分野には、水文学水理学などがある。

なお、廃棄物最終処分場において、その土壌に含まれる水については地下水とは呼ばず、保有水という。処分場は構造上、一般環境から隔離されており、その内部にのみ保有されているという意味である。

水の循環

地球に限定すれば、水は地上や地下、そして大気中を長い時間をかけて循環しており、地下深くに浸透した水が「涵養」「流動」「流出」という過程を経てふたたび地上に出現する大きな循環系を構成している。このような地球規模での大きなスケールの循環では、地表面や大気中の水の循環は「地表水循環系」と呼ばれ、地面より下の水の循環は「地下水循環系」と呼ばれる[3]

涵養

地下水の大部分は大気中の水分がなどのかたちで地表面に降水となって降ることで、地面の下に流入する。降水に限らずこのように何らかの水が地下への流入することが「涵養」である。天水とも呼ばれる降水は、地表の浸透能によって多くが地中に浸透する[3]

海水を由来とする地下水もある。太古にだった地域が、長い年月の間に陸となり、海水が地中に残存して地下水となったものである。こうした地下水を化石海水(かせきかいすい)といい、アメリカ中西部プレーリー平原の化石水が代表的なものである。化石海水は、数千万年 - 数億年前に形成されたと見られている。化石海水はもともと海水だったため、塩分を多量に含む塩水であることが多く、人間にとって利用しにくい地下水である。しかしながら、日本の関東地方南部の地層中の化石海水は、メタンヨウ素を多量に含むため、千葉県を中心に、資源として産業的に利用されている(南関東ガス田)。東京都区部や川崎・横浜市内の温泉もまた、同じ化石海水を利用している(2007年の渋谷温泉施設爆発事故は、化石海水から分離したメタンガスを適切に処理しなかったことが原因であった)。

また、プレートテクトニクスに由来する地下水もある。大陸プレートが海溝などで他の大陸プレートの下部へ潜り込む際、周辺の海水も一緒に引きずり込まれる。地殻内部へ引きずり込まれた海水は、マグマ熱などにより、地表近くへ上昇して地下水となるものもある。こうした地下水は、高温であることが多く、温泉を形成することがよく見られる。

流動

地下の構造(帯水層と難透水層)
1.帯水層 2.難透水層 3.不飽和帯 4.地下水面 5.被圧地下水 6.不圧地下水 7.深井戸 8.浅井戸 9.自噴井

地中へ浸透した直後の地下水は、その場に完全に留まるようなことはほとんどなく、不飽和水であれば比較的早期に地上へ蒸発したり湧き出したりするが、さらに深く浸透して飽和水となれば土の粒子間をゆっくりと流れて土中を遠くまで移動してゆくことになる。流量の多い地下水は「循環地下水」と呼ばれ、流量が少なく一箇所に滞留したままの地下水は「化石水」と呼ばれて区別されることがある[3]

地表近くの流れ
地中に浸透した地下水は、ふたたび地表に湧出して河川や池沼のような地表水となるか、地下のまま海岸線を潜り抜けて沿岸の海底に湧き出る。地中へ浸透せずに地表水となる水流をホートン地表流というが、地表の浸透能は非常に高いため、舗装の多い都市部などでない限り、降水のほとんどはホートン地表流となることなく、一度は地中に吸い込まれて地下水となる。同位体を用いた水文調査の結果によると、洪水時でさえも、地表水は地下水から供給されていることが判明している。すなわち、地中に浸透できなかった降水によって洪水が発生するのではなく、多量の降水が地中に浸透し、それまでの地下水が追い出されて洪水が発生するのである。

流速

帯水層[注釈 1]の中の地下水はゆっくりと流れ、概ね1日に数cmから数百メートル、平均では1メートル/日ほどである。一般に不圧地下水(後述)は被圧地下水に比べて早く流れ、特に河川に沿って流れる地下水は地上の流れに似た動きで比較的早く流れる。反対に被圧地下水の流れは遅く、ほとんど停滞しているものもある[3]

地下水の流速を求めるには、1856年にフランス人技術者、アンリ・ダルシー(1803-1858)が発見したダルシーの法則が用いられる。

地下水の流速 = 透水係数 × 動水勾配
  • 透水係数:地層が水を通す度合い
  • 動水勾配:2点間の水頭差を距離で割ることで、傾きとして表したもの

透水係数と動水勾配はその地層の地質構造に左右されるが、地質構造を明らかとするには実際に現地で調査を行うほかない。そのため、地下水の実態把握には、現地調査が重要である。

その調査方法としては、井戸ボーリング孔を掘って地中を調べる方法、地中に電流を通して電気伝導率を調べる方法、pH、水温、弾性波で調べる方法などがあるが、最も効果を上げているのが、地下水に含まれる水素の同位体であるトリチウムを測定して調査する方法である[3]。この同位体測定法により、実際の地下水の流速や流動方向などが、地域によってはかなり詳細に判明することもある。

地下水面

地中を観察すると、の粒子の間隙に水が浸透している。このとき、水が完全に満たされていない状態(不飽和状態)であれば「土壌水」と呼ばれ、粒子の間隙に水が完全に満たされた状態(飽和状態)であれば「地層水」や「間隙水」、「地下水」と呼ばれる。土壌水と地下水との境界は地下水面と呼ばれる。地下水面には、井戸または掘削孔中に現れる水面としての定義もある [4]

地下水面を境として、上部(土壌水の存在する部分)を不飽和帯、下部(地下水の存在するところ)を飽和帯または帯水層と呼ぶこともある。さらに不飽和帯を二分し、その下部を毛管水帯、その上部を懸垂水帯と呼ぶこともある。帯水層の厚みや状態、水自身の流動によって地下水面の高さには凹凸が生じる[3]

地下水面より上の不飽和帯内と地下水面にある水は、不飽和帯内の土壌の間隙を経て地上と通じているために大気圧とほぼ同じ圧力状態にあり、「不圧地下水」や「自由地下水」と呼ばれる。地下水面より下にある飽和帯内の水は、周囲の土壌や水自身の重みによって圧力を受けるために大気圧より高い圧力状態となっており、「被圧地下水」と呼ばれる[3]

地下水面より下の地下水は、面的あるいは空間的に存在している。「地下水脈」という概念があるが、地下水を線的なものとして捉えるのは正確ではない。ただし、カルストなどの岩盤中の地下水は線的な賦存状況を示す場合もある。

平野部には数十メートルを超える井戸が多数存在し、揚水を行っている。また、地下水は地層構造により第一帯水層・第二帯水層等の幾層にも分かれて重なっている。地下水流向は同一平面位置であっても各帯水層によって異なる場合が多く、全く逆方向の流向も珍しくない。

貯留量

一定地域内に存在する地下水の量は、涵養や他から地下を経由しての流入によって増加し、地表への流出や地下を経由しての流出によって減少する。このような地下水の量は、地上でのダムなどと同様に貯留量で表現される。地下深くに溜まっている大量の地下水の中には、流入量が少ないものがあり、井戸などによって人工的に大量の水を汲み出すと貯留量は急速に減少し、場合によっては枯渇する[3]

滞留時間

地下水が地下に留まっている平均時間は「滞留時間」と呼ばれ、想定される貯留量と流動量から計算される。オーストラリア大鑽井盆地では110万年以上、黒部川扇状地の砂丘では0.14年と推定されている[注釈 2]

滞留時間の例
地域 帯水層 滞留時間
オーストラリア 大鑽井盆地 1,100,000年(最大)
エジプト サハラ砂漠北東部 45,000年(最大)
シナイ半島 西端の泉と死海近くの井戸 約30,000年
中央ヨーロッパ 深度100-800m 10,000-10,500年
ベネズエラ マラカイボ市 4,000-35,000年
南アフリカ カラハリ砂漠 430-33,700年
旧チェコスロバキア 山河小流域からの地下水 2.5年
ニュージーランド ワイコロププ泉 0-20年
米国テキサス州 カリゾ砂岩 27,000年(最大)
米国ハワイ州 オアフ島 100年
米国インディアナ州 氷河堆積物 25年
韓国 済州島 2-9年
東京湾岸 深度200-2,000m 2,840-36,750年
岩手火山 山麓湧水 17-38年
八ヶ岳 山麓湧水 1-100年
会津盆地 自噴井深度30m 13年
千葉県市原市 養老川流域1520m以浅 0-30年
瀬戸内海の小島 花崗岩の基盤 0-30年
黒部川扇状地 芦崎砂丘 0.14年
那須岳周辺 低水時の河川水 2-3年以上
[3]

地下水ポテンシャル

地下水ポテンシャル(流体ポテンシャル、水理ポテンシャルともいう)とは、ある地中点における地下水の存在状態のことである。水理学では、ポテンシャル概念を水頭と呼ぶ。

地下水ポテンシャルは、速度密度高度圧力の4つの物理量を変数スカラー)とするが、現実的に、速度は無視できるほど非常に遅いので除外出来る。また、観測対象地域の各観測点の密度の違いも無視できるほどであるため、地下水ポテンシャルは高度(位置エネルギー)と圧力のポテンシャルの和、すなわち次の数式で近似できる。

  • 地下水ポテンシャル(水理水頭)= 重力ポテンシャル(位置水頭)+圧力ポテンシャル(圧力水頭)

ある地下水が、地下水ポテンシャルの高い観測点Aから低い観測点Bに移動した場合、AB間の地下水ポテンシャルの差は、運動エネルギー、および、両地点間にある地層による摩擦を受けて熱エネルギーとなる。エネルギー保存の法則から、観測点Bの地下水ポテンシャル、運動エネルギー、および、発生した熱エネルギーの和は、観測点Aの地下水ポテンシャルと等しい。すなわち、地下水の運動エネルギーは地下水ポテンシャルの差によって生じ、地下水は、地下水ポテンシャルの高い方から低い方へ流れるといえる。これを慣例的にポテンシャル流れという[5]

地下水ポテンシャルは、井戸を掘ることで測定することができる。ある任意の基準面から井戸の中の水位までの高さが、地下水ポテンシャルの高さを表す。このとき、井戸の中の水位を地下水位ということもある。地下水ポテンシャル = 地下水位は、同一地点であっても深度方向によって異なる。例えば、低標高平野部では、浅い地層よりも深い地層の方が地下水ポテンシャル = 地下水位が高い場合が多く、深い井戸を掘ると地下水位が地表面より高くなることさえある。こうした自噴する井戸を自噴井という。

地下水位と地下水面は、よく似た用語であるが厳密には異なる。地下水位は、地下水ポテンシャルの大きさを表す用語であるのに対し、地下水面は、地下水帯水層の上部境界を示す用語である。短期的に見れば、地下水面の位置は一定だが、地下水位は深度によって異なる。なお、地下水面は、地下水ポテンシャル = 重力ポテンシャルとなる点の連続面と定義することもでき、地下水面上では、地下水面と地下水位が等しくなる。

流出

透水層が地上面に露出していたり[注釈 3]、井戸などの設備で人工的に汲み上げたりすることで地下水の流出が生じる。また、特に深い地下にあって難透水層に挟まれた透水層内の水は、かなり高い圧力を受けることがあり、この透水層が地表面近くになるとわずかな深さの井戸でも地表へ水が噴き上がる「自噴井」(じふんせい)となる。不圧地下水(自由地下水)の存在する地下まで掘られた比較的浅い井戸は「浅井戸」、被圧地下水の存在する地下まで掘られた比較的深い井戸は「深井戸」と呼ばれることがある[3]

分類

地下水は、特徴や水の対比等を目的として、いくつかの視点から分類されている。なお地下水の賦存状態の区分については、帯水層を参照のこと。ここでは水質区分について記述する。

主要成分の濃度

塩類濃度により、以下の3つに分けることは最も多く行われている。

主要成分の当量比

塩水(海水や化石塩水(化石海水ともいう))との交換、塩基置換、などの水質変化・進行現象を解釈する際に、以下のような当量比で区分する。

これらにより、塩基置換・炭酸の変化・有機物の分解・酸化還元などを、地下水と地層の接触時間や、滞留時間等の解析として用いられる。

主要塩類

溶存成分により、仮想的な結合を考え、その塩類によって区分を行う。これは温泉の区分で行われている方法であるのかもしれない


注釈

  1. ^ 「帯水層」とは、水を含みやすく流通も比較的容易な土壌の層域である「透水層」の中でも特に水が大量に含まれてそれ以上は増すことができない飽和状態にある地層を指す。透水層のすべてが帯水層になるとは限らない。
  2. ^ 地下水の年代測定は考古学調査などと同様に炭素14の半減期から推定する放射性炭素年代測定法が用いられている。
  3. ^ 透水層が地上面に露出した箇所から地下水が流出する他に、地下の鍾乳洞のような地下洞内に流出する場合もある。
  4. ^ 「地下水学」では、地表面より下の不飽和帯と飽和帯の水全体を包めて扱う。
  5. ^ 長ければ数キロの間に幾本も電極を地面に打ち込んで電流を流し地面の抵抗値を測る「電気探査」では、水平方向での地下の状況に関する手がかりを得ることができ、これとボーリングによって得る垂直方向での電気探査の測定データを重ね合わせる「比抵抗トモグラフィー」も行われている。
  6. ^ 電磁波を用いた地上探査では、発信側と受信側の2箇所以上で作業を行う。発信側では1kmほどの長さの電線を伸ばし両端の電極から電流を地下に流して順番に複数の長周期波長の電磁波を作る。受信側は、発信側に対向して4-8kmほど離れた地点で1-1.5kmほど直線上の数箇所に20mほどの長さの電場センサーと1個の磁気センサーを用意し、地下から生じる電気・磁気の変化を測定する。このような地上探査は作業に手間がかかり広域を探査するには長期間かかるため、ヘリコプターからセンサーを吊り下げて行う「空中電磁波探査」が普及している。空中電磁波探査では深さ150m程度までと限界がある。
  7. ^ 「地盤沈下」は、涵養による流入量の少ない地下から地下水を過剰に汲み上げることにより水を含む帯水層そのものの体積は変化しないまま、帯水層に接する、通常は上や下などに存在する粘土層のような強固な構造を持たない難透水層中の地下水が帯水層へ移動することで絞り出され、これにより不透水層が収縮することで地上では地面が沈下する現象である。このような収縮は特に「圧密」と呼ばれる。帯水層(透水層)が直接収縮するのではない。
  8. ^ 地盤沈下によって地上付近の埋設物が相対的に浮上する事を「抜け上がり」と呼ぶ。

出典

  1. ^ 日本地下水学会[リンク切れ]
  2. ^ 「地下水」 - Yahoo!辞書[リンク切れ]
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m 日本地下水学会/井田徹治著『見えない巨大水脈 地下水の科学』、講談社、2009年5月20日第1刷発行、ISBN 9784062576390
  4. ^ 地下水学用語辞典, 1986. 古今書院
  5. ^ 榧根勇 『地下水の世界』 日本放送出版協会、1992、p57-62
  6. ^ 世界の地下水に「環境の時限爆弾」、研究論文で警告”. AFP (2019年1月22日). 2019年3月24日閲覧。
  7. ^ 「日本の水源林の危機 グローバル資本の参入から『森と水の循環』を守るには」(2009)、「グローバル化する国土資源(土・緑・水)と土地制度の盲点 日本の水源林の危機 II」(2010)、いずれも東京財団
  8. ^ 外国資本による森林買収に関する調査の結果について” (PDF). 農林水産省 (2019年5月31日). 2021年3月9日閲覧。


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