世界・食の祭典 概要

世界・食の祭典

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/06 03:19 UTC 版)

概要

農林水産省が1985年に打ち出した1988年開催を目標とした食の博覧会構想をきっかけとして、東京の広告会社シマ・クリエイティブハウスが北海道庁に企画を持ち込み1986年に道が経済活性化や一次産業の高度化を目的として開催を決定[1]。農漁業をめぐる国際環境の悪化を背景として[3]、食を通じ人間と自然・日本と世界の関係を見つめ直す事を主目的に北海道の豊富な食料資源をアピールし地域振興を図るとした[4]。札幌市内に会場を分散配置し、入場券として当時普及し始めた磁気式プリペイドカードを使用するなど、革新的な試みも実施された。

開幕3か月前に基本計画を策定するなど杜撰な運営や[1]、事前のPR不足[5]、飲食料に加え入場料や駐車料が必要となり割高な出費となった事、札幌市中心部から離れた月寒・大谷地で分散開催した事がマイナス要因となり[5]、当初から「あまり食に関係ない」「入場すれば食べ放題と勘違いした」といった苦情や[6]、閉会後の原状回復を優先して本格的な厨房設備が設置されず良質な飲食物を提供できなかった点も見受けられ[1]、入場料や料理の価格の高さと「料理の味が値段に見合わない」という口コミによる人離れなどにより開幕直後から会場は閑散となった[1]

会期途中からはメニューや催しが一目で分かる案内板の設置や低廉なファストフードの出店[7]、一部施設の無料化などを行ったが[8]、無料化策に伴い協賛収入の減少も生じ[5]、最終的に目標入場者数400万人に対して実際の入場者数は170万人、うち有料の入場者は90万人程度に留まり[9]、最終的に約90億円の赤字決算で北海道の財政に大打撃を与えた[2]

  • 主催:財団法人食の祭典委員会
  • 後援:総務庁北海道開発庁防衛庁経済企画庁法務省外務省文部省厚生省農林水産省通商産業省運輸省郵政省建設省自治省全国知事会全国市長会全国町村会、全国都道府県議会議長会、全国市議会議長会全国町村議会議長会経済団体連合会経済同友会、日本経営者団体連盟、日本商工会議所日本青年会議所、日本貿易振興会、国際観光振興会、日本観光協会、日本国際交流センター、日本能率協会、日本フードサービス協会、日本旅行業協会、日本航空事業連合会、北海道札幌市北海道教育委員会札幌市教育委員会、函館市教育委員会、北海道経済連合会、北海道経済同友会、北海道経営者協会、北海道商工会議所連合会、北海道商工会連合会、北海道商店街振興組合連合会、北海道中小企業団体中央会、北海道貿易物産振興会、北海道農業協同組合中央会、北海道水産会、北海道林業協会、北海道観光連盟、北海道観光土産品協会、北海道観光誘致宣伝協議会、北海道イベント推進協議会、北海道建設業協会、全日本司厨士協会北海道支部、北海道全調理師協会、北海道環境衛生同業組合連合会、北海道市場協会、北海道市場買受人協会、北海道菓子協会、北海道酪農協会、北海道食品産業協議会、北海道食品衛生協会、北海道商工指導センター、北方圏センター、北海道小売酒販組合連合会、北海道卸売酒販組合、北海道酒造組合、北海道食料事業協同組合、北海道消費者協会、北海道食生活改善協議会、北海道国際婦人協会、北海道青年婦人国際交流センター、北海道婦人団体連合会、北海道婦人経営者協会、北海道栄養士会、北海道ウタリ協会、札幌レストラン協会、日本ホテル協会北海道支部、日本ガス協会北海道部会、日本包装技術協会北海道支部、全北海道広告協会、北海道広告業協会、北海道デザイン協議会、北海道バス協会、北海道乗用自動車協会
  • 協力:北海道新聞社北海タイムス社朝日新聞社毎日新聞社読売新聞社日本経済新聞社サンケイ新聞社日本放送協会札幌放送局札幌テレビ放送北海道テレビ放送北海道文化放送エフエム北海道
  • 会期:1988年6月3日 - 10月30日
  • テーマ:「食べることはいいことだ」「こころがひとつになることだ」「地球が平和になることだ」(Joy of eating, joy of sharing, peace and harmony.)
  • シンボルマーク:開催年の「88」・北海道島の形状・子供達の幸せな未来を願う四つ葉のクローバーをイメージした4つの楕円形で左上側に「食べることはいい事だ」と太陽の恵みを表す赤、中段に「心がひとつになることだ」と緑なす大地を表す緑、右下側に「地球が平和になることだ」と青く澄む海を表す青の三色の配色で表した。
  • 通称:JUNO'S JAPAN '88 - 「JUNO'S」はギリシャ神話に登場する豊穣の女神であるユーノーに由来する。
  • マスコットキャラクター:広大な北海道のイメージに相応しい森の仲間をイメージした熊のドン、狐のコンタ、丹頂鶴のタンタン、エゾシカのピョン、エゾリスのエリ、キツツキのキートン、フクロウのクックの7体が小中学生からの公募をもとに制定された。
  • 主会場延べ入場者数 - 1,716,903名(当初目標400万人、第二次目標180万人、有料入場者数856,564名)[1]
    • 月寒会場:1,162,862名(目標250万人、有料561,251名)[1]
    • 大谷地会場:554,041名(目標150万人、有料295,313名)[1]
  • テーマ曲:ジョイ・オブ・シェアリング (Joy of Sharing)
  • 経済効果額(生産誘発額):約640億円(事前予測:約1300億円)[10]

赤字の影響

1989年(平成元年)7月6日に北海道知事は、北海道議会平成元年第2回定例会にて「平成元年度一般会計補正予算案」と「北海道知事等の給与等に関する条例の一部を改正する条例案」を提案し、両案とも賛成多数により可決された。前者の案は、財団法人食の祭典委員会特別対策費110億円を計上したもので、内訳は、財団法人食の祭典委員会に対する道の負担金20億円、同財団に対する無利子の貸付金90億円である[11]。巷言される「90億円の赤字」は無利子貸付金90億円を指し、これは返還前提の貸し付けで、北海道の負担金は20億円だった。元来の経済基盤が脆弱な北海道にとって大きな打撃となり、バブル崩壊後の北海道拓殖銀行の破綻に端を発する「拓銀ショック」と呼ばれる深刻な経済不況へつながる原因のひとつとなった。[要出典]関係者に自殺者もあらわれ[1]、「ショックの祭典」とも揶揄された。

当時の北海道知事であった横路孝弘に対し、北海道議会は問責を決議した。北海道議会平成元年第2回定例会で「北海道知事横路孝弘君を問責する決議」が、日本社会党・道民連合、民政クラブ、無所属及び公明党による共同提案として提案された。日本共産党は同議会において辞職勧告決議案を提案し、自由民主党がこの共産党案に賛成したが、同案は否決された。日本共産党は「食の祭典問題」調査解明のため、証人喚問・告発などの権限を持つ百条委員会の設置を求めたが、自由民主党ら他会派は百条委員会の設置に反対した。自由民主党は「北海道知事横路孝弘君不信任決議案」を提案したが否決された[11]

本イベントの赤字額は利子を含んで99億円となり[2][3]、道の負担金や財界の寄付金や札幌市の貸付金運用益で1991年度末に財団の約60億円の短期借入分の返済を終えその後道が7か年計画で年6億円の長期借入分約34億円を返済するとし[12]、最終的にイベントから10年後の1998年に完済され[2]、9月に最終返済金3億5千万円を道内5金融機関に納付し10月31日で財団を解散[13]、最終的に74億円分を道が負担した[3]

哲学者で札幌大学名誉教授の鷲田小彌太は、1988年12月に『ある地方博の死 世界・食の祭典 '88の検証』を著してこのイベントの問題点を暴いた[1]版元の亜璃西社(アリスしゃ)[14]によれば、当時からこれの実態を暴く事は絶対的なタブーとされており、ゴーストライターですら後難を恐れて執筆を拒否する中、鷲田が執筆を引き受けたと語っている[1]

他のイベントへの影響

本イベントの失敗を受けて、千歳市で開基111周年にあたる1990年または新千歳空港ターミナルビル開業に合わせた1992年に開催を計画していた「北海道航空宇宙博覧会」計画が再検討され、1989年に開催予定を1995年に延期したものの地方博覧会ブームの終息や費用対効果面を考慮し最終的に実現しなかった[15]

本博覧会と同年に開催された函館市での青函トンネル開通記念博覧会の赤字や、広尾町での十勝海洋博覧会の低収益も勘案され、旭川市では1990年に予定されていた開基100周年行事の博覧会計画が中止となった[1]

バブル崩壊後の1996年東京臨海副都心で開催予定だった世界都市博覧会の開催中止の際にも、この「世界・食の祭典」での失敗例が影響している。


  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa 鷲田小彌太ある地方博の死 世界・食の祭典 '88の検証』亜璃西社、1988年12月1日。ISBN 4900541036
  2. ^ a b c d 「世界・食の祭典」が大赤字に 地方博覧会ブームの中で最大の失敗とされる - 朝日新聞×HTB 北海道150年あなたと選ぶ重大ニュース”. 北海道テレビ放送, 朝日新聞. 2021年4月4日閲覧。
  3. ^ a b c 20世紀北の記憶57 「官」とバブルに泣かされた道内観光 新時代切り開く「草の根」の活力 - 北海道新聞1999年7月7日朝刊
  4. ^ a b c d ゲームマシン第335号 - アミューズメント通信社(1988年7月1日)
  5. ^ a b c 「あれ・これ」シリーズ<イベント>満開地方博のかげの落とし穴「食の祭典」の影響は - 企業と広告1988年11月号(チャネル)
  6. ^ グラビア「世界・食の祭典」開幕 - アミューズメント産業1988年7月号(アミューズメント産業出版)
  7. ^ 燃えるか本道イベントの夏 世界食の祭典伸びぬ入場者数 - 北海道新聞1988年7月3日朝刊26面
  8. ^ a b c "食欲不振"にえーい無料だ 食の祭典4パピリオン苦肉の策2回目駐車料も21日から夏休みを控え決断 - 北海道新聞1988年7月19日夕刊9面
  9. ^ 細野(1992):45ページ
  10. ^ こちら深刻経済効果予測の半分 -「食祭波及度」たくぎん総研推計 640億円がやっと入場者減大きく響く雇用創出は5500人 - 北海道新聞1988年12月11日朝刊3面
  11. ^ a b 北海道議会会議録による。
  12. ^ a b 食祭での道の債務34億円、返済繰り上げへ 財団、早期解散の方針 - 北海道新聞1992年1月23日夕刊
  13. ^ a b 食祭委解散は31日 - 北海道新聞1998年10月22日朝刊
  14. ^ 亜璃西社 版元ドットコム、2020年7月28日閲覧。
  15. ^ (PDF) 新千歳市史通史編下巻 第5編戦後の行政. 千歳市. (2019-03-28). https://www.city.chitose.lg.jp/fs/1/9/4/8/3/2/_/_5_.pdf 2019年10月15日閲覧。 
  16. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w 世界・食の祭典広告特集 - 北海道新聞1988年6月3日朝刊
  17. ^ 食の祭典苦い閉幕 赤字90億円突破の公算 - 北海道新聞1988年10月11日朝刊1面
  18. ^ 不人気業煮やした  食の祭典出展企業が自衛の値下げ - 北海道新聞1988年7月11日朝刊23面
  19. ^ 遊園地責任者に聞く-園の歩みと未来像 第4回 遊びきれないアソビ放題ランドルスツ高原 技術部園地課石崎保課長 - アミューズメント産業1988年7月号
  20. ^ 今日の話題 回れよ観覧車 - 北海道新聞2022年9月2日夕刊
  21. ^ タガイタイ比国内最大の観覧車「Sky Eye」人気-北海道より移設 - マニラ経済新聞(みんなの経済新聞ネットワーク
  22. ^ a b c 「世界・食の祭典」折り返し 不人気返上に躍起 - 北海道新聞1988年8月19日朝刊21面
  23. ^ 韓国館親会社倒産で苦境 - 北海道新聞1988年10月7日朝刊31面
  24. ^ 出店業者に緊急融資食の祭典韓国館問題 財団無利子で千四百万円 - 北海道新聞1988年10月10日朝刊1面
  25. ^ a b c d エアドームを新設1000人収容のビアレストラン 札幌に第4の会場 - 北海道新聞1988年6月8日朝刊21面
  26. ^ 世界・食の祭典九日から函館会場がオープン - 北海道新聞1988年7月2日朝刊
  27. ^ リー首相、札幌で講演シンガポールの発展にアジアの安定が不可欠 - 北海道新聞1988年7月12日朝刊
  28. ^ JUNO'Sに行くならこの日がいい!!JUNO'S CARNIVAL SPECIAL - 北海道新聞夕刊1988年7月13日夕刊8面
  29. ^ 第1254回関東・中部・東北自治宝くじ当選番号 - 北海道新聞1988年8月18日朝刊22面
  30. ^ 伝統の包丁式で開幕 11カ国から名シェフ国際料理芸術祭 - 北海道新聞1988年8月29日夕刊10面 
  31. ^ 世界食の祭典 サケもジャガも安いよきょうから大収穫祭 - 北海道新聞1988年9月1日朝刊21面
  32. ^ 北と南、唄と踊りで文化交流 - 北海道新聞1988年9月18日朝刊25面
  33. ^ 整列!36市町村の味 札幌世界・食の祭典会場ふるさと食品フェア始まる - 北海道新聞1988年9月24日朝刊札幌近郊版22面
  34. ^ a b c d e f 不人気にあえぐ食の祭典今度はイベント中止 - 北海道新聞1988年7月30日
  35. ^ 食の祭典バーゲン人気皮肉なにぎわい - 北海道新聞1988年10月3日朝刊26面
  36. ^ Introducing PLAZA 本格的なプリペイドカード普及を推進する日本カードセンター(株) - Card wave 1988年7月号
  37. ^ 世界食の祭典 不調ですドームも入場無料に - 北海道新聞1988年7月25日朝刊21面
  38. ^ 食をテーマにうたよみ教室 - 北海道新聞1988年7月23日朝刊25面
  39. ^ 平野レミさんら食の知恵披露 - 北海道新聞1988年7月18日朝刊13面
  40. ^ 交友社鉄道ファン』1988年9月号(通巻329号)p128
  41. ^ 市電レストラン出発進行! - 北海道新聞1988年7月4日朝刊22面
  42. ^ ジョン・レノンの未亡人オノ・ヨーコさん来札 全世界へ「愛と平和のメッセージ」 - 北海道新聞1988年7月17日朝刊
  43. ^ ポップス・グランプリ「LAY LAY」が受賞 - 北海道新聞1988年7月31日朝刊
  44. ^ a b '88ザ・ポップスグランプリ本選-北海道新聞1988年7月24日朝刊
  45. ^ レイトンハウスがF-1ショウを開催-福祉基金に30万を寄付 - 北海道新聞1988年8月16日朝刊
  46. ^ a b 食祭「検査結果報告書」の要旨 - 北海道新聞朝刊1989年1月11日
  47. ^ 会長に下河辺元国土庁事務次官起用 食の祭典委員会が協力布陣 理事長には植村前道教育長 顧問は大河原前駐米大使-北海道新聞1987年6月6日夕刊
  48. ^ 世界食の祭典 盛り上がった!今日オープン 札幌大通公園にぎやかに前夜祭 - 北海道新聞1988年6月3日朝刊26面
  49. ^ 世界の味ふれあいの150日間食の祭典開幕 - 北海道新聞1988年6月3日夕刊1面
  50. ^ 入場者やっと100万人 - 北海道新聞1988年9月1日朝刊21面
  51. ^ 食の祭典問題、どうも財団法人の運営にメス。プロジェクトチームを設置し立入検査も - 北海道新聞1988年10月20日朝刊
  52. ^ 「食の祭典」不明朗な運営-知事「私にも責任」道議会食特委初めて失敗認める-北海道新聞1988年10月24日夕刊
  53. ^ 食の祭典、あす閉会式 - 北海道新聞1988年10月29日朝刊1面
  54. ^ 食の祭典赤字90億円残し閉幕 - 北海道新聞1988年10月31日朝刊1面
  55. ^ 道の食の祭典チームが財団に立ち入り検査 - 北海道新聞1988年11月15日朝刊
  56. ^ 食の祭典監査報告 乱脈326件を列挙。財団の全運営「公正、適正を欠いたと指摘」 - 北海道新聞1988年12月16日朝刊
  57. ^ 食祭宴のあとの千客万来 赤字減らし大バーゲン問い合わせ殺到-北海道新聞1989年1月18日夕刊
  58. ^ 食の祭典委、4億7百万円を損失補償 道が決定、破産危機回避へ - 北海道新聞1989年3月18日夕刊
  59. ^ 疑惑の全容解明されぬまま食祭特委が23日解散 道議会 - 北海道新聞1989年6月21日朝刊
  60. ^ 食祭債務負担は80億5千万円-北海道新聞1989年7月30日
  61. ^ 北海道新聞1989年8月17日朝刊
  62. ^ 財団法人・食の祭典委-新理事長に鈴木道商連会頭 - 北海道新聞1989年9月6日朝刊
  63. ^ 食祭委への貸し付け、91年度で打ち切り-札幌市 - 北海道新聞1991年11月23日朝刊
  64. ^ 財務返済後の解散を決める 食祭委理事会 - 北海道新聞1998年2月20日朝刊
  65. ^ a b 食の祭典債務 きょうで完済 - 北海道新聞1998年9月30日朝刊






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