リベラル・アーツ
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現代のリベラル・アーツ
現代英語としてリベラル・アーツ(liberal arts)は「一般教養科目」や「学芸、文芸」や「人文科学」を指す[9]。『大学事典』によれば近代以降、リベラル・アーツは主に中等教育で扱われるようになり、大学では稀(まれ)だという[1]。アメリカ合衆国においてリベラル・アーツは、リベラル・アーツ・カレッジや伝統的な私立大学の理念として続いているが、20世紀中頃からはむしろ市民統合のための「ジェネラル・エデュケーション」(一般教育)が試みられている[1]。
前掲書は自由人のたしなみか,それとも解放のための技芸かという,リベラルアーツがその起源から抱える問題は,現代においてもなお解決されてはいない
と締めくくっている[1]。
大学による定義
国際基督教大学はリベラル・アーツについて、米国カレッジ・大学協会(AAC&U)による以下の定義を引用している[10]。
個人の能力を開花させ、困難や多様性、変化へ対応する力を身につけさせ、科学や文化、社会などの幅広い知識とともに、より深い専門知識を習得させるための学習方法
同協会元理事のレベッカ・チョップいわく、リベラル・アーツでは次の三要素の育成が重視されている[10]。
- クリティカル・シンキング:分析・探求・回答のための論理的意見の形成に必要であり、分野としては人文学・芸術・心理学・数学・科学など幅広い。
- 道徳心・市民性:課外や地域社会での活動、キャンパスにおける他学生や教員との交流による人間性の育成。
- 知識の汎用性:キャンパス内外での経験を統合し、授業で得た知識の汎用性を高め、多面的に諸問題を議論する。
2023年の北コロラド大学とネブラスカ大学によれば、リベラル・アーツという分野が教育しているのは人文学、社会科学および「市場向きの技能」[11]や「仕事に活かせる必須の実用的技能」である[12][注釈 1][注釈 2]。
- その他
一方で「StudyInTheUSA」と「ベネッセ海外進学・留学ラボ」によれば、リベラル・アーツとは、特定の職業に直結するような専門知識・スキルよりも「幅広い教養を身につけ、将来さまざまな分野で活躍できるような高い教養を有するバランスの取れた人間の育成[注釈 3]」に重点が置かれ、細かな専門分野を定めずに、さまざまな分野で幅広い選択肢を提供する学問領域である[13][14]。
リベラル・アーツ・カレッジの学際性
リベラル・アーツ・カレッジの場合、入学時に専攻を決める必要はなく、1年目・2年目は自分の好きな科目を履修し、様々な分野を学び、3年次までに専攻をするが、一度決定した後も、専攻は変更することが出来る。
専攻を決定後も、引き続き、自分の好きな授業を履修できる点や、自分の専攻テーマに対する学際的なアプローチ(ビジネスを専攻した場合、ビジネス理論だけでなく歴史や科学などの視点からの考察も出来るなど)が可能になる点も特徴である。
ダブルメジャー(まったく異なる2つの専攻を学ぶ)や、ダブルディグリー(2つの学位を取得できる)の制度を採用している学校もある[14] [15]。
注釈
- ^ 北コロラド大学の原文:Importance of the Liberal Arts
Why should you get a degree in the Humanities and Social Sciences?
To gain marketable skills[11] - ^ ネブラスカ大学の原文:
For you, studies in the Liberal Arts may provide the necessary practical skills that you will apply on the job; or they may prepare you to move on to a graduate or professional school.
For others, the key value of a Liberal Arts education may be the personal satisfaction and fulfillment that studying philosophy or art makes possible.
Still others will be able to excel in today’s global business world because the foreign language skills developed in their Liberal Arts education gave them an important edge.[12] - ^ 特にリーダー・知識人としての人格形成
- ^ アリストテレスは『ニコマコス倫理学』第1巻第1章で、次の通り書き出している[21]。
邦訳者ら(渡辺邦夫・立花幸司)の訳注によると、ここでの「善」は、数学者兼天文学者兼哲学者エウドクソスなどの主張を指している[22]。
同書の第6巻第4章にはこうある[23]。 - ^ Academia.eduに掲載されたジョン・R・デイカーズの経歴原文:"John started his career in architecture, eventually starting his own practice in Glasgow in the late 1970s. ... he began an honours degree in technology education as a mature student. He graduated in 1997 with first class honours and took up teaching in a secondary school in Glasgow. After a few years teaching he was offered a post as a lecturer in Educational Studies at the University of Glasgow. It was during this time that he became interested in the philosophy of technology as related to technology education, particularly technological literacy"[24].
- ^ 語源辞典によると、「アートフル artful」という英語の語源は1610年代であり、原義は「学んだ、(リベラル)アーツに精通した」、「技術的熟練によって特徴付けられた、芸術的な」[26]。1739年以降に「巧妙な、狡猾な、手段を目的に順応させることに熟練した」という意味が加わった[26]。
- ^ 現代の英和辞典によると、「アートフル artful」の意味は「巧妙な、巧みな、悪賢い、狡猾な」、「技巧的な」[27]。
- ^ プラトンの『ゴルギアス』によると、ソクラテスは数論・計算・幾何などを
として論じていた[29]。同書でソクラテスは、「技術」と技術でないものとの区別についてこう論じている[30]。
ぼくは、料理術は技術でなく熟練だが、医術は技術だと思うと言った。そして、それを次のように説明した。すなわち、医術は、自分が世話しているものについて、その本性も、自分が施す治療の根拠も、よく研究している。だから医術は、それらのいずれについても、きちんと説明することができる。
これに対して、料理術のほうは快楽に関わっていて、その世話はすべて快楽に向けてなされる。そして、それが快楽に向かっていくしかたは、とても技術とはいえないようなものだ。それは、快楽について、その本性も根拠も、なにも研究しようとはしない。そこにはひとかけらの理論もなく、[さまざまな快楽を]区別することすらほとんどない。それはたんに、たいていの場合こうなるということを、熟達と熟練を通して記憶し、それによって快楽を提供しているにすぎないのだ。[31] - ^ 「エンキュクリオス」は形容詞で、「輪の中で」「円形の」そこから転じて「通常の」「日常的な」「一般におこなわれている」を意味する[40]。
- ^ クセノクラテスに関する断片などからの推測による[45]。
- ^ プラトン自身は、立方体(3次元)に関する研究もなされるべきとするが、学術としては未開拓のまま残されているとして具体的な科目を挙げていない[要出典]。
- ^ 「アルテス・リベラレス」が「エンキュクリオス・パイデイア」と対応づけられるのも、このセネカの書簡に由来する[38]。
- ^ 12世紀シャルトル学派のテオドリクス(シャルトルのティエリ)の『ヘプタテウコン』(七自由学芸の書)で報告される[49]。
出典
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- ^ “グローバル・リベラルアーツ学部 | 神田外語大学”. 神田外語大学 - 外国語を学ぶなら. 2021年2月4日閲覧。
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