ミラー対称性 (弦理論)とは? わかりやすく解説

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ミラー対称性 (弦理論)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/05 02:23 UTC 版)

数学理論物理学において、ミラー対称性(mirror symmetry)はカラビ・ヤウ多様体と呼ばれる幾何学的な対象の間の関係であり、2つの カラビ・ヤウ多様体が幾何学的には全く異なっているにもかかわらず、弦理論余剰次元としてそれらを扱うと等価となる対称性のことを言う。この場合、多様体は互いに「ミラー多様体」であると呼ばれる。

ミラー対称性はもともとは、物理学者によって発見された。数学者がミラー対称性に興味を持ち始めたのは1990年頃で、特に、フィリップ・キャンデラス英語版(Philip Candelas)、ゼニア・デ・ラ・オッサ(Xenia de la Ossa)、パウル・グリーン(Paul Green)、リンダ・パークス(Linda Parks)らによって、ミラー対称性を数々の方程式の解の数を数える数学の分野である数え上げ幾何学で使うことができることが示されていた。実際、キャンデラスたちは、ミラー対称性を使いカラビ・ヤウ多様体の上の有理曲線を数えることができ、長きにわたり未解決であった問題を解明できることを示した(参照項目:ミラー対称性の応用)[1]。元来のミラー対称性へのアプローチは、理論物理学者からの必ずしも数学的には厳密(mathematical rigor)ではないアイデアに基づいているにもかかわらず、数学者はミラー対称性予想のいくつかを数学的に厳密な証明に成功しつつある[2]

今日では、ミラー対称性は純粋数学の主要な研究テーマであり、数学者は物理学者の直感に基づくミラー対称性を数学的に深く理解しつつある[3]。ミラー対称性は弦理論の計算を実行する際の基本的なツールでもある[4]。ミラー対称性への主要なアプローチは、マキシム・コンツェビッチ(Maxim Kontsevich)のホモロジカルミラー対称性予想のプログラムやアンドリュー・ストロミンジャー(Andrew Strominger)、シン=トゥン・ヤウ(Shing-Tung Yau)、エリック・ザスロフ英語版(Eric Zaslow)のSYZ予想[5]を含んでいる。

オーバービュー

ミラー対称性のアイデア

弦理論の基本的な対象物は開英語版と閉弦である。

物理学では、弦理論は、その中では素粒子点状の粒子とは考えずに、英語版と呼ばれる 1次元の対象で置き換えた理論的フレームワーク英語版(theoretical framework)である。これらの弦は通常の弦のループや小さな区分のように見える。弦理論は、どのように弦が空間の中を伝搬するか、互いに相互作用するかを記述する。弦のスケールよりも大きな距離スケールでは、弦は通常の粒子のように見え、質量電荷を持ち、弦の振動状態によりきめられる他の性質を持っている。弦が分裂したり結合したりすることには、粒子の輻射や吸収が対応し、粒子の間の相互作用を惹き起す[6]

弦理論の記述する世界と日常の世界の間には、確かに差異がある。日常生活では、3つの空間次元(上下、左右、前後)と、1つの時間次元(以後以前)が存在する。このように、現代物理の言葉では、時空は4次元である[7]。 弦理論の特別な有様の一つに、数学的な整合性のために時空の余剰次元(extra dimensions)を要求される。超弦理論である超対称性と呼ばれる理論上の考え方と両立する理論のバージョンでは、毎日の体験の中で慣れ親しんでいる4次元に加えて、6次元の時空の余剰次元がある[8]

弦理論の現在の研究の目標のひとつは、高エネルギー物理実験で観察される粒子を、弦が再現するようなモデルを構成することである。観察と整合性を持たせるためには、そのような時空の次元は4である必要があるので、通常の距離スケールでは弦理論の余剰次元を消し去る方法を見つけなくてはならない。弦理論を基礎とする最も現実的なモデルでは、コンパクト化と呼ばれる過程を通して行われる[9]。コンパクト化の考え方は、弦理論の特定の次元が円をなして自分で「閉じている」ようなものかもしれない。次元が巻きあがっている極限では、非常に小さくなり、有効理論ではより低い次元となっている理論を得る。このことの標準的な類似物は、庭のホースのような多次元の対象を考えることである。ホースを充分に遠い距離で見ると1次元となり、長さしか持っていないように見える。しかし、ホースに近づくにつれ、第二の円周という次元を持っていることが分かる。このようにして、ホースの表面を這う蟻は2次元的に動くことができる[10]

実 3次元でのカラビ・ヤウ多様体の断面を平面へ射影した図形

コンパクト化は、時空の有効次元が4次元となるようなモデルを構成することに使うことができる。しかし、余剰次元をコンパクト化する全ての方法が、自然を記述する良い性質を持つモデルを作り出すとは限らない。素粒子物理学で確認できるようなモデルを構成するためには、コンパクトな余剰次元はカラビ・ヤウ多様体の形をしている必要がある[9]。カラビ・ヤウ多様体は複雑な(典型では)6次元の形をしていて、あるテクニカルな条件を満たす。それらは、数学者のエウジェニオ・カラビ(Eugenio Calabi)とシン=トゥン・ヤウ(Shing-Tung Yau)の名前から命名された[11]

1980年代後半、弦理論のそのようなコンパクト化をすると、対応するカラビ・ヤウ多様体が一意に再構成されることが可能ではないことが分かった。代わりに、2つのカラビ・ヤウ多様体が同じ物理を持つことが発見された[12]。 これらの多様体はたがいに「ミラー」といわれる。全部の双対性はいまだ予想でしかないが、位相的弦理論の脈絡でのミラー対称性のバージョンがある。位相的弦理論はエドワード・ウィッテン[13] により導入された簡素化された弦理論のバージョンであり、このバージョンは数学者により厳密性(en:mathematical rigor)を持っている[2] 。位相的弦理論の脈絡では、ミラー対称性は、2つの理論、A-モデルとB-モデルがある正確な意味で等価であることを主張する[14]

弦理論のこれらのカラビ・ヤウコンパクト化が自然の正しい記述をもたらすかどうかは別として、異なるカラビ・ヤウ多様体の間のミラー対称性関係の存在は、重要な数学的結果である[15]。 弦理論に使われるカラビ・ヤウ多様体は純粋数学的には興味深く、ミラー対称性は、ミラーカラビ・ヤウと同等な問題を解くことで数え上げ代数幾何学の多くの問題を数学者が解決できるようにした[16]。 今日、ミラー対称性は数学の研究の活発な領域であり、数学者たちは今も物理学者の直感に基づくミラー対称性の数学的理解を深めようと努力している[17]

複素幾何学

トーラス

ミラー双対の片側に現れる幾何学の一種を理解するためには、ここで複素平面の点を同一視することで、トーラス(ドーナツのようにひとつの穴のあいた閉曲面)の構成を考える。このトーラスを構成するためには、最初に商

トーラス複素平面の中の平行四辺形の反対側の辺を同一視することで構成できる。このトーラスの複素構造は、大まかにいうと、トーラスの「形」を記述する。

このようにして得られるトーラスは、ひとつのトーラスが他のトーラスと連続変形可能であるという意味ですべて同値である[18]。 他方、トーラスは加法構造を持っているので、区別することが可能となる[14]。 すなわち、この方法で構成されたトーラスは複素構造を持っていて、そのようなトーラス上の任意の点の近傍は、複素平面の中にある領域のように見えることを意味する。

このトーラスの構成の中で、替わりに元のペアと共通因子(つまり、ある複素数

トーラスは2つの円の積であり、この場合は赤い円がピンクの円を定義する軸の周りを掃くようになった場合である。
アポロニウスの円

ミラー対称性の重要な数学への応用の多くは、数え上げ幾何学と呼ばれる数学の分野に属している。数え上げ幾何学では、典型的には代数幾何学を使い、幾何学的な問題の解の数を数え上げることに興味がある。数え上げ幾何学のもっとも早い時期の問題の一つに、ギリシャの数学者アポロニウスによる紀元前200年頃に提案された問題である。彼は、どのようにすれば与えられた3つの円に接する平面上の円はいくつあるかが分かるかと問うた[28]。 一般に、アポロニウスの問題の解は、8つの円が存在する。右の図は黒で示した3つの与えられた円の例を示している。

クレブシュ3次曲面英語版

数学の数え上げ問題はしばしば、多項式の値がゼロとなる点として定義されるいわゆる代数多様体という幾何学的対象のクラスに関係している。例えば、クレブシュ3次曲面英語版は左に図示してある4変数の3次多項式により定義される。19世紀の数学者アーサー・ケイリー(Arthur Cayley)とジョージ・サルモン英語版(George Salmon)の結果は、この曲面上にはちょうど 27 本の直線があるとのことであった[29]

この問題を一般化すると、上に述べたカラビ・ヤウ多様体であるクインティックスリーフォールド(5次多項式で記述される複素3次元多様体)の上に何本の直線を描くことができるかという問題となる。この問題は19世紀のドイツの数学者ヘルマン・シューベルト英語版(Hermann Schubert)により解かれ、彼はそのような直線はちょうど 2,875 本存在することを発見した。さらに、1986年に幾何学者、セルダン・カッツ(Sheldon Katz)が、クインティックスリーフォールドに完全に入っている(円のような)2次曲線の数は 609,250 個あることを証明した[28]

1991年頃には、数え上げ幾何学の古典的な問題の大半が解かれ、数え上げ幾何学への興味は下火になり始めていた。数学者マーク・グロス英語版(Mark Gross)によれば、「古い問題が解かれるとともに、人々はシューベルトの数を現代のテクニックを使いチェックするほうへ戻りはしたものの、非常に古めかしいものでした[30]。」 しかしながら、この分野は1991年5月にふたたび活発化し始めた。そのとき物理学者であったフィリップ・キャンデラス英語版(Philip Candelas)、ゼニア・デ・ラ・オッサ(Xenia de la Ossa)、ポール・グリーン(Paul Green)とリンダ・パークス(Linda Parks)は、ミラー対称性をクインティックスリーフォールドに含まれる3次曲線の数を数えることに使うことができるかもしれないことを示した。大まかにいうと、カラビ・ヤウ多様体の内部に完全に含まれる球として、3次曲線を考えることができる[16]。 キャンデラスと彼の協力者は、そのような6次元カラビ・ヤウ多様体は3次曲線をちょうど 317,206,375 個含むことができることを発見した[30]

クインティックスリーフォールド上の3次曲線を数えることに加えて、キャンデラスと彼の協力者は、数学者たちの得た結果をはるかに超える有理曲線の数え上げに関するより一般的な数多くの結果を得た[31]。 この仕事で使われた方法は理論物理学からの数学的には厳密(en:mathematical rigor)ではないアイデアを基礎としていたが、数学者たちはミラー対称性予想のいくつかを数学的厳密に証明した。特に、ミラー対称性の数え上げ幾何学の予想は、現在では厳密に証明されている[32]

理論物理学

数え上げ幾何学への応用に加えて、ミラー対称性は弦理論での計算の実行の基本的なツールである。位相的弦理論のA-モデルでは、グロモフ・ウィッテン不変量と呼ばれる無限個の数値により、計算することは極めて難しいが、物理的に興味のある量を表現できる。一方、B-モデルでは計算が古典的な積分へ還元することができ、非常に容易になる[33]。 理論家たちは、ミラー対称性を適用することで、A-モデルでの難しい計算を、等価であるが技術的にはやさしいB-モデル上の計算へ移し替えができるようになった。従って、現在ではこれらの計算は、弦理論の様々な物理的過程の確率を決定することに使われている。ミラー対称性は他の双対性と結合されて、一方の理論を別の異なる理論の等価な計算へ移し替える。この方法で別な理論の計算へ外出しすることにより、理論家たちは双対性を使わずには計算が不可能であった多くの量の計算が可能となった[34]

弦理論以外では、ミラー対称性は基本粒子を記述するために、物理学者が使う形式である場の量子論の一側面を理解することに使われる。例えば、ミラー対称性はゲージ理論の性質を理解することに使われる。ゲージ理論は、基本粒子の標準模型の中に現れ、高度に対称性をもった物理理論である。そのような理論は、近接した背景を伝播する弦から発生し、ミラー対称性はこれらの理論の計算をすることに有用な道具である[35]。実際、このアプローチは、ネーサン・サイバーグ(Nathan Seiberg)やエドワート・ウィッテンにより研究された 4次元の時空の中の重要なゲージ理論の計算の実行に使われ、ドナルドソン不変量の脈絡での数学に良く似ている[36]。 ミラー対称性の一般化として、3次元ミラー対称性英語版(3D mirror symmetry)と呼ばれるミラー対称性もあって、3次元時空の中の場の量子論のペアを関係付ける[37]

ミラー対称性へのアプローチ

ホモロジカルミラー対称性

D-ブレーンのペアに端点を固定された開弦

弦理論超重力理論のような関連する理論では、「ブレーン」(brane)が点粒子の考え方の高次元への一般化された物理的対象である。例えば、点粒子はゼロ次元のブレーンと考えることができるのに対し、弦は 1次元のブレーンとして考えることができる。また高次元のブレーンも考えることができる。ブレーンということばは、「メンブレーン」(membrane)ということばから来ていて、2次元のブレーンである。[38]

弦理論では、弦 (物理学)英語版は、(2つの端点を持つ構成となっている)開弦と(閉じたループになっている)閉弦がある。D-ブレーンは、開弦を考えるときに発生する重要なブレーンのクラスである。開弦は時空の中を伝搬し、その端点は D-ブレーンの上にあることを要求される。D-ブレーンの中の文字の "D" は、ディリクレ境界条件として知られているある数学的条件を導入するという事実から来る。[39]

数学的には、ブレーンはの概念を使い記述することができる。[40] これは対象と対象の任意のペアに対して、それらの間の(morphism)からなる数学的な構造である。大半の例では、対象はある数学的な構造を持っていて(例えば、集合ベクトル空間位相空間といった)、射はこれらの構造の間の函数により与えられる。[41] 対象がD-ブレーンで、射が2つのD-ブレーン の間の射が の間に伸びた開弦の波動函数であるとも考えられる。[42]

位相的弦理論のB-モデルでは、D-ブレーンのカテゴリは、その上に弦が伝搬するカラビ・ヤウ多様体の複素幾何学から構成される。数学のことばでは、カラビ・ヤウ多様体上の連接層導来圏として知られている。他方、A-モデルのD-ブレーンのカテゴリは、ミラーであるカラビ・ヤウ多様体のシンプレクティック幾何学から構成される。数学では、これは深谷圏英語版として知られている。[43] マキシム・コンツェビッチホモロジカルミラー対称性予想は、ある意味でこれらの 2つのブレーンのカテゴリが同値であることを言っている。[44]

SYZ予想

ミラー対称性を理解しようとするもう一つのアプローチは、アンドリュー・ストロミンジャー(Andrew Strominger)、シン=トゥン・ヤウ(en:Shing-Tung Yau)、エリック・ザスロフ英語版(Eric Zaslow)により1996年の論文で示唆された。[5] SYZ予想に従うと、ミラー対称性は複雑なカラビ・ヤウ多様体をより単純なピースへ分解し、これらのピースの上での T-双対を考えることにより理解することができる。[45]

オーバービューのセクションでトーラスを考えたことを思い出すと、このトーラスが2つの円のとみなすことができた。このことは、(図の中の赤い円として示したように)縦の円(経線)を集めた合併として考えることができることを意味する。これらの円をどのように編成するかという補助的な空間が存在し、この空間自体が円となる(ピンクの円で示した)。この空間はトーラス上で経線の円をパラメトライズすると言われる。上で説明したように、ミラー対称性は経線に作用するT-双対に同値で、半径 から へ変換することとなる。

SYZ予想は、このアイデアをより複雑な6次元カラビ・ヤウ多様体の場合へ一般化した予想である。トーラスの場合のように、6次元カラビ・ヤウ多様体をより単純なピースへ分割することができ、この場合には3次元トーラス英語版3次元球面によりパラメトライズされる。[46] T-双対はこの分解に現れるように、円から3次元トーラスへ拡張が可能で、SYZ予想はミラー対称性がこれらの3次元トーラスのT-双対の同時に適用さることと同値であることを言っている。[47] このようにして、SYZ予想はカラビ・ヤウ多様体の上にミラー対称性がどのように作用するかの幾何学的な素描を与えた。

歴史と発展

ミラー対称性の発見

ミラー対称性のアイデアは、1980年代中期まで遡ることができ、そのときは半径 の円の上の伝搬しているが物理学的には、適当な計量の単位をとると、半径 の円の上を伝搬している弦と等価であることに気付いたときである。[48] この現象は、現在ではT-双対として知られていて、ミラー対称性に密接に関連していることが理解されている。

1985年からの論文の中で、フィリップ・キャンデラス英語版(Philip Candelas)、ガリー・ホロビッツ(Gary Horowitz)、アンドリュー・ストロミンジャー(Andrew Strominger)とエドワード・ウィッテン(Edward Witten)は弦理論をカラビ・ヤウ多様体上へコンパクト化することで、大まかには理論が素粒子理論の標準モデルに似たものとなることを示した。[49] この発展につづき、多くの物理学者たちは、弦理論に基礎を持つ素粒子物理の現実に合うモデルを構成できるのではないかと期待し、カラビ・ヤウコンパクト化の研究を始めた。そのような物理的なモデルが与えるには、対応するカラビ・ヤウ多様体が一意に再構成することができないことには注意する必要があった。代わりに、同一の物理から発生する 2つのカラビ・ヤウ多様体が存在することを発見した。[50]

カラビ・ヤウ多様体とある共形場理論の間の関係の研究により、ブライアン・グリーン(Brian Greene)とローネン・プレッサー(Ronen Plesser)は、非自明なミラー関係にあることを発見した[51]。さらにこの関係の証拠は、プリップ・キャンデラス(Philip Candelas)とモニカ・リンカー(Monika Lynker)とロルフ・シームリック(Rolf Schimmrigk)の仕事からで結論されていて、彼らは計算機により多くの数のカラビ・ヤウ多様体を研究する中から、それらの中にミラーペアが現れることを発見した[52]

ミラー対称性の応用

数学者たちは1990年頃からミラー対称性に興味を持ち始めた。1990年頃は、物理学者のフィリップ・キャンデラス、ゼニア・デ・ラ・オッサ、パウル・グリーン、リンダ・パークス[53]らは、ミラー対称性を使うことで数え上げ幾何学において10年以上未解決問題であったものが解けることを示した[54]。これらの結果は、1991年のバークレーでの数理科学研究所英語版(Mathematical Sciences Research Institute)(MSRI)での研究集会で提案された。この研究集会の中で、有理曲線の数え上げ問題をキャンデラスの計算した数の一つが、ノルウェーの数学者ゲイル・エリングスラッド英語版(Geir Ellingsrud)とシュタイン・アリルド・シュトローム(Stein Arild Strømme)が見かけ以上に厳密なテクニックを使い得ていた数に不一致であることが認知された。[55] この研究集会で多くの数学者が、キャンデラスの仕事は、厳密な数学的な議論を基礎としていないので、誤っているのではないかとの前提に立っていた。しかしながら、それらの解を試してみると、エリングスラッドとシュトロームは、彼らの行った計算機のコードが誤っていることを発見し、このコードを正しくすると、解がキャンデラスと協力者たちの得ていた解に一致するという答えを得た。[56]

証明されたミラー対称性

1990年、エドワード・ウィッテンは弦理論を簡素化した位相的場の理論を導入し[13]、物理学者たちは位相的場の理論にもミラー対称性のバージョンが存在することを示した。[57] この位相的場の理論についてのステートメントは、普通は数学的な脈絡でのミラー対称性の定義として使われている。[58] 1995年、数学者マキシム・コンツェビッチ(Maxim Kontsevich)は、弦理論の物理的なミラー対称性にアイデアの基礎を置く新しい数学的な予想を提案した[59]ホモロジカルミラー対称性として知られているこのミラー対称性予想は、ミラー対称性を2つの数学的構造の同値性として定式化した。すなわち、カラビ・ヤウ多様体上の連接層導来圏とそのミラーの深谷圏英語版の同値性である。[59]

1996年から2000年にかけての、アレクサンダー・ギベンタール英語版(Alexander Givental)、ボング・リアン(Bong Lian)、ケフェング・リウ英語版(Kefeng Liu)、シン=トゥン・ヤウ(Shing-Tung Yau)はコンセビッチのいくつかのアイデアをどのようにして有理曲線の実際の数え上げに精密化して適用することができるかを示した。[2] これらの結果が、現次元での、ミラー対称性の数学的な証明をどのように考えるのかを示している。

関連項目

脚注

  1. ^ Yau and Nadis 2010
  2. ^ a b c Givental 1996, 1998; Lian, Liu, Yau 1997, 1999, 2000
  3. ^ Hori et al. 2003; Aspinwall et al. 2009
  4. ^ Zaslow 2008
  5. ^ a b Strominger, Yau, and Zaslow 1996
  6. ^ 入手可能な弦理論の入門書は、Greene 2000 を参照。
  7. ^ Wald 1984, p. 4
  8. ^ Zwiebach 2009, p. 8
  9. ^ a b Yau and Nadis 2010, Ch. 6
  10. ^ この類似は Greene 2000, p. 186 で例として使われている。
  11. ^ Yau and Nadis 2010, p. ix
  12. ^ Dixon 1988; Lerche, Vafa, and Warner 1989
  13. ^ a b Witten 1990
  14. ^ a b c d Zaslow 2008, p.531
  15. ^ Zaslow 2008, p.523
  16. ^ a b Yau and Nadis 2010, p.168
  17. ^ Hori et al. 2003, p. xix
  18. ^ Zaslow 2008, p.530
  19. ^ さらに詳しくは、トーラスはモジュラ群に対し基本領域英語版によりパラメトライズされる。
  20. ^ Zaslow 2008, p. 531
  21. ^ a b Zaslow 2008, p.532
  22. ^ Zaslow 2008, p.533
  23. ^ Yau and Nadis 2010, p. 160
  24. ^ Yau and Nadis 2010, p. 161
  25. ^ Yau and Nadis 2010, p. 163
  26. ^ Zaslow 2008, p. 529
  27. ^ Zaslow 2008, p. 534
  28. ^ a b Yau and Nadis 2010, p.166
  29. ^ Yau and Nadis 2010, p.167
  30. ^ a b Yau and Nadis 2010, p.169
  31. ^ Yau and Nadis 2010, p.171
  32. ^ Yau and Nadis 2010, p.172
  33. ^ Zaslow 2008, pp. 533–4
  34. ^ Zaslow 2008, sec. 10
  35. ^ Hori et al. 2003, p. 677
  36. ^ Hori et al. 2003, p. 679
  37. ^ Intriligator and Seiberg 1996
  38. ^ Moore 2005, p.214
  39. ^ Moore 2005, p.215
  40. ^ Aspinwall et al. 2009
  41. ^ A basic reference on category theory is Mac Lane 1998.
  42. ^ Zaslow 2008, p.536
  43. ^ Aspinwall et al. 2009, p.575
  44. ^ Aspinwall et al. 2009, p.616
  45. ^ Yau and Nadis 2010, p.174
  46. ^ より詳しくは、3次元球面の各々の点に付随した3次元トーラスが存在する。ただし例外は、特異点を持つトーラスに対応するある悪い性質を持つ点がありうる。Yau and Nadis 2010, pp.176--7を参照のこと。
  47. ^ Yau and Nadis 2010, p.178
  48. ^ This was first observed in Kikkawa and Yamasaki 1984 and Sakai and Senda 1986.
  49. ^ Candelas et al. 1985
  50. ^ This was observed in Dixon 1988 and Lerche, Vafa, and Warner 1989.
  51. ^ Green and Plesser 1990; Yau and Nadis 2010, p. 158
  52. ^ Candelas, Lynker, and Schimmrigk 1990; Yau and Nadis 2010, p. 163
  53. ^ Candelas et al. 1991
  54. ^ Yau and Nadis 2010, p.165
  55. ^ Yau and Nadis 2010, p.169--170
  56. ^ Yau and Nadis 2010, p.170
  57. ^ Vafa 1992; Witten 1992
  58. ^ Hori et al. 2003, p. xviii
  59. ^ a b Kontsevich 1995

参考文献

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  • Kontsevich, Maxim (1995). “Homological algebra of mirror symmetry”. Proceedings of the International Congress of Mathematicians: 120–139. 
  • Lian, Bong; Liu, Kefeng; Yau, Shing-Tung (2000). “Mirror principle, IV”. Surveys in Differential Geometry: 475–496. 
  • Mac Lane, Saunders (1998). Categories for the Working Mathematician. ISBN 978-0387984032 
  • Moore, Gregory (2005). “What is... a Brane?” (PDF). Notices of the AMS 52: 214. http://www.ams.org/notices/200502/what-is.pdf 2013年6月閲覧。. 
  • Witten, Edward (1992). “Mirror manifolds and topological field theory”. Essays on mirror manifolds: 121–160. 
  • Zaslow, Eric (2008), “Mirror Symmetry”, in Gowers, Timothy, The Princeton Companion to Mathematics, ISBN 978-0691118802 



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