リベラル・アーツ 日本におけるリベラル・アーツ

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リベラル・アーツ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/18 03:52 UTC 版)

日本におけるリベラル・アーツ

数学者であり複数の大学で学長を務めた大口邦雄は著書『リベラル・アーツとは何か——その歴史的系譜』[62]で、東京大学教養学部国際基督教大学 (ICU) 教養学部を日本におけるリベラル・アーツ教育機関の代表としてあげている[要ページ番号]

前者の東京大学は、第二次世界大戦前の旧制高等学校の伝統を受け継ぐものである。旧制高等学校は戦後になって4年制大学に改組されると、多くの大学において教養部一般教育課程・教養課程)がリベラル・アーツ教育の役目を担ってきた。しかし東京大学においては、教養部ではなく教養学部を独立した学部として設置した点で特徴的である。

後者のICUは米国のリベラル・アーツ・カレッジを範として戦後作られたものであり、人文科学・社会科学・自然科学の3領域を網羅し、専攻を自分で選ぶ教育を少人数で行う点、そして米国リベラル教育学会の認定を受けるなど世界基準の教育を行う点で、旧来の日本の大学とは一線を画すものとなった。リベラル・アーツ教育と国際性の2つを特徴とするICUの教育システムは、その後多くの大学にも引き継がれるようになる。

また旧制高等学校からの歴史を持つ大学群に関して事例を挙げると、浦和高等学校を継ぐ埼玉大学は当初設置の文理学部を1965年に教養学部へと改組した[63]。このほかの旧制高等学校からの歴史を持つ大学はその教養部を学際系学部に改組してきている。京都大学総合人間学部第三高等学校)、名古屋大学情報学部第八高等学校)、広島大学総合科学部広島高等学校)などをはじめ、学際系学部として独立している。

加えて、師範学校を前身とする国立の教育大学GHQの指示で米国のリベラル・アーツ・カレッジを範として戦後に設立された大学である。これらの大学は、人文科学、社会科学、自然科学および芸術の専攻からなる少人数教育を行なっており、1970年前後に国の方針で教育大学教育学部に改組する以前はリベラル・アーツの訳語である自由学芸から引いた学芸大学学芸学部という名称であった。なお東京学芸大学は教養系を、大阪教育大学は教養学科を設置し、現代的なリベラル・アーツ教育を行なっている。同様に、リベラル・アーツ・カレッジに範をとった津田塾大学は現在も学芸学部という名称を使用している。

21世紀に入ってからは社会科学・人文科学専攻とその周辺の学際領域専攻やビジネス専攻に限定した国際教養学部等の設置が目立ち、その事例として早稲田大学での学部設置や、公立大学法人の国際教養大学の設立が挙げられる。本来は人文科学・社会科学・自然科学の3領域の基礎分野すべてを網羅するのが現代のリベラル・アーツの基本であるが、日本においては戦前の旧制高等学校の「文科と理科」及び戦後の高等学校の「文系と理系」の分類が先行し、「リベラル・アーツ」を掲げつつもいわゆる文系分野が主たる領域となって3領域すべてをカバーしない(例えば、ビジネス専攻と社会科学系・国際系の学際領域専攻のみに限定され、芸術学や宗教学や数学や物理学などの専攻ができず、また教育職員免許状は英語しか取得できない)など、専攻可能な分野に偏りがある場合もある。特に自然科学については専攻として一切設けられていないことが多い。

上記のように、旧来の一般教育・教養課程を改組することでリベラル・アーツ教育(もしくはリベラルアーツと直接の関わりを必ずしも明示しない学際教育)を担う学部・プログラムを設置する大学が少なくない。その豊かな教員構成を活用して、これらから敷衍されうる分野も扱われるようになった。この他、全学での単位互換を行うといった制度への取り組みも挙げられる。

なお一部で「教養学」という言葉を、学術の体系化されたいち分野として用いることがある[1][2][3]が、「教養学」という名称を「学術の一分野」として用いた学術団体は2012年時点で存在していない。例として2011年に設立された学術団体であるJAILA(日本国際教養学会)を挙げると、同会は会則で「学際的立場」を基礎としており、「学際的な学会」として研究活動を「哲学、歴史、社会科学、自然科学、芸術、教育、外国語、環境など」[4]の多方面に広げている点を示しているのみである。

リベラルアーツ教育を行う大学

教養学部にてリベラル・アーツ教育を行う大学

国際系学部等でリベラル・アーツ教育を行う大学

教育学部にてリベラル・アーツ教育を行う大学

理工系学部にてリベラル・アーツ教育を行う大学

リベラル・アーツ教育を主体とする女子大学

学際教育を行う学部を持つ大学

全学部横断型のリベラルアーツ教育プログラムを持つ大学

東京経済・岡山・高知・九州の4大学のプログラムは独立した学部ではなく、全学部が協力して教育を行う特別なコースとなっている。学生には個別の学部ではなく、プログラム独自の学生証が発行される。

リベラルアーツ教育を行う各種学校

その他

東京都八王子市にある大学セミナー・ハウスのシンボルマークは白地に緑の切り株であるが、それについている7枚の葉は自由七科を表している。


注釈

  1. ^ 北コロラド大学の原文:
    Importance of the Liberal Arts
    Why should you get a degree in the Humanities and Social Sciences?
    To gain marketable skills[11]
  2. ^ ネブラスカ大学の原文:
    For you, studies in the Liberal Arts may provide the necessary practical skills that you will apply on the job; or they may prepare you to move on to a graduate or professional school.
    For others, the key value of a Liberal Arts education may be the personal satisfaction and fulfillment that studying philosophy or art makes possible.
    Still others will be able to excel in today’s global business world because the foreign language skills developed in their Liberal Arts education gave them an important edge.[12]
  3. ^ 特にリーダー知識人としての人格形成
  4. ^ アリストテレスは『ニコマコス倫理学』第1巻第1章で、次の通り書き出している[21]
    どのような技術研究も、そして同様にしてどのような行為選択も、なんらかのを目指しているように思われる。それゆえ、善はあらゆるものが目指すものであるとする人々の主張はすぐれていたのである。[21]

    邦訳者ら(渡辺邦夫・立花幸司)の訳注によると、ここでの「善」は、数学者天文学者兼哲学者エウドクソスなどの主張を指している[22]

    同書の第6巻第4章にはこうある[23]
    技術とは、真なるロゴス分別)をそなえた、制作にかかわる性向なのである。[23]
  5. ^ Academia.eduに掲載されたジョン・R・デイカーズの経歴原文:"John started his career in architecture, eventually starting his own practice in Glasgow in the late 1970s. ... he began an honours degree in technology education as a mature student. He graduated in 1997 with first class honours and took up teaching in a secondary school in Glasgow. After a few years teaching he was offered a post as a lecturer in Educational Studies at the University of Glasgow. It was during this time that he became interested in the philosophy of technology as related to technology education, particularly technological literacy"[24].
  6. ^ 語源辞典によると、「アートフル artful」という英語の語源は1610年代であり、原義は「学んだ、(リベラル)アーツに精通した」、「技術的熟練によって特徴付けられた、芸術的な」[26]1739年以降に「巧妙な、狡猾な、手段を目的に順応させることに熟練した」という意味が加わった[26]
  7. ^ 現代の英和辞典によると、「アートフル artful」の意味は「巧妙な、巧みな、悪賢い、狡猾な」、「技巧的な」[27]
  8. ^ プラトンの『ゴルギアス』によると、ソクラテス数論計算幾何などを
    言論によってすべてを成し遂げる技術
    として論じていた[29]。同書でソクラテスは、「技術」と技術でないものとの区別についてこう論じている[30]
    ぼくとしては、きちんとした説明もできないようなものを、技術と呼ぶつもりはないのだよ。[30]
    ぼくは、料理術は技術でなく熟練だが、医術は技術だと思うと言った。そして、それを次のように説明した。

    すなわち、医術は、自分が世話しているものについて、その本性も、自分が施す治療根拠も、よく研究している。だから医術は、それらのいずれについても、きちんと説明することができる。

    これに対して、料理術のほうは快楽に関わっていて、その世話はすべて快楽に向けてなされる。そして、それが快楽に向かっていくしかたは、とても技術とはいえないようなものだ。それは、快楽について、その本性も根拠も、なにも研究しようとはしない。そこにはひとかけらの理論もなく、[さまざまな快楽を]区別することすらほとんどない。それはたんに、たいていの場合こうなるということを、熟達と熟練を通して記憶し、それによって快楽を提供しているにすぎないのだ。[31]
  9. ^ 「エンキュクリオス」は形容詞で、「輪の中で」「円形の」そこから転じて「通常の」「日常的な」「一般におこなわれている」を意味する[40]
  10. ^ クセノクラテスに関する断片などからの推測による[45]
  11. ^ プラトン自身は、立方体(3次元)に関する研究もなされるべきとするが、学術としては未開拓のまま残されているとして具体的な科目を挙げていない[要出典]
  12. ^ 「アルテス・リベラレス」が「エンキュクリオス・パイデイア」と対応づけられるのも、このセネカの書簡に由来する[38]
  13. ^ 12世紀シャルトル学派のテオドリクス(シャルトルのティエリ英語版)の『ヘプタテウコン』(七自由学芸の書)で報告される[49]

出典

  1. ^ a b c d e f g h i 岡山 2018, p. 「リベラルアーツ」.
  2. ^ discipline〔ディシプリン〕」英辞郎
  3. ^ 熊野 2009, p. 51.
  4. ^ 桂 2011, p. 100.
  5. ^ 精選版 日本国語大辞典 2023.5.7閲覧
  6. ^ プリンストン大学アドミッション2023.5.7閲覧
  7. ^ 国際基督教大学 リベラルアーツの歴史を読む2023.5.7閲覧
  8. ^ a b c d Dakers 2022, p. 16.
  9. ^ 南出 & 中邑 2023, p. 1196.
  10. ^ a b 国際基督教大学 リベラルアーツ教育の概念とは2023.5.7閲覧
  11. ^ a b University of Northern Colorado 2023, p. "Importance of the Liberal Arts".
  12. ^ a b University of Nebraska Omaha 2023, p. "Why Be a Liberal Arts Major?".
  13. ^ StudyInTheUSAR5.4.23閲覧
  14. ^ a b ベネッセ海外進学・留学ラボ2023.5.7閲覧
  15. ^ 特定非営利活動法人 留学フェローシップ2023.5.13閲覧
  16. ^ 山崎 2021, p. 技術.
  17. ^ a b c d 樋笠 2021, p. テクネー.
  18. ^ a b 加藤 2021, p. ギリシア哲学/用語.
  19. ^ a b 加藤 1994, p. 106.
  20. ^ a b アリストテレス 2015, p. 82.
  21. ^ a b アリストテレス 2015, p. 22.
  22. ^ アリストテレス 2015, p. 23.
  23. ^ a b アリストテレス 2016, p. 42.
  24. ^ a b John R Dakers - Tudelft [Delft University of Technology], Department of Science Education and Communication, Researcher
  25. ^ Dakers 2022, pp. 13–17.
  26. ^ a b "artful"『オンライン・エティモロジー・ディクショナリー
  27. ^ artful」『英辞郎
  28. ^ a b c d e f g h i j k 半田 2010, p. 150.
  29. ^ プラトン 2022, p. 31.
  30. ^ a b プラトン 2022, pp. 83–84.
  31. ^ プラトン 2022, pp. 224–225.
  32. ^ a b c d e f g h 半田 2010, p. 149.
  33. ^ a b c d 半田 2010, pp. 149–150.
  34. ^ Michael Augros ... Ph.D., philosophy, Boston College, 1995
  35. ^ a b ARTS OF LIBERTY - GEOMETRY - Course
  36. ^ 菱刈 2010, p. 37.
  37. ^ a b c 鈴木 2019, p. 35.
  38. ^ a b 納富 2014, p. 72.
  39. ^ 小林 2007, p. 7.
  40. ^ a b 小林 2007, p. 4.
  41. ^ a b 菱刈 2010, p. 31.
  42. ^ a b c 山田 2008, p. 217.
  43. ^ 山田 2008, p. 218.
  44. ^ 山田 2008, p. 218f.
  45. ^ a b c 納富 2014, p. 70f.
  46. ^ 国家』7巻[要文献特定詳細情報]
  47. ^ 『国家(下)』(岩波書店)藤沢令夫の訳[要ページ番号]
  48. ^ a b 小林 2007, p. 6.
  49. ^ a b 半田 2010, p. 158.
  50. ^ 山川 2005, p. 136.
  51. ^ a b 小林 2007, p. 10.
  52. ^ a b 鈴木 2019, p. 36.
  53. ^ 半田 2010, p. 155.
  54. ^ a b 菱刈 2010, p. 38.
  55. ^ a b 半田 2010, p. 156.
  56. ^ 半田 2010, p. 157.
  57. ^ アルクイヌス著、山崎裕子訳 1992.
  58. ^ 菱刈 2010, p. 42.
  59. ^ 菱刈 2010, p. 44.
  60. ^ a b 斎藤 1995, p. 11.
  61. ^ Marrou, Henri-Irénée (1969). "Les arts libéraux dans l'Antiquité classique". pp. 6–27 in Arts libéraux et philosophie au Moyen Âge. Paris: Vrin; Montréal: Institut d'études médiévales). pp. 18–19.
  62. ^ 大口 2014.
  63. ^ 埼玉大学の沿革”. 2015年2月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年6月25日閲覧。
  64. ^ グローバル・リベラルアーツ学部 | 神田外語大学”. 神田外語大学 - 外国語を学ぶなら. 2021年2月4日閲覧。






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